News | 2002年7月5日 03:44 PM 更新 |
ロボカップのヒューマノイドリーグには、「ERATO 北野共生プロジェクト」から「morph3(モルフ・スリー)」というロボットが出場した。残念なことにソフトウェアの開発が間に合わず、大会では実力を発揮することはできなかったのだけど、そのかっこいいデザインは会場の注目を浴びた。それに、去年のCEATECで、わたしたちをびっくりさせたあのmorphの流れを汲むマシンなのだ。ただものではないはずである。
「RoboCup-2002」初日の6月19日、morph3の開発者である共生系知能グループグループリーダーの古田貴之さんと、デザインを担当されたLeading Edge Design corp.の山中俊治さん、そして音楽担当の宇宙博覧会DAJI.Takeuchiさんの3人にお話をうかがった。3人がそれぞれのことを担当しているように書いたけど、実際はもっと有機的に役割が絡み合っているようだ。(聞き手:こばやしゆたか)
「機能」と「デザイン」の一体化
ZDNet:最初に、morph2から何が変わったのか教えてください。見た目からすると、コンセプトそのものが違いそうなのですが
古田:まず、ロボットの「機能」と「デザイン」というものを一体化できないかということを、山中さんにお願いしました。その時点で大きく違います。これは、山中さんのほうからお話いただいたほうがいいかな。
ZDNet:その「機能とデザインの一体化」というのは、山中さんよりも先に、古田さんが出したアイディアですか?
古田:なんとなくいっしょですね。
山中:基本的には、古田さんと北野さん*1から依頼があったわけですけども、どうやるかが決まってなかったときに、なんとなく「“ガワのデザインじゃないだろう”っていうのは出ました。
ZDNet:「ガワ」というのは、筐体という意味ですね。
山中:そうですね。従来のロボットの手法だと、中身を作ってからプラスチックのケースに入れるっていうやり方をしている。
ZDNet:PINOでさえもそうですね。
山中:それに、「ASIMO」なんかも。でも、これの場合には、そういうやり方じゃないんじゃないかって。そのやり方だと、カバーは「邪魔」なものになる。カバーがついているせいで、本来ここまで曲がるものがここまでしか曲がらなくなる。そういうことが、ロボット(の設計)では起きている。そういう動きを制限したり、重くなったりしないデザインをしやってほしいというのが……。
古田:むしろ、カバーがついて性能が良くなるくらいのをやってほしかった。
山中:ぼくは、ロボットのデザインをするのは2体目なんですけど、「ロボット・ミーム展」*2はごらんになりました?
ZDNet:はい。
山中:あれに「Cyclops(サイクロプス)」というやつがいたんですが、あれぼくの作品なんですよ。
ZDNet:そういえば、(morph 3の)首のラインがCyclopsと似ているような。
山中:よくそう言われるんです。Cyclopsは、むしろ人とカメラとの関りを示すっていう、むしろインタフェースデザインなんですけど、でもあれもやっぱりカバーではなくて構造や機能を見せてやるものになってる。背骨も、周りにつく筋肉もそのまま見せて、だけど美しい、ってものを作った。隠してしまって形を整えるのではなくて。そんな考え方を、morph3にも導入したわけです。
そして、それを狙っていくと、性能そのものも実はあがっていく。デザインと性能というものは二律背反なものではなくて、部品ひとつひとつを非常に美しい形で設計していくと、結果として性能そのものをあげることができる。
それは、ある意味では昔の考え方です。黎明期のクルマなんていうのはそうだったかもしれない。ブガッティ*3とかそういう人たちが、美しくて同時に性能的にも最高のものを設計していた。でも、いまはそうじゃない。スタイルのためだけにガワをデザインして、そこにむりやり機械を押しこんでいる。そういう(いまの)やり方じゃないやり方をmorphではしたかった。
ZDNet:「デザインがあって機械」でもなくて、「機械があってデザイン」でもなくて……。
古田:全部同時進行。フィードバックしてフィードバックしてフィードバックして……。
ZDNet:うわぁ、きもちよさそう。
山中:いま、それをしているのはなにかっていうと、F1の世界。これが近い。F1はデザイン優先ではできません。空力的なフォルムとか、人を護る構造とかいろんな意味で。でもデザインも重要。ショーアップのものでもあるし、走っていく姿が美しくないと。ただ走ればいいってもんじゃない。
morphもひとつの技術のショーピースだから美しくなきゃいけない。でもその美しくあることがちょっとでも性能を犠牲にしてはいけない。
古田:クルマは空力を考えてデザインしますけど、ロボットだって、性能をあげるためのデザインというのがあるはずなんです。でも、いままで(のロボットのデザイン)は、ただ機能を隠すための“ガワ”だったんですよね。そうじゃないんじゃないかってことを、ずっと山中さんとお話していました。
「メタルアスリート」
山中:最初に手をつけたのは、モータモジュールです。この銀色の四角い箱、それとモータのエンドキャップ(写真で丸をつけた部分)がひとつのセットになります。
これが、見えるところで5つと腰の中にもう1つで、片足だけで6こづつ入っているわけです。同じものが胴体を前に倒すとか回転させるとかにも使われていて、このサイズのモジュールは全部で18個使われています。もう一種類、もう一回り小型のものも使っています。
古田:ちなみに、関節は全部で30あります。
山中:このモジュールを設計するところから始まりました。F1のエンジンから開発するみたいなもので。
古田:これ全部オリジナルです。
ZDNet:え? モータを全部、起こしたということですか?
山中:モータそのものは特注であるんですが、起こしたといっていいのかな。
ZDNet:“線巻いた”とまでは言わないでしょうけど……
山中:いや、線も指定してますから。ある意味では、そこから。
ZDNet:うわっ。
古田:だから、すごいパワーがあります。
山中:そのモータと、ギアボックスと、角度センサ、温度センサ、電流センサ、ワンチップマイコン、それにヒートシンク、それだけのものが入ってひとつの箱になっている。
古田:ギアももちろんフルカスタマイズ。ジュラルミンでできています。こういうところ(金属部分)は全部ジュラルミンなんです。ネジなんかは“超超ジュラルミン”*4。
山中:最初の考え方として、モーターモジュールそのものを美しく作ってそれを組み上げていけば、性能がそのまま現れて美しいボディーができるはずだっていうのがあった。それで、手をつけてしまったんですけど、そうするとどんどんアイディアも出てきて、時間ばっかりかかって。
古田:山中さんが考えたひとつのキーワードが「メタルアスリート」。ぜい肉を削ぎ落とした無駄のない機械。
山中:筋肉そのものが美しい。このモータがある意味、筋肉になるわけですよね。それが組み合わされた身体そのものが美しいという「かたち」をまず作りたかった。
古田:この辺の肉抜きのR(曲率)なんかも全部山中さんのデザイン。断面のRのかかりっぷりとか。
山中:それは同時にエッジを立てることで強度も増すし軽くもなるし、その最適化とデザインとを両方をいっぺんにやろうという。
古田:気がつくと111個センサが乗ってたり。市販品がほとんどない。(白いプラスチック部分をさして)このへんの一見ガワに見える部分。3軸の力センサになってるんです。でんぐり返しとか走ったりとか、ロボットの機動性というのも追求したかったんですよ。
山中:前のmorphは、がんと殴ることはできたんだけど、殴ったってことを自分ではわからなかった。今度はそれがわかるようにしたかった。さすがにセンサは(ひとつのカバーについて)1個なので、どこが押されたかまではわかりませんけど、どっち向きに押されたかはアナログでわかる。
古田:ここもそうだし、ここも、ここも。
フィードバックをかけながら全身運動とか、そういう機動性っていうのを、このロボットで表現したかったんですね。足裏にも3軸センサが4つ独立に入っているんです。滑り方向の力とかも検出できるから、機械性能的には砂利道とか砂地でも歩けるはず*5。(足の周囲部分が)デザイン的にせりあがってますよね。これが同時にタッチセンサになっている。
山中:ボールを蹴飛ばしたらボールがどこにあたったかもわかる。
[こばやしゆたか, ITmedia]
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