News 2002年6月25日 04:24 PM 更新

4年後はもっと便利に――W杯ITサポートの東芝

2002/2006ワールドカップの公式スポンサーである東芝。IT業務サポートを担当したが、今回は準備時間不足ということもあり、真価を発揮したとは言えない。そのため東芝では「2006年ドイツ大会では今回の経験を踏まえて新しいサービスを提供したい」と意気込む

 日韓共催のFIFAワールドカップもいよいよ準決勝。残念ながら日本代表が敗れ、人気の欧州勢もどんどん姿を消してしまったが、韓国の準決勝進出など話題には事欠かない。そのワールドカップ中継を見ていると頻繁に登場するDynaBookのコマーシャル。この中で現れる「FIFAワールドカップ公認」の一文。東芝がワールドカップの背景で何をやっているのだろうか? その背景について、デジタルメディアネットワーク社経営企画部戦略マーケティング担当グループ長の蒔田和明氏に話を伺ってみた。

FIFAとは相思相愛でパートナーに

 4年前のFIFAワールドカップフランス大会では、米Hewlett-Packard(HP)が担当したIT業務のサポート。当時のHPは、すべてのコンピュータハードウェアとシステム設計、ソフトウェア開発、ネットワークサポートまで、ITに関わるすべてを一手に引き受けた。では今回、東芝はどのように関わったのだろうか?

 「契約が決まったのは昨年の6月、ちょうどコンフェデレーションズカップの時期です。FIFAはワールドワイドでPCとサーバの事業を両方展開している世界的企業を探していて、われわれも世界中に自分たちの製品が信頼性の高いものであることをアピールする機会を求めていましたから、相思相愛で結ばれたと言っていいと思います」と蒔田氏。「信頼性やサポートサービスのレベルが高い世界的なブランドであるということで、複数の候補から東芝を選んでもらえたのではないでしょうか」(同氏)。

 具体的には、日韓共催ワールドカップ用に、1500台以上のパソコンとサーバを納入したそうだ。横浜には各国から集まる放送、出版などのメディアをサポートするインターナショナルメディアセンターが設置されているが、ここで使われている機器やサーバなどのハードウェアはすべて東芝の製品。さらに各会場近くにあるメディアセンターにもPCを納める。



 FIFAが使用しているITシステムの多くは、フランス大会時にある程度完成されており、それを改良する形で今回の大会でも運用されているため、システム構築などの作業は発生していないが、全試合の様々な角度からの映像を蓄積し、一瞬で望みの場面や過去の記録などを引き出せる「INFO2002システム」など、高度な情報システムを余裕でこなすパワーと高い信頼性の両方が要求される。

 今回の大会でも、特に日本戦においてはINFO2002用に設置した数10台の端末が集中的にフル稼働したそうだが、能力的にも信頼性の面でも余裕でピークトラフィックをクリアできたという。

エンドユーザーサポートの面でもアピール

 蒔田氏によると、エンドユーザーサポート面で取り組んだ部分もあるという。その1つが、全メディアセンターとともに併設した故障時対応を行うサポートセンターである。

 このサポートセンターでは東芝製PCの故障対応やネットワークへの接続をはじめとする様々なトラブルに対応している。カメラメーカーが、スポーツイベントでプレス向けにレンズ・ボディ貸し出しや修理などのサポートを行っているのと同じように、PCを使ってFIFAワールドカップ報道を行うプロをサポートするのが目的だ。

 故障時には英語版、日本語版のいずれかの「DynaBook」を代替機として提供、そのバックヤードで修理対応を迅速に行う。もっとも、期間中は大きなトラブルもなく、そうした面では少し拍子抜けの面もあるようだ。ただ、こうしたサポート面が評価されているのか、評価は上々で秋葉原などの量販店では海外仕様のDynaBookが予想を大きく超えるほど大量に売れ、驚いているところだとか。

 このほか、東芝のコマーシャルにも登場するチームの宿泊や交通など、様々な周辺サポートを行うJAWOC(ワールドカップ日本組織委員会)の職員、チームリエゾンに提供しているのも同社の「DynaBook SS」だという。軽量、長時間バッテリ駆動、無線LAN内蔵、毎日持ち歩いて利用する際の信頼性や強度などだ。同時にPocketPCの「ジェニオ」シリーズもJAWOCに大量納入した。


ドイツ大会に向けて

 こうしてFIFAワールドカップに関わる蒔田氏のこと。入手難のチケットも、関係者席でみることができるのだろうか?と邪な想像を働かせてしまったが、「いや社内的にも問題がありますから、会場には仕事で試合中に出入りしましたが、試合そのものは全く見ていないんです。個人手配のチケットも取れなかったので、今回のワールドカップは見れそうにありません」と話す。余談だが、チケット発券のシステムはソフトウェアもシステムインテグレートの面でも、そしてハードウェアの面でも東芝は全く関わっていないそうだ。蒔田氏も「多くの問い合わせが入りましたが、我々はいっさい関わっていないので……」と困惑しているようだ。

 そんな蒔田氏に次回ドイツ大会への抱負を訊いてみた(東芝は2006年ドイツ大会の公式スポンサーにもなっている)。今大会では特に大きなトラブルは無かったようだが、その背景にはたった1年の準備期間しかなく、複雑なことを行う余裕が一切なかったためでは?と も外野の目には映る。    例えば、せっかくPDAとDynaBook SSを提供するのであれば、会場近くや各国キャンプ地周辺に無線LANアクセスポイントを設置したり、モバイルデバイスを利用するメディアやファンを対象に、出先周辺の食事や宿泊、交通などの情報を無線LANアクセスポイントの場所と連動して提供するなどのやり方もあったはず。そして、その方が広告的な効果は上がったことだろう。

 この点について蒔田氏は「いいわけになるかもしれませんが、時間が無かったというのが最大の理由になります。1年前に契約し、それから準備委員会を設置して、各カンパニーへの支援を依頼し、各分野個別に対応を進めるという方法で今大会を乗り切りました。あまり今大会でシステム面の広報活動を行わなかったのも、このあたりに理由があります。とりあえず、初めての経験で良い結果を出さなければなりませんから。しかし、次回ドイツ大会では4年間の準備期間があります。様々なアイディアを実現するサービスも、機器やそのサポートと同時に提供できると思います」と反省を含めて話してくれた。

 4年後、その成果を確かめるにはドイツ大会はあまりに(時間的にも距離的にも)遠いが、せっかくなので仕事がらみを言い訳に、今からドイツ大会貯金をはじめることにしよう。4年後は東芝もPC業界も大きく変化していることだろう。東芝の進化に期待したい。

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[本田雅一, ITmedia]

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