News 2003年1月11日 03:47 AM 更新

Intelは「家庭」への道筋を指し示せたか?

Gates氏、ソニーの安藤氏に続いてCESの基調講演に登場したのは、Intel CEOのCraig Barrett氏だ。「ワイヤレスはデジタル社会を変える」というテーマで話をした同氏だが、ごく常識的な話に終始。むしろ、ホームへの説得力ある道筋を示せていない現状を浮き彫りにしてしまった

 International CES 2003の基調講演は、Bill Gates氏で始まり、ソニー安藤氏と続き、Intel CEOのCraig Barrett氏へとバトンが渡された。Intelらしからぬ、派手な演出で登場したBarrett氏はワイヤレスが与える社会への影響について話をしたが、聴衆の心をとらえることはできなかったようだ。

 「ワイヤレスはデジタル社会を変える」というBarrett氏の話に同意しない者はいないが、人々が期待しているのは誰もが思いつく簡単な使い方ではない。しかし、Intelの提案はすでにどこかで聞いたことのあるものばかりだった。


ワイヤレスの重要性を語ったBarrett氏


MITで研究されているという、誰もが目で見てわかる技術実演(?)を披露。通信を棍棒に見立ててワイヤレス世界を解説

PC市場は健全?

 Barrett氏はまず、PC市場の健全性について話をした。ITバブル崩壊、PC売り上げ不振などを経た今、PCの市場性には疑問符が付いたままだ。

 「画期的発明による大きな市場環境の変化は、毎年起こるものではない。これまでにはトランジスタラジオの登場、テレビの発明、パソコンの実現といった要素が存在した。これらは社会を大きく変えた。しかし、テクノロジによる革新は継続的に行われるものだ。そして長期間に渡って社会に対して影響し続け、その結果トータルでは予想もつかないほど大きな変化をもたらす」(Barrett氏)。

 Barrett氏の主張は正論だ。しかし、コンシューマーエレクトロニクスの展示会において、こうした直接的なメッセージで聴衆に訴える手法は、かえってPCのコンシューマー市場での商品性に対して疑問を感じさせてしまう。

 もちろん、家電ライクなフォームファクタ、高速起動、信頼性、安定性などが実現されるようになれば、家庭向けのPCが再び家庭向けエレクトロニクス商品の主役へと返り咲く可能性はある。だが、業界のリーダーであるIntelに期待するのは、誰もが考えつく可能性について話すことではなく、具体例を示しながら業界を牽引するという強い意志を示すことだろう。

 Barrett氏の語ることは、いつも正論なのだが、消費者を説得するためには、たまには変化球も必要だ。例えばBarrett氏は「これからの市場を作るのは、今の若者たち。彼らの欲しいと思えるもの。彼らが楽しいと思うものを作っていかなければならない。彼らは生まれたときからPCがあり、携帯電話のキーで文章を入力するような、われわれとは異なる人々なのだ」と話す。

 もちろんだ。

 しかし、その行き着く先として“ワイヤレス”というのはいかがなものだろう? もちろん、ワイヤレスは重要だ。PCに限らず、あらゆる製品がワイヤレス化することで大きく変化する。ワイヤレススピーカーが当たり前になれば、マルチチャンネル再生環境を持つ人は激増するだろう。携帯電話はワイヤレスになることで爆発的に普及したし、ワイヤレスで自宅の音楽ライブラリにアクセスできれば、音楽を聴く時間も長くなるかもしれない。

 ただ、それらは決して新しいビジョンではないのだ。


基調講演で登場したPersonal Media Player。マイクロソフトのMedia2Go技術が採用されているビデオ、音楽プレーヤーの試作機

ブロードバンドがPCの価値を高める?

 またBarrett氏はブロードバンドとワイヤレスアクセスの普及がPCの価値を高めると話した。PCは高い処理能力とワイヤレスの接続性を持ち、移ろいやすいインターネットの技術トレンドに追従できる柔軟性を備えている。Barrett氏はDynamic PCというコンセプトを示して、その理由付けを行った。

 「ワイヤレスでいろいろな情報が、ユーザーの手元に入ってくるようになる。そこで重要になるのが、PCのインタラクティブ性だ。ブロードバンドでPCは重要性を増している。PCは家庭の中にあるデバイスの中でもっとも柔軟性が高く、多くの用途に使うことができる。人々は常にリッチなコンテンツを必要としており、ワイヤレス化によりPCの持つパワーを、能力を持ち歩きたいと思う」(Barrett氏)。


「Adobe Photoshop Album」を使い、大量のデジタル写真を高速に管理するデモ。PCの持つパワーをアピールするが……

 PCの世界には、何10万ものアプリケーションソフトウェアと、何100万人ものプログラマがいる。IntelはこうしたPCの基礎を発展させ、スピーディにワイヤレスモバイル環境に適したアプリケーションに書き直していくという。

 ソニーの安藤氏はワイヤレスブロードバンドの時代に、デジタル化された家電が主役となり、PCが黒子になっていくという方向性を示したのとは対照的な意見である。

 また、3月に製品発表が予定されているCentrinoとその搭載機も紹介され、ワイヤレスに最適化されたプラットフォームであると話したものの、統合されるワイヤレスLANが802.11bに留まってしまうこともあり、あまり強くアピールしようとしない(もっとも米国ではCentrinoをビジネス市場中心にプロモートするため、あえてそのようにしたのかもしれない)。「PCがワイヤレスになって良くなること」は全部、CentrinoだけでなくすべてのPC、すべてのネット家電に共通するメリットばかり。なぜCentrinoが必要なのかが伝わってこない。

 ホームネットワークの時代に向けて、コンテンツ保護の仕組みが重要になるという話も、やはり納得の行くものだが、PCドメインの中では重要な話題であっても、家電世界の中では「常識」の一つでしかない。コンテンツ保護の枠組み作りとセキュアなハードウェアの構築は、デジタル家電がすでに通った道のりだ。

 IntelがPC業界のリーダーで、世界最大かつ最高の製造技術を持つ半導体ベンダーであることは疑いのない事実だ。彼らが誰もが納得する道筋をつけずして、PCがコンシューマー市場で高い地位を保つことは難しいだろう。Intelに家庭でのエンターテイメントプラットフォーム作りを求めるのは、間違いなのだろうか? もちろん、同じことはMicrosoftにも言うことができるのだが。

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[本田雅一, ITmedia]

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