News 2002年10月28日 11:37 PM 更新

安価で高品質な有機ELを作る“デンドリマー”

凸版印刷が、新素材「デンドリマー」を使った有機EL開発を進めるOpsysとの協業を発表。また、高分子系有機EL開発の有力企業Cambridge Display Technologyの株式取得も明らかにした

 凸版印刷は10月28日、新素材を使った有機EL開発を進める英Opsysと協業し、フルカラー有機ELディスプレイの開発を共同で行うことを発表した。また同社は、ポリマー(高分子)有機EL分野のパイオニアである英Cambridge Display Technology(CDT)へ800万ドルを出資して株式を取得したことも明らかにした。CDTは10月25日に、Opsysの経営権を取得している。3社は今回のアライアンスで、それぞれの持つ有機EL開発技術の強みを生かし、安価で高品質な有機ELディスプレイの開発・事業化に向けて協力していく。


凸版印刷、CDT、Opsysのアライアンス関係

 有機ELの発光素子には、“低分子”と“高分子”がある。開発が先行しているのが低分子系だが、水分や高エネルギー粒子に弱いという特性からシャドーマスクによる蒸着方式でしか作れず、その製造プロセスから大画面化が難しいという問題があった。

 一方、高分子系はウェットコーティングが可能で、インクジェット方式など印刷法で製造できるのが特徴。製造プロセスを簡略化でき、高精細で大画面の有機ELディスプレイを作れることから“有機ELディスプレイの本命材料”として期待も大きい。この高分子系有機ELに関する技術特許を数多く所有するのが、今回、凸版印刷が800万ドルという巨額の出資を行ったCDTだ。

 「高分子系の有機ELを事業化する上で、CDTが保有する特許への抵触は避けられない。それなら、協業しようということになった」と同社常務の河合英明氏は出資の経緯について語る。


同社常務の河合英明氏

 だが、凸版印刷が本当に狙うのは、CDTが経営権を取得したOpsysの新素材技術。その大きな特徴は、従来の高分子系の欠点を補う新しいナノ構造の材料「デンドリマー」を発光素子に使っている点だ。

 コスト面や大画面・高精細化で有利な高分子系だが、発光材料の寿命の短さやその発光効率の低さ、そして塗布効率が悪い点などが課題となっていた。

 新素材デンドリマーの特徴は、その形状にある。その名称がギリシャ語の「dendron」(樹木)に由来することからも分かるように、コアと呼ばれる発光素子のまわりを木の枝のように枝分かれしながら放射状に広がった丸い粒子を形成。コアには、従来の蛍光材料よりも発光効率が数倍高い「燐光」が使えるのが特徴だ。


デンドリマーの形状は、木の枝が放射状に広がった丸い粒子構造

 また、従来の高分子は直線状に連鎖するため、どうしても分子量が多くなってしまい、溶媒に溶けにくくなるのが欠点だったが、分子が小さなデンドリマーは、少量しか混ぜられなかった高分子系発光材料を、大量に混ぜて使えるようになった。分子が小さいので塗布特性もよく、効率のよいコーティングも行えるというわけだ。「デンドリマーを使えば、インクジェット法だけでなくフォトリソグラフィにの手法も使え、より安価で高精細な有機ELディスプレイが作れる」(同社)。

 いいこと尽くめのような材料だが、従来の高分子の方が優れている点もある。「例えば、デンドリマーは丸い粒々の粒子が積み重なったところに電子が流れるため、伝導性という点では直線状に連鎖した従来タイプの高分子が有利となる。今回のアライアンスでCDTとOpsysの技術を融合させることが可能になった。デンドリマーと従来タイプといった違う特性の高分子を混ぜることで、新たな性能特性が得られる」(同社)。

 同社は、新しい高分子系材料を使った有機ELの事業化を、2005年から2007年にかけて行う構え。

 「デンドリマー有機ELディスプレイの製造には、当社が培ってきた印刷と製版、そして液晶ディスプレイ用カラーフィルタの高精細パターニング技術が生かせる。材料メーカーとのアライアンスを強化し、寿命面は当社のバリアコーティング技術を大いに生かしていきたい。低価格という課題では、現在の液晶ディスプレイ以下のコストを目指す。“高品質で低価格”な有機ELディスプレイを世の中に早く出していきたい」(河合氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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