News 2002年7月23日 11:59 PM 更新

燃料電池車からエンジン音の“デザイン化”まで――自動車技術展

自動車技術者向けの展示会「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展2002」がパシフィコ横浜で開幕した。次世代自動車の本命「燃料電池車」や電源不足の解消や省燃費化につながる「42V電源」、バイクのエンジン音をリアルタイムで合成するシステムなど、最新の自動車技術が紹介されている

 パシフィコ横浜で7月23日から自動車技術者向けの展示会「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展2002」(主催=自動車技術会)が開催されている。最新の自動車技術が一堂に会した展示の中には、エレクトロニクスに関連するものも多い。


パシフィコ横浜で催された「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展2002」

 ハイブリッド車やEV(電気自動車)、燃料電池車、IT&ITSカーなど“次世代自動車”と呼ばれるものには、今やエレクトロニクス技術は欠かせないものとなっている。自動車技術展では今年から「次世代自動車コーナー」が新たに設けられ、自動車各メーカーの取り組みが紹介された。

 注目を集めていたのが、スズキ自動車が出展した「Covie」。昨年のモーターショーでも話題となっていた2シーターのスモールEVだ。正確には「EV+家庭用燃料電池発電システム」という種類に分けられる。


EV+家庭用燃料電池発電システムのスズキ「Covie」

 クリーンな新エネルギーとして注目されている燃料電池だが、その車載システムは現時点では大きくて重く、スモールカーではメリットが生かしきれないといわれている。Covieでは、かさばる燃料電池システムは家に置いておき、そのつどバッテリに充電して走るというスタイルを採用。同社と提携関係にあるGMが開発した家庭用燃料電池発電システムは、家庭に供給されている天然ガスから、水素を取り出して発電に利用する。これなら、クリーンな燃料電池のメリットを小型車でも享受できるというわけだ。そのほか、Covieと自宅の無線LAN機器を携帯電話で接続し、家庭内のPCや家電とリンクできる機能も持つ。


自宅の無線LAN機器を携帯電話で接続し、家庭内のPCや家電とリンクできる機能も持つ

 ただ、次世代自動車の本命はやはり燃料電池車。先日トヨタ自動車が、今年末をメドに燃料電池車を市場投入することを明らかにし、自動車業界はにわかに活気付いている。同社は、エンジン車とEVを組み合わせたハイブリッド自動車「プリウス」を世界に先駆けて市場投入した実績もあり、世界初の一般向け燃料電池車の投入は“世界のトヨタ”をアピールする好材料となりそうだ。同社は会場でも、燃料電池ハイブリッド車「FCHV-4」を展示。高圧水素を燃料とし、ガソリンエンジンの出力密度を上回るという同社独自の高性能燃料電池「トヨタFCスタック」を搭載する。


トヨタの燃料電池ハイブリッド車「FCHV-4」

 トヨタ以外にも、マツダがプレマシーをベースにした燃料電池車「FC-EV」を出展していたが、トヨタ同様に燃料電池車の開発に力を入れる本田技研工業は、シビックのハイブリッドカーのみの出展で、期待されていた燃料電池車はお披露目されなかった。また、富士重工業はレガシィB4のCNG(天然ガス自動車)モデルを展示、三菱自動車は大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、四国一周公開試験では1回の充電で410キロメートルを走破したEV「エクリプスEV」を紹介していた。


大容量リチウムイオンバッテリーを搭載した三菱自動車のEV「エクリプスEV」

 そのほか、自動車の電源電圧を42ボルトに上げることで電源不足の解消や省燃費化、高電圧駆動の新機能を付加させようとする「次世代42V電源」の紹介も行われた。42ボルト車は、2003年以降の実用化が予定されている。会場では、42Vフォーラムコーナーを設け、42ボルト対応部品や42ボルト車の実車展示を実施。EVや燃料電池車など次世代自動車の実現にも欠かせない技術だけに、担当者にさまざまな質問を浴びせる来場者の姿も多かった。


42Vフォーラムコーナーの42ボルト電源システム

 全体的には自動車部品関連の展示が多数を占める中、富士重工業のブースでは、ちょっと変わった展示が行われていた。ミカンほどの大きさの10数台の自律型ロボットが、街をシミュレーションしたジオラマの中を縦横無尽に走り回っているのだ。


ミカンほどの大きさの10数台の自律型ロボットが、縦横無尽に走り回る

 これは、将来の車社会におけるさまざまな制御技術を研究するためのシステム。「実際の車を使うと、ぶつけ合ってすぐに壊れてしまうので、ロボットでシミュレーションしている」(同社)。ただ、同社の研究している制御技術は、ASV(先進安全自動車)のように自動制御を行うものよりも「乗っている人が楽しくなるような運転制御」を目指しているとのこと。「例えば、カーレースなどで見るようなGがかかるコーナーリングを体験したい時に、安全なスピードでコーナーリングしているにもかかわらず運転者にはレーシング感覚のようなGがかかる制御も実現可能。安全な範囲で車の運転をより楽しめる制御というのも、今後必要になる」(同社)。

エンジン音をデザインする?

 昨年はエアバックやカーナビ付きなどユニークなオートバイが登場したが、今年は2輪車の出展はおとなしめ。そんな中、ユニークさで人を集めていたのがヤマハ発動機のエンジン音リアルタイム合成技術を使った「モーターサイクルサウンドシミュレータ」。ゲームやドライビングシミュレータなどで使われている定常的なエンジン音を繰り返し再生する方法ではなく、エンジンの特性や音量・音質のゆらぎといったさまざまな要素をPC上で計算することで、より本物に近いエンジン音をリアルタイムで合成するという。「データを変えることで、あらゆるタイプのエンジンをシミュレーション可能」(同社)。


エンジン音リアルタイム合成技術を使った「モーターサイクルサウンドシミュレータ」

 ブースでは、同社のビッグバイク「XJR1300」をベースにした実験車を用意。エンジン音を合成するPCには、Power Mac G4を使っている。学生時代に中型免許を取得、ビッグバイクにあこがれながら、ここ10年ほどはバイクに乗っていない筆者も試乗してみた。バイクにまたがってヘッドフォンを装着、イグニッションキーを回してセルスターターを押すと、大排気量の空冷4気筒DOHCエンジン独特のトルク感あふれる野太いサウンドがあたりを包み、本当にエンジンを始動させたかのような錯覚に陥る。エンジン音だけでなく、風切り音やシフトチェンジの音まで忠実に再現され、速度に合わせて振動も発生。筆者は調子に乗って時速200キロまで出したところ、あまりのリアルさに本当にビビってしまい、つい速度を落としてしまったほどの出来栄えだ。

 「このシステムはゲームなどに応用していくのではなく、あくまでも研究用。バイクの騒音問題は昔から言われていることだが、このシステムを使えば運転者には心地よいサウンドを提供しつつ騒音を抑えたバイクというのも可能になる。また今後は、エンジンにも“音のデザイン”が必要になってくる。サウンドデザイナーが考えたエンジン音をもとにエンジンを設計するということがあってもいいのでは」(同社)。

関連記事
▼ 2輪車にもエアバッグやカーナビ――自動車技術展

関連リンク
▼ 社団法人自動車技術会

[西坂真人, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.