News 2002年6月18日 09:29 PM 更新

「全ては“20ミリ”から始まった」――DiMAGE X 開発秘話

プリズムで光を90度曲げ、ズームシステム自体をボディに収めた「屈曲光学3倍ズームレンズ」が特徴のDiMAGE X。世界最薄の20ミリという厚さを可能にしたこの画期的な光学系が生まれた背景や苦労話を、開発者に聞いた

 「全ては“20ミリ”というボディの厚さから始まったんですよ」――ミノルタでDiMAGE Xの開発に携わったカメラ事業部DP開発12課担当課長の中島英和氏は、開口一番こう語った。

 DiMAGE Xは、撮影レンズの第1成分に高精度プリズムを配置することによって光を90度曲げ、ズームシステム自体をボディに内蔵した独自開発の「屈曲光学3倍ズームレンズ」を採用している。この画期的な光学系によって、サイズが84.5(幅)×72(高さ)×20(厚さ)ミリ、重さが約135グラム(電池、メディア別)と非常にコンパクトに仕上がっている。特に20ミリという厚さは、光学3倍ズーム搭載機としては世界最薄となる。


光学3倍ズーム搭載機としては世界最薄となるDiMAGE X

20ミリの基準は、ビジネスマンの胸ポケット

 DiMAGE Xの開発コンセプトは“常に持ち歩けるデジカメ”。いつでもどこでも携帯できる大きさとして、「ビジネスマンの胸ポケットに入るサイズを基準にした」(中島氏)という。

 「どのくらいの厚さなら、ユーザーは胸ポケットに入れようと思うだろうか」――。開発陣の試行錯誤は、この疑問からスタートした。DiMAGE Xの開発が始まった1999〜2000年当時のデジカメは、薄いのものでも30ミリ前後あった。「この厚さで胸ポケットに入れると、どうしてもかさばって違和感がある」。中島氏ら開発メンバーは、モックアップを17ミリから25ミリまで1ミリ間隔で作成し、どこまで薄くすれば違和感がなくなるかを検証した。

 こうして、“20ミリ”という目標が決まった。

 DiMAGE Xは、性能面でも妥協は許されなかった。「スペック的に他のデジカメと見劣りするような部分があると、“常に持ち歩いて”もらえなくなる。光学ズームは2倍では物足りなく感じるので3倍とし、画素数も200万画素とした」(中島氏)。

 しかし、コンパクトデジカメで主流の沈胴式では最低でも25〜26ミリの厚さが必要で、20ミリに3倍ズームを収めるのは無理だった。そこで中島氏が最初に考えたのは、オペラグラスのように薄型ボディの水平方向にレンズを搭載することだった。だが、この横型スタイルでは、液晶ディスプレイを水平面に装備しなくてはならない。「これでは撮影時に液晶画面が見づらくなってしまう。サッと取り出してすぐ撮影できるというDiMAGE Xのメリットをアピールできない」(中島氏)。


中島氏が最初に考えたDiMAGE Xのコンセプト図。上面が液晶ディスプレイ

 「横型スタイルがダメならば、光を受ける最初の部分(第1成分)で光を曲げて、縦型スタイルにすればいいじゃないか」という発想から、屈曲光学システムの開発がスタートしたという。

紆余曲折の末に誕生した屈曲光学システム

 カメラは銀塩・デジタル問わず、薄くして小型化するという共通の課題を持っている。そのため同社でも、銀塩カメラの要素技術として、屈曲光学系の開発は以前から行われていた。中島氏はすかさず、その開発メンバーと一緒になって、屈曲光学システムの開発に乗り出した。

 しかし、光学系を曲げるというのは、デジカメはもちろんのこと、銀塩カメラでも珍しい。ファインダシステムで使われるぐらいで、撮影光学系で使われることはまずなかったのだ。

 「当初、単純に曲げればいいかなぐらいに思っていたのだが、光学系を曲げたことによる課題が次々と出てきた」(中島氏)。


DiMAGE Xの屈曲光学システム

 DiMAGE Xでは、光を光学系の前部で曲げているが、実は光学系は後部で曲げる方がはるかに楽にできる。光学系の後部で曲げた場合は、曲げたことによって出てくる誤差だけで済むが、前部で曲げると誤差が後ろのレンズでかけ算になって増えるからだ。

 撮影光学系で光を90度曲げる場合に必要な精度が、角度でいうと「5分」。つまり、1度の1/12という誤差で収めなければいけなかった。「5分という角度は、100メートル先でも15センチぐらいしかずれないという精度。このような極めて許容範囲の狭い中で、プリズムを組み込まなくてはいけなかった」(中島氏)。

 もともとカメラメーカーの同社は、光学系開発に関する環境は整っていた。しかし、光学系を90度曲げるというカメラはこれまで存在しなかったため、光学系の各種測定装置も、全て屈曲光学システム用に作り直したという。    「光を90度正確に曲げなくてはいけないのに、それが正確に90度なのかを測るシステムすらなかった」(中島氏)。

 このような紆余曲折を経て、世界初のデジカメ向け屈曲光学システムが誕生した。

明るいズームレンズも屈曲光学システムの副産物

 DiMAGE Xは、広角側(ワイド端)でF2.8、望遠側(テレ端)でもF3.6と、光学ズーム搭載のコンパクト機の中でもレンズが明るいのが特徴だ。

 「基本性能に妥協しないためにも、明るい光学系は絶対必要だった。その一方で、外側に見えるレンズが大きいと、いかにも撮影しているという威圧感があるのでレンズ径は小さくしたかった。小さなレンズ径でF値を稼ぐという難題にも、屈曲光学システムが活躍している」(中島氏)。

 沈胴式のコンパクトデジカメでは、第一成分に凹レンズを使う方式がよく見られる。これだと、レンズの全長を短くすることができるかわりにF値が暗くなるというデメリットがある。コンパクトデジカメで、望遠側のF値が4以上のものが多いのはそのためだ。

 それがDiMAGE Xでは、F値が明るくなる凸レンズを第一成分に使っている。レンズの全長が必要となるという凸レンズのデメリットも、ボディ内にレンズを収めることができる屈曲光学システムによって解消できたたというわけだ。

 「プリズムを使って光を曲げたことにより、ボディの縦サイズ一杯をレンズの長さとして使うことができ、沈胴式に比べてレンズ設計に余裕が生まれた。これによって、沈胴式ではできなかったレンズ構成が可能になった」(中島氏)。


沈胴式ではできなかったレンズ構成を可能にした屈曲光学システム

 「これまでのカメラの常識を覆す光学システムには、社内でも反発があった」と中島氏は振り返る。銀塩カメラでは歴史がある同社も、デジカメ市場ではやや出遅れた感は否めなかった。それだけに、カメラメーカーらしい基本に忠実なスタイルのデジカメを、という声があったのも事実だ。「しかし屈曲光学システムなくして、このサイズはあり得なかった。市場に与えるインパクトを考えても、20ミリという厚さは絶対に実現したかった」(中島氏)。


DiMAGE Xの開発に携わったカメラ事業部DP開発12課担当課長の中島英和氏

 先月、DiMAGE Xがカメラグランプリ2002の「カメラ記者クラブ特別賞」を受賞した。大衆性・話題性・先進性などで特に優れた製品に贈られるこの賞に選考された理由が「屈曲光学3倍ズームレンズ」。性能・デザイン・コンパクト化のバランスを実現し、コンパクトデジタルカメラ部門に新たな道を切り開いたこのエポックメイキングな光学系が、受賞の決め手となったのは、いうまでもない。

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[西坂真人, ITmedia]

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