News 2002年2月20日 09:55 PM 更新

“神”だけが逮捕されるとは限らない──ACCSが継続的な摘発を示唆

違法なWinMXユーザに“警告IM”を送るなど,啓蒙活動に熱心なACCSだが,「今度も継続的な摘発が行われるだろう」と話す。第2,第3の逮捕者も出るのだろうか?

 昨年11月28日,ファイル交換ソフト「WinMX」のユーザーが逮捕された。あれから約3カ月。逮捕者が出る前と変わらない状況が続いている。抑止力は働かなかったのだろうか?

 もしかしたら,「逮捕されたのはあの2人だけ。自分は大丈夫」──そんなふうに考えているユーザーが多いのかもしれない。だが,気を付けたほうがいい。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)業部事業調整課の葛山博志課長は,「もはや,“神”だから逮捕されるというわけではない」と警告する。

 「世界初」の逮捕者であった2人のWinMXユーザーは,やり取りしているファイルの数,ならびに継続期間がほかのユーザーを圧倒。「非常に悪質」だったことが,摘発につながった(2001年12月5日の記事参照)。

 だが,葛山氏は「今後も,WinMXユーザーの摘発は継続的に行われると思うが,摘発にあたっては,継続性やファイルの数だけが判断材料になるわけではない。もう,違法ユーザーの絞り込みは行わない。また,京都府警だけでなく,複数の警察当局がこの件について大きな関心を持っている」と強調する。

 「この間の摘発は,決して“見せしめ”などではない」(同氏)。

 なお,葛山氏によれば,今後はビジネスソフトウェアだけでなく,音楽や映像など,幅広い方面から違法ユーザーを追い込んでいくという。

DOM避けパッチ

 違法ソフトが減る兆しを見せないWinMXだが,葛山氏は最近の傾向として,「ゼロパッチが流行している」ことを挙げる。

 ゼロパッチとは,簡単に言うと,インスタントメッセージを送らなければ,ファイルをもらえないようにするパッチ。そのユーザーが共有しているファイルを見ることはできるが,そのままではダウンロードすることはできない。「UP0パッチ」または「DOM(Download Only Member)避けパッチ」とも呼ばれる。

 ゼロパッチが普及すれば,テレビや雑誌を見て入ってきた初心者ユーザーが“極めて簡単に”ファイルを落とすことはできなくなる。ゼロパッチの配布元は既にWebサイトを閉鎖しているが,ファイル共有で広まっているもようだ。

 葛山氏はゼロパッチについて,「初心者ユーザーの参入障壁になっている。使い始めていきなり,IMでメッセージを交換したりしないだろう」と述べ,違法行為の抑制に一定の効果を上げていると見る。

 だが,葛山氏は「ゼロパッチによって,誰でもファイルをダウンロードできないようにしていても,権利侵害があれば見逃すことはできない。ゼロパッチは免罪符ではない」と念を押す。

「はいACCSです」「これって本物!?」

 ファイル交換ソフトでの権利侵害行為は,WAREZサイトと比べて被害規模が格段に大きくなると見るACCSは,違法ユーザーに対して断固とした措置をとっていく構えである。だが,摘発が最前の策だと考えているわけではない。

 ACCSでは,昨年末より違法ユーザーに対し,“警告IM”を送り続けており,その数は,4000ユーザーにおよぶ。「摘発は最後の手段。できれば,警告を真摯に受け止めて,ファイル交換ソフトの悪用を止めてもらいたい」(葛山氏)。

 IMを送り始めると,ACCSには問い合わせの電話がかかってくるようになった。IMにACCS調査課の電話番号を明記し,本当にACCSから送信されたものか確認したい場合は電話するよう書かれているからだ。

 「よくあったのが,“このIMは本物ですか”という問い合わせ。数件に答えると,2ちゃんねるにそのことが書き込まれて,問い合わせ件数が減った。また,こちらが電話を受けるとガチャンと切られることもあった」(葛山氏)。

 ACCSのWebサイトでも明記されているが,このIMが送られてきたからといって,必ずしも摘発されるわけではない。もちろん,IMが来ないからといって安心できるわけでもない。「これだけやれば,WinMXユーザーで何が違法行為か知らない人はいないはず。今後も権利侵害を続けるなら,それは悪質だと断定できる」(葛山氏)。

 また,ACCSではIMとあわせて,ファイル交換ユーザー動向追跡システムを使い,WinMXでの著作権侵害行為について監視の目を光らせている。まだデータを集計している段階であり,実際にこの追跡システムが何らかの効力を発揮したわけではないが,「IPアドレスが分かるので,どの大学からだとか,どのISPを使っているかということは分かっている」(葛山氏)。

 さらに,このほかの啓蒙活動として,ACCSではファイル交換ソフトと著作権に関する教育プログラムも展開する考えである。

 この間逮捕された2人が学生だったことからも伺えるがWinMXには,学生ユーザーが多い(特に大学生)。一部では,WinMXの利用が制限されている大学も出始めているが,葛山氏は「インターネットユーザーの低年齢化が進んでいる以上,大学だけでなく,高校生まで啓蒙の対象を拡大しなければならない」と危機感を募らす。

“2ちゃんねらー”に告ぐ

 WinMXユーザーが全て2ちゃんねらーだとは限らないが,WinMXは,何かと2ちゃんねるとセットで語られることも多い。実際,葛山氏も2ちゃんねるをよくチェックしているという。

 「2ちゃんねるを普遍化するつもりはないが,WinMXユーザーの声を拾えるのも事実。何か言いたいことがあったら,ぜひ書き込んでもらいたい」と呼びかける(ちなみに,昨年11月に逮捕者が出た直後には,葛山氏に直接電話をかけてきて,「今から止めれば捕まりませんか? もしそうなら,葛山さんの正式コメントとして2ちゃんねるに掲載します」と取材してきたツワモノもいたという)。

 呼びかけるまでもなく,これまでにも何度か2ちゃんねるで話題になったことのある葛山氏だが,ただ,「新規スレッドを立てるのだけは勘弁してほしい(笑)」とか……。

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▼ なぜ,“2人”のWinMXユーザーが逮捕されたのか?

関連リンク
▼ コンピュータソフトウェア著作権協会

[中村琢磨, ITmedia]

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