News | 2002年3月5日 11:59 PM 更新 |
「BoA」「Do As Infinity」「倖田來未」の3アーティストのCDに,コピープロテクト機能を搭載すると発表したエイベックス。日本初となるこの試みには,解決すべき課題が多いことも事実だが,それでも敢えて機能搭載に踏み切ったのはなぜか。
その狙いについて,エイベックス ネットワーク取締役コンテンツ事業部/e-ビジネス推進担当の松田徹氏ならびにエイベックス企画広報課長の山田敏瑛氏に話を聞いた(聞き手・中村琢磨)。
エイベックスからの要請により,3月5日付けの記事を一部修正しました。CDにコピーガード機能を搭載する場合,その判断にアーティストの意向がどれだけ反映されるかという点について,ZDNetとエイベックスの間で認識に違いがあったためです。事実誤認ではありません。
ZDNet:コピープロテクト機能の搭載について,さまざまな議論が起きていますが。
松田:音楽CDにコピープロテクト機能が付くことにより,PCで個人的に音楽を楽しんでいた人のユーザービリティが低下するのは事実だと思います。例えば,Macintoshには対応していません。ですから,Macユーザーの方からの問い合わせは多いのも事実です。これらについては,申し訳ないと言うしかないです。
確かに,サーバに楽曲をアップロードしてどこからでも聴くことができれば非常に便利ですが,一方で,ファイル交換ソフトによって違法な楽曲が広まっている現状も考慮してほしいです。エイベックスは,大きなリスクを背負って,一石を投じました。誰かがやらなければならなかったことです。
山田:本音では,コピープロテクト機能など搭載したくなかったという気持ちもあります。ただ,そうしなければならないほど,ネットで違法な音楽が広まっているのです。また,今回の件でエイベックスにクレームを付けるのではなく,自分の周囲でファイル交換ソフトに楽曲をアップしている人に,それはいけないことだと注意してほしいですね。
また,ほかのレコード会社は,「よくぞやってくれた」と応援してくれていますが,それでも,3月13日(BoAのコピープロテクト機能搭載CD発売日)のことを考えると不安にもなります。
ZDNet:音楽業界は,シングルCDの売り上げ減少について,ファイル交換の責任を主に追求していますが,ほかに原因は考えられないのですか?
松田:確かに,ファイル交換ソフト以外にも,携帯電話料金の支払いなどにお金が回っていることが,シングルCDの売り上げが減っていることに関係していると思います。ただ,ファイル交換ソフトをはじめとする違法な流通の影響と思われる現象も実際に起きています。
以前は,シングルCDが発売されてから,バックオーダーが減少するペースは非常にゆっくりでした。時間をかけて減っていくという自然なカーブを描いていました。実際の数字は出せないのですが,最近の傾向として,このカーブが発売から1〜2週間で激減するようになれました。これは,購入されたCDが,CD-Rやファイル交換ソフトで流れているからにほかならないと思っています。
先日,あるデパートで見かけた光景なのですが,中学1〜2年生ぐらいの女の子たちが,CD-Rを買い漁っていました。おそらく,音楽CDを焼いて交換するのでしょう。以前は,CD-RやCD-RWなどはPCのヘビーユーザーのアイテムだと思われていましたが,もはやそんなことはありません。信じられないなら,実際に中学生にアンケートを取ってみるといいですよ。
ZDNet:そういった中学生の行為が,大きな脅威なのですか?
松田:そうです。われわれがコピープロテクト機能で本当に防ぎたいのは,こうした“カジュアルハッキング”なのです。多少技術や知識があるユーザーならば,コピープロテクトを破るのもそう難しくはないでしょう。その方法もネットで出回ってしまうでしょう。
もちろん,それを容認するわけではありませんが,とにかく,「音楽はタダで手に入る」という風潮を打ち消すことが大事だと考えています。当然,一朝一夕にできることではありませんけれども。
ZDNet:若年層がCDを買わないのは,シングルCDが高価だからだとは考えられませんか? ネット配信は1曲200円に値下げしましたね
松田:正直言って,どこかのレコード会社のように,1曲500円でCDを発売したからといって,たくさん売れるようになるとは思っていません。中学生や高校生は,わずかなお金を携帯電話の料金の支払いに回しています。止められたら困るでしょうから。ではなぜ,携帯電話の通話を減らして,音楽CDを買わないのかといえば,それは,友人やネットから無料で手に入るからです。
それに,CDが高いという指摘ですが,エイベックスはこれまで,シングルCDの付加価値を高める方針でやってきました。それに,最近の浜崎あゆみのCDなど,収録曲数を考えれば,1曲当たりの単価は下がっているのではないでしょうか。
ネット配信については,2年間という期間を経て値下げに踏み切ったわけですが,音楽配信のインフラも整いましたし,これで行けるだろうと判断しました。現在は,月間約3万件のダウンロードがあります。
1カ月にシングルCDをこれだけ売るのは大変なことですから,成果はあがっていると言えるのではないでしょうか。値下げによって,この量を2倍にしたいです。
ZDNet:音楽CDは値下げできなくても,ネット配信は値下げできる?
松田:価格設定は非常に難しいものです。ネット配信は立ち上がったばかりのサービスであり,まずは350円でスタートしたということです。サービス開始時から,「いつでも値下げできる」と話していいたはずです。
ZDNet:コピープロテクト機能搭載を発表した翌日に,ネット配信の値下げが発表されました。音楽CDのリッピングができなくなるわけですから,シリコンオーディオで聴きたい場合は,基本的にネットで買うしかなくなります。一連の発表は,ダウンロード販売を促進するためでもあるのですか?
松田:それは違います。ネット配信はネット配信で事業を大きくしたいですが,今回のコピープロテクトの件と値下げの件は全く関係ありません。たまたまタイミングが近かっただけです。
ZDNet:ただ,カジュアルハッキングを防止するとはしながらも,今回採用したコピー防止技術だと,一部のドライブではリッピングできてしまうようですが。
松田:それについては,現在フィールドテスト中です。
ZDNet:また,ドライブメーカーやソフトメーカーは今回の件について,困惑していますが。
松田:先日のZDNetの記事を見ましたが,非常にニュートラルな立場からコピープロテクト機能の問題点を指摘していたと思います。
ただ一点,ニュートラルではない部分がありました。ドライブメーカーやソフトメーカーに取材した部分で,なぜそういったメーカーが今まで,こちらに断りもなく楽曲のコピーを助長するようなマーケティングを行っていたことについて触れないのでしょうか?
これまで,好き勝手やっていたのはそちらではないのかという議論も成り立つはずです。われわれは,聴くために楽曲を製作しているのであって,コピーしてもらうために作っているわけではありません。
ZDNet:今後,エイベックスの全てのアーティストのCDについて,コピーガード機能を搭載する予定ですか?
山田:関係者の間で同意が得られれば,基本的にはその方針です。
松田:CDのコピープロテクトはDVDに比べたら脆弱なものです。ファイル交換ソフトの取り締まりについても,イタチごっこだと思います。結局は,真に違法コピーを防止するには,CDメディアが収束に向かい,音楽も映像付きでDVDで提供されるようにならないと駄目でしょう。
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