News 2002年6月13日 06:44 PM 更新

サッカーだけじゃない! 「RoboCup」の魅力

6月19日に、ロボット競技の世界大会「RoboCup-2002 福岡・釜山大会」が開幕する。成長著しいこのイベントを楽しむために、まずRoboCupがどんなものなのかを説明しよう

 「ロボカップ-2002 福岡・釜山大会」(RoboCup-2002 Fukuoka/Busan)が6月19日〜25日(一般公開は20日〜23日)に、福岡ドームで開催される。今回は初めて2足歩行ロボットによるサッカーが行われるとあって注目度も高いが、“サッカーだけではない”RoboCupの魅力を紹介しよう。

RoboCupとは

 RoboCupは、ロボットの国際的な競技会で、1997年に第1回大会が行われて以来、毎年開催されており、今年で第6回となる。競技は、まず大きく3つの分野に分けられる。

【RoboCupSoccer】  自律型ロボットによるサッカーだ。目標として掲げるのは、「西暦2050年までに、人間のサッカーのワールドカップ優勝チームに勝てる自律型ロボットのチームを作ること」*1。でも、まだまだ道のりは長い。

 現在、RoboCupSoccerの競技は、さらに次の5つのリーグに分かれている。

  • 小型ロボットリーグ 卓球台とほぼ同じ大きさのフィールドで、直径18センチ以内に入る小さなロボットが5台以内でチームを組み、オレンジ色のゴルフボールを使って対戦する。 20チーム参加予定。

  • 中型ロボットリーグ 卓球台9台分の大きさのフィールドで、直径50センチ以内に収まるロボット4台でチームを組み、オレンジ色のサッカーボールで対戦。前大会まであった、「周囲の壁」は今回からなくなった。18チーム参加予定。

  • 四脚ロボットリーグ おなじみソニーの「AIBO」が4対4でゲームを行なう(去年までは3対3だった)。いまのところ、まがりなりにも「足」でサッカーのプレイができるのはこれだけだ。9チーム参加予定*2

  • ヒューマノイドリーグ 今年から始まった。「2足歩行ロボット」によるリーグ。将来はこのリーグが発展して(他のリーグでの研究結果もここにつぎこまれていって)、人間と戦うことになるわけだ。とはいえ、まだ第1回だ。実際にサッカーのプレイをするのは無理。つぎのような競技を行うことになる。

  • 歩行:ロボットの身長×5の距離を往復する時間を競う
  • ペナルティキック:各チーム5本のシュートでゴール数を競う(キーパーはいない)
  • フリースタイル:各ロボットが、自分の特長をみせるためのデモンストレーション

 また、参加資格として「片足立ちができること」が必要。10チーム参加予定。


ヒューマノイドリーグの優勝者に手わたされる「ルイ・ヴィトン ヒューマノイドカップ」。バカラ社のクリスタルグラス製。今後、ヒューマノイドリーグ出場者はこのカップを争奪することになるのだ

  • シミュレーションリーグ コンピュータのソフトウェア同士の戦い。11対11で戦う。各プレイヤーには体力、速度といったパラメータがある。実機がないだけに、もっとも高度なサッカーができる。地味だけどおもしろい。*3。45チーム参加予定。

【RoboCupRescue】 昨年より新しく始まった分野。災害救助などを想定したレスキュー活動の優劣を競う。2つのリーグに分かれる。

  • レスキューロボットリーグ 模擬的倒壊家屋を用意して、レスキューロボットが、被災者役の人形を発見する速度と精度を競う。

  • レスキューシミュレーションリーグ コンピュータ上に再現された仮想大規模災害空間で、災害時の救助戦略の優劣を競う。マップデータとしてゼンリンの3D地図が使われるし、シミュレーションのためにSGIのスーパーコンピュータが使われる(これはRoboCupSoccerのシミュレーションリーグもそう)。

【RoboCupJunior】 子どもたちのためのリーグ。つまり、ロボカップの次世代の担い手を育てるためのものだ。「サッカー」「ダンス」の2競技からなる。

 RoboCupの思想として、成果はオープンにするということがある。つまり、大会が終わったら、出場したロボットの仕様はハードウェア、ソフトウェアともに完全に公開されるのだ。だから、ある年に強かったロボットは次の年にはみんなまねしてくる、あるいは研究されてくるということになる。切磋琢磨が激しくなり技術の進歩も速くなる。また、参加者は毎年同じスタートラインにたてるから、新しいチームの参加もやりやすい。

 RoboCupプロジェクトは、「西暦2050年までに、人間のサッカーのワールドカップ優勝チームに勝てる自律型ロボットのチームを作ること」という旗印をあげているけど、もっと大きな目標は、人と共存できるロボットを作ること*4、そのための技術を作ることなのだ。

なんでソニーは出ない?

 6月12日には、報道関係者向けにRoboCup-2002の説明会が行われた。RoboCup-2002実行委員会副会長の松原仁氏(はこだて未来大学)の司会のもと、RoboCup日本委員会会長の浅田稔氏(大阪大学)によるロボカップそのものの紹介、RoboCup国際委員会委員長の北野宏明氏(北野共生プロジェクト)によるRoboCupの意義といった話から始まった。この3人は、ロボカップというものをたちあげて、いまのような形にまで持ってきた功労者、あるいはロボカップの顔とも言える方々だ。

 次に、RoboCup-2002の「パートナー」である日本SGIのCEOの和泉法夫氏が、「インターナショナル」「オープン」「夢」「社会貢献」「科学技術発展への寄与」をキーワードに協賛の理由を語った。特に「科学技術発展への寄与」については、SGIはもともとジム・クラークが研究室ではじめた会社ですからという形で、意義を強調していた。途中、Posyも登場。ロボカップでもプレゼンテータの役割をになうのだそうだ。


 続いておなじくパートナーのゼンリンの副社長の林秀美氏。RoboCupは最初、ロボットがサッカーをするという興味だったのだけど、そのほかにRoboCupRescueというのもある。「お、それなら、うちの会社もまきこめるかもしれない」という形で協賛までこぎつけたのだそうだ。ゼンリンの持っている全国の地図データ、とくに3Dの地図は、実際の災害時には、建物の倒壊度や災害位置の検索という形で使えるだろうとのこと。

 つづいてソニーエンターテインメントロボットカンパニービジネス戦略部統括部長の武藤克巳氏が、先ごろ公開された「OPEN-R」の紹介をおこなった。質疑応答の時間には「ソニーの二足歩行ロボットのSDRはヒューマノイドリーグにエントリーされていないが、それはなぜか」という鋭い質問が浴びさせられた。答えは「SDRはいまのところ家庭内での使用を目指すということに開発の方向がむいてしまっているため」だそうだ。

 最後にRoboCup公式応援サイトを運営している日本オラクルのソリューションコンサルティング本部専務執行役員の東裕二氏。リアルタイムに情報を蓄積し検索できる「ナレッジチャネル」をサイトの情報システムに使用している。

 もう一人、Jリーグの川淵三郎チェアマンからのビデオレターも紹介された。「かつては2足歩行ロボットというのは難しいとされていましたが、今では簡単に歩けるようになったそうです」(ここで、浅田稔氏をはじめとする研究者の人たちが一斉に首を振ったのがよかった)などというところからはじまってドキドキしたのだけど、ちゃんと「おそらくは失敗の連続でしょうが、それも楽しんでください」という実によくわかってらっしゃるところで収めた。

 さらに、OPEN-RのデモとしてのAIBOのデモ、ヒューマノイドリーグのデモとして大阪大学の浅田研究室による2足歩行ロボットのデモが行われ、ちゃんとボールのキックに成功。拍手を浴びた。


カメラの砲列の中、シュートを決めるロボット(動画はこちら)。


左より北野宏明、松原仁、林秀美、和泉法夫、武藤克巳、東裕二、浅田稔 (敬称略)


*1人工知能の研究が始まったのが1950年ごろで、チェスチャンピオンのカスパロフにディープブルーが勝ったのが1997年。ライト兄弟の初飛行が1903年で、アポロ11号が月に行ったのが1969年。「50年後」という数字はだいたいこのあたりから来ているらしい
*2今回の大会には間に合わなかったが、ソニーがOPEN-Rの仕様を公開したことにより、このリーグに一般参加ができるようになった
*3すでに、オープンスペースを作ったり、オフサイドトラップを仕掛けたりなんていうことは当たり前にやるそうだ
*4危ないロボットだったら、勝ち負け以前に、人間と試合をしてもらえない。試合をしてもらえるレベルのロボットが作れたら、それでもうプロジェクトとしてはかなり成功なのだ。サッカーのような接触プレイのあるゲームが選ばれた理由はここにもある

[こばやしゆたか, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.