News | 2003年3月4日 10:25 PM 更新 |
「グリッドコンピュータ商用化へに向けた取り組み」と題する日本アイ・ビー・エム主催のプレスセミナーが3月4日に京王プラザホテルで行われた。アジア初の「Global Grid Forum」の開催に合わせて行われたこのセミナー。果たして明快なビジネス利用の提案はできたのだろうか。
GGF最大のテーマは「OGSA ver1.0」
今回のセミナーで最初のプレゼンテータとして登場したのは、GlobusプロジェクトリーダーのIan Foster氏だった。
Foster氏は、インターネットと光ファイバーによる高速ネットワークインフラの普及によって、今や「グリッドコンピュータが十分なパフォーマンスを発揮できる条件が用意された」と発言。これまで集中処理が主流だったビジネスの分野でも、分散処理のトレンドが起こりつつあり、グリッドコンピューティングの需要が高まってきていると主張した。
Global Grid Forumは、グリッドコンピューティング関連ソフトの開発素地である「インターネットコミュニティー」において、グリッドの標準規格を取りまとめている団体。この標準化の一環として行われているのがOGSA(Open Grid Service Archtecture)と、基本的スペックを調整しているOGSI(Open Grid Service Infrastructure)だ。
「分散コンピューティングを解決するWebサービスと、オンデマンドでサーバリソースにアクセスするグリッド。これらをOGSAで統合すると大規模システムでリソースを効率的に共用し、かつ、各システムから共有リソースにアクセスできる」(Foster氏)とグリッドコンピューティングにおける、OGSAの役割を説明した。
このOGSAを反映したGlobus Toolkit ver.3は現在α版。5日のGGFにおいてver.1.0の公開が行われ、パブリックコメントを60日間受け付けた後、正式に策定される予定だ。OGSA ver.1.0ドラフト版についてFoster氏は「現状でもクオリティは十分、開発者たちから寄せられた意見をかなり反映させている。だから、パブリックコメントでも細かい修正が入るだけで、大幅な変更は発生しないだろう」と自信を見せている。
なお、今回正式策定が行われないOGSIについては、「決定すべき内容が多岐にわたり、かつ根本的な内容を含んできるので、ver1.0の決定まであと1年間ほど時間がかかるだろう」(Foster氏)と考えている。
商用利用は「グリッドに適した業務」にフォーカス
続いて登場したIBM WorldWide VP Grid Computing StarategyのDan Powers氏と、日本IBMグリッド・ビジネス事業部長の高野孝之氏は、グリッドコンピューテイングをビジネス分野で利用した場合のメリットと実際のケーススタディを紹介した。
Power氏は従来の静的なシステムと開発環境では、IBMが提唱する「オンデマンドeビジネス」で求められる「迅速性、可変性、柔軟性、集中」に対応できないと述べ、これらを満足させるグリッドコンピューティングのメリットをアピール。商用利用を展開する重点ターゲットとして「大規模開発、ビジネスモデルの解析、研究開発、企業ITインフラの最適化、工業研究開発の5つの分野にフォーカスしていく」(Power氏)と述べた。
高野氏は企業のシステム環境の共通項として「異機種混合、分散システム、複雑さへの対応」を上げ、このような環境において、現在直面している「ハードウェアのコスト削減、パフォーマンスのアップ、TCOの削減」を実現できるのはグリッドコンピューティングしかないと主張。「IBMグリッド・オファリング」と名づけた、業種ごとに導入によるメリット、システム提案などをレクチャーするプロジェクトで、グリッドコンピューティングを推進するとしている。
ただ、グリッドコンピューティングは科学技術分野では実用化段階にあるものの、商用ベースでの利用となると、具体的な利用法がまだ見出せないでいる(2月27日の記事)。今回のセミナーの狙いは主としてクライアントに対する提案活動だったが、肝心のグリッドコンピューティングの商用利用の例として出てきたのは、研究開発や、シミュレーションを必要とする局面での利用など、自然科学における使い方の応用に限られていた。
この点について問われた高野氏は、「財務、会計、人事などグリッドコンピューティングに適さない分野ではオファーはしない」とし、あくまでもグリッドのメリットが生かされる分野にフォーカスしていく方針であることを強調していた。
[長浜和也, ITmedia]
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