News 2003年1月20日 09:30 PM 更新

ソフトで機能アップするデジカメや採血不要の血糖値計――オリンパスがITXで狙う新事業

オリンパス光学工業が、IT関連事業の投資・育成を行うITXの株式を取得して同社との戦略的関係を強化すると発表した。精密機器関連企業のIT化が進むなか、ITXとの提携強化で狙う新事業とは?

 オリンパス光学工業は1月20日、IT関連事業の投資・育成を行うアイ・ティー・エックス(ITX)の発行済み株式を取得することでITXとの戦略的関係を強化すると発表した。ITXの筆頭株主である日商岩井が保有する株式のうち、10万200株をオリンパスが1月30日付けで追加取得する。これによってオリンパスの持ち株比率が22.34%となり、同社がITXの筆頭株主となる。同日、両社が記者会見を行い、関係強化の狙いや今後の事業方針などを語った。

 ITXは、日商岩井の情報産業本部が分社独立し2000年4月に設立。IT事業の創出、育成、M&A/IPOなど通じて、モバイルネットワークや衛星事業など先進的なジャンルで新規事業を立ち上げる「IT事業創出企業」で、IP電話事業者として有名なフュージョン・コミュニケーションズや日商エレクトロニクス、携帯電話販売最大手のアイ・ティー・テレコムなどを傘下に持つ。

 ITX社長の横尾昭信氏は「ITを切り口に世の中に新産業・新企業・新市場を創出していこうという目的で設立。既存子会社からの安定した収益と新規事業からの収益といった“事業収益”と、IPOや売却益といった“キャピタルゲイン”という2つの収益構造を持っている。ベンチャーキャピタル(VC)と似ているが、事業が主体となって投資育成を行う点で(VCとは)異なる」と事業内容を説明する。

 オリンパスはITXの設立当初から主要株主として資本参加。2002年3月には、ITXグループの医療デバイス関連会社「バイオックス」にオリンパスが出資して製品の共同開発を開始しているほか、2002年12月には次世代半導体の製品開発を行う「AOIテクノロジー」を共同で設立するなど、協力関係を深めていた。

 オリンパス光学工業社長の菊川剛氏は「昨年から共同開発事業の拡大や共同出資の合弁会社設立などを通じて、両社の関係を深めてきた。これまでの2年半に及ぶ協力関係の中で、お互いに共通の部分が多いということが分かってきた。両社の関係をさらに強化することが新規事業創出につながり、Win-Winの関係になれると判断した。今回の関係強化によって、コア事業での差別化、確実かつスピード感のある新規事業創出を行っていきたい」と語る。


オリンパス光学工業社長の菊川剛氏

 またITXの横尾氏は「IT事業を創出していくときに、商社のDNAだけでは弱い。設立当初から、3年後には社員の2/3が商社以外の人間になるよう、さまざまな企業から人材を受け入れて、いろいろなDNAを入れてきた。今回の関係強化によってオリンパス側から20人が新しく入ってくる。“DNAのぶつかり”が一気に加速され、ライフサイエンスやエレクトロニクス分野で世の中を動かせるような事業が創出できるるだろう」と期待を述べる。


ITX社長の横尾昭信氏

 両社は、オリンパスが中核事業であるオプトデジタルテクノロジー(光学技術/デジタル映像技術/微小加工技術)での技術力や映像・医療・産業分野でのグローバルな販売力/ブランド力を、ITXがネットワーク分野での専門性や新規事業開発能力/事業育成力をそれぞれ持ち寄り、新規事業の創出や既存事業での競争力強化を図る構えだ。

デジカメや携帯電話を買い換えずに機能アップ

 では実際にどのような新規事業が生まれてくるのか。ITXの横尾氏はその具体例として、すでに事業化の提携を行っている2つの例を挙げた。その1つが、昨年12月に両社で設立したAOIテクノロジーで開発を進めているDRP(ダイナミック・リコンフィギュラブル・プロセッサ)事業だ。

 「デジカメや携帯電話など組込みソフトウェアは、一回書き込まれたらその後の機能付加は難しいが、DRPはそれを覆す画期的な技術。ハードウェアに新機能を付加できるソフトウェアをダウンロードすることで、機能を求めて新たに製品を買い換えなくてもよくなる。詳細は2、3カ月後ぐらいに、AOIテクノロジーから大々的な発表があるだろう」(横尾氏)。

 AOIテクノロジーではDRPチップをファブレス生産し、チップの販売とともにソフトウェアのダウンロード/ライブラリ事業も手掛けることで、5年以内に1000億円の事業規模を狙っていく構えだ。

 もう1つの新規事業が、オリンパスも出資しているITXグループのバイオックスが開発中の完全非侵襲型「血糖値測定計」だ。近赤外線測定技術を用いて、血液を採取しなくても血糖値を簡単に測れるという。

 「糖尿病患者は糖尿病予備軍を含めると国内で1000万人を超えるといわれている。これら患者は、自分の指先に針を刺して血糖値を調べているが、血糖値測定計を使えば機器に指を乗せるだけで測定できる。この測定計は血糖値だけではなく、コレステロールや中性脂肪といった今まで採血で行ってきた診断にも応用可能。医療機関と手を結んで、たいていの診断が家で行えるヘルスケア事業も手がけていく」(横尾氏)


新事業に向けタッグを組む両社の社長。左がオリンパス光学工業社長の菊川剛氏、右がITX社長の横尾昭信氏

関連リンク
▼ オリンパス光学工業
▼ アイ・ティー・エックス

[西坂真人, ITmedia]

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