News 2002年1月8日 08:06 PM 更新

Bill Gates氏が目指すユビキタスWindowsな世界――CES2002基調講演

Consumer Electronics Show前日の基調講演に立ったMicrosoftのBill Gates氏は,家電向けの新技術「Freesyle」「Mira」のデモを行った。同社は今後,この2つの新技術をベースに,家電分野でも“標準”を握ることを目指していくことになる。

 MicrosoftのBill Gates氏は,これまでもずっと「どこでも,いつでも,どんなデバイスでも」という言葉を使い続けてきた。どんな場所でもPC(もしくはそれに近いデバイス)のパワーを享受できる。そんな世界を目指したGates氏の目標は,果たして市場で受け入れられるのかどうかは不確定だが,ともかくも一歩その理想に近づいたようだ。

 彼の目指す理想の真の狙いは,ユビキタスな(つまり普遍的にどこにでも存在する)Windowsが作り出す世界を構築することだ。いや,これはGates氏がユビキタスWindowsと言ったのではない。しかし,極論を言うとそういうことになる。


CES2002基調講演のGates氏。ユビキタスWindowsの理想に一歩近づいたか?

3つの法則が示す3つのハードウェアトレンド

 Gates氏は基礎的なハードウェアのトレンドが,3つの法則から導き出せるという。1つは半導体業界ではよく知られたムーアの法則。18カ月ごとに半導体のトランジスタ数が2倍になるという法則だ。

 次に挙げたのはメトカーフの法則。これは「ネットワークの価値はユーザー数の二乗に比例する」というものである。

 最後がマックスウェルの法則。こちらは少し毛色が異なり,電磁気学の基礎を作り出したマックスウェル方程式のことである。この方程式は電磁波が電場を生み,その逆も真であることを示している。難しいことを抜きにして結論を言えば,電気信号を電波とし,電波を電気信号に変換するための基礎と考えていいだろう。

 Gates氏によると,ムーアの法則を極論すれば(Gates氏いわく,それは極論ではなく,真の意味だそうだが),マイクロプロセッサは想像もしないようなところにまで入っていくことを示している。メトカーフの法則は,例外なくすべてのデバイスが接続されることを示しており,マックスウェルの法則は,すべてのワイヤ(接続ライン)を取り払うことを意味するとなる。

 つまり,これは近年のPCライクな機能を備えたアプライアンスや,アプライアンスのネットワークへの参加,そしてワイヤレス技術の発展や市場規模の拡大という現代のトレンドを暗示したものだった,というわけだ。後付けではあるが,この方向性は基本的に正しい。そして,誰もがその方向に向かっている。異なるのは,その理想に向けての取り組みと各社を取り巻く状況だ。

新家電向けネットワーク技術のFreestyleとMira

 Gates氏は昨年11月に行われたCOMDEX/Fall 2001において,これからの10年が“デジタルの10年”になると講演を行った。そしてその鍵となる技術として,自然言語処理と Tablet PCを挙げたものの,本質的にこれまでのコンピューティングとの違いが何なのか,具体的な製品や例を示すことまではできなかった。

 今回,Gates氏はその答えを完璧に説明できたわけではないが,新しい2つの技術を提案することで,同社が向かう方向を示している。1つはFreestyle,もう1つはMiraだ。

 Freestyleは別記事にもあるように,音楽やビデオ,テレビ,写真といった家庭内に存在する様々なデジタルメディアを,シンプルな操作方法で自在に扱えるようにするためのユーザーインターフェイス技術だ。これはWindows XPに組み込まれている音楽や画像を扱う機能をさらに発展させ,シンプルなタブレット型インターフェイスでメディアデータやテレビを操ることができるようになる。


音楽を聴きながら(左下参照)デジタルカメラの画像を参照している
 

Freestyleの音楽機能

 MiraはディスプレイにプロセッサとWindows CEを組み込み,PCディスプレイとして利用しながら,PCとは切り離して単体でタブレット型デバイスとして扱えるようにしたハードウェアコンセプトである。ハンドヘルドコンピュータとして利用可能な他,Freestyleを用いてメディアデータにアクセスできる。また,Freestyleの画面を使い,Miraを他デバイスのリモコンとして利用することも可能だ。


Mira対応ディスプレイは、上図のように通常のディスプレイとして機能しつつ,下図のように単体のタブレット型デバイスとしても動作する

 デモではFreestyleが組み込まれたMiraディスプレイを机の上から取り出し,ワイヤレスネットワーク経由で様々なメディアをコントロールして見せた。Freestyle対応デバイスとしては他にHDTVも紹介され,HDTV上でFreestyleを使い画像を表示したりテレビのコントロール,録画予約,音楽再生などを行った。FreestyleにはSamsung,NEC,Hewlett-Packardが,MiraにはIntel,WYSE,National Semiconductor,ViewSonicが対応を表明している。


デモではFreestyleを組み込んだHDTVをリモコンで操作してみせた

Windows CE.NET対応デバイスもお披露目

 加えてかねてから登場が案内されていたWindows CE.NETもお披露目された。対応ベンダーはソニー,富士通,カシオ,日立製作所といった日本企業に加え,SiemensやCyberlink,Motorola,Samsungなどの大手企業がずらりと並ぶ。

 Windows CE.NETで注目されるのは,同OSが携帯電話に対応したことである。携帯電話向けコンポーネントセットのStingerをデモし,携帯電話でPocket PCのようにPCの連絡先やスケジュールを同期して表示させたり,Windows Mediaの再生を行ったり,Windows Messengerと連携したインスタントメッセージング機能を利用することが可能になる。こうした機能は携帯電話だけでなく,PocketPCやAutoPCなどにも反映されていく見込みだ。


携帯電話向けコンポーネントセットのStingerのデモ

 たとえば携帯電話機能内蔵のBluetooth対応PDAに,Bluetooth対応ハンドセットを組み合わせることで,ハンドセットからワイヤレスでPDAを通じて通話する製品が紹介された。


Windows CE.NETをサポートした様々なデバイス群も紹介された

 このほか,松下電器産業のWindows Media Audio対応DVDプレーヤーをはじめとするWindows Mediaの家電への進出を含め,ワイヤレスのホームネットワークの中にWindows技術が入り込み,サービスレイヤとして.NETが介在することで,あらゆるデバイスに入っていくことを目指す。

 今回,Gates氏が披露した技術はすでに存在する,現実的な技術であり,単なるコンセプトではないところがミソだろう。実際,ユーザーインターフェイスや機能の豊富さ,利用可能なサービスの品質などは,デモを見る限り現実的かつ魅力的なものに仕上がっている。

 しかし,それがすなわち今後のトレンドとは言えない面もある。それはアプライアンスの世界ではMicrosoftは支配者ではなく挑戦者であり,家電業界の中にはMicrosoftとの協業を全面的に押し出している企業は少数派だからだ。

 松下電器がDVDプレーヤーに"あくまで1つの音楽フォーマットとして"Windows Media Audioをサポートしたからと言って,それが標準への道への約束手形と見ることはできない。同様にパイオニアも今回のCESでWindows Media VideoをサポートしたDVDレコーダを展示したが,こちらもWindows Media Technology全体を後押しするという言葉を聞くことはできなかった。

 PCの世界ではMicrosoftが何かを決めれば,その技術はデファクトスタンダードへの約束手形を持つ(とは言え,すべての技術が成功するわけではないが)。しかし,家電の世界ではその威光も絶対的なものではない。Microsoftの力を過小評価するわけではないが,これらの正否ががMicrosoftの真の力量を問うものとなるだろう。

[本田雅一, ITmedia]

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