News 2003年4月2日 11:21 PM 更新

インテルスタッフが“学校の先生”になった日

春休みを利用して開催されたインテルPCスクールはインテルスタッフの「隠れた才能」に驚かされたイベントだった

 インテルは4月2日に同社東京本社において「春休みPCスクール」を開催した。これは、小学校高学年(一部中学1年生)を対象としたもので、学校の長期休暇にあわせて毎年春と夏に行われているイベントだ。

 今回のテーマは「“江戸時代の丸の内を見てみよう”お江戸・東京探検隊」。インテル東京本社のある大手町周辺に残る江戸時代の史跡を実際に見学。その後、見学で知ったことやインターネットで調べたことをかわら版風にまとめて発表するというもの。

 PCスクール1時間目は「PCの基礎知識」のお勉強から。子供向けイベントなので、教育セクションの人間が担当するかと思いきや、講師はインテル・アーキテクチャ技術本部本部長の阿部剛士氏。いきなり正統派技術部門トップの登場だ。といってもガチガチの授業ではなく、クイズ形式でPCやCPUの役割を説明したり、PCの内部、CPU、そしてウェハーの「実物」を一人一人に触らせるなど、子どもの興味を引くように工夫を凝らした内容になっている。


先生役の阿部氏。「パソコンは何が進化したもの?」の質問で、正解の電卓より多かった回答がタイプライター。いまどきのPCの使われ方をよく物語っている


やっぱりこれは外せない? 「たった30年で性能は20万倍にもなったんだよ」(阿部氏)。でもインテル製品ネタはこれだけだった


なんとウェハーの実物が登場。業界人でもなかなかお目にかかれない代物が出てくるあたりさすがインテルだ。「ピカピカして鏡みたい」とは多くの子どもの反応


「それじゃウェハーは何でできているかなー」「ガラスっ!」「実は石なんですねー」「ええっ!」 こんな「驚き」が子どもの記憶に強く残っていくのだろう


本当にあった会話その1「みんなはパソコンで何しているのかな」「ゲーム」「電車の時刻調べ」「オークション」「ええっ、な、なに買ったの」「有田焼」「……」


本当にあった会話その2「Webって聞いたことあるかな」「ある!」「日本語の意味わかる?」「波!」「それはウェーブだよ……」

 2時間目はエーピーピーカンパニーの「江戸東京重ね地図」を用いた授業。このソフトは「江戸現代スライダー」動かすことで、表示される地図を現代東京から江戸時代(安政年間)と変えられる。講師は同社社長の小島豊美氏。江戸の発展経緯について火事と舟艇輸送という視点から解説する本格的なものだ。


この授業でも子どもたちが自分で「江戸東京スライダー」を動かして、自分の住んでいる場所が江戸時代に武家屋敷だったことを確認したり、港区の地図が江戸時代にほとんどが海であったことを知って驚いていた

 PCスクール冒頭で、子どもたちのPC利用度について質問していたが、ほとんどの参加者がPCを使った経験あり。自分専用のPCを持っている子どもも4、5人いた。現代の小学生は、PCをテレビや電話のようなごく普通の道具として使いこなしているのだ。

 しかし、そんな彼らもPCの内部やパーツを見るのは初めて。実物に触れたインパクトはかなり強いらしく「参加した子どもの感想のほとんどに、実際に触ったパーツの実物のことが書いてある」(阿部氏)。

 読者は「子供向けのイベントに、わざわざ技術部門のトップがなぜ?」と思われるかもしれない。実をいうと阿部氏はインテルPCスクール“首謀者”の一人。インテルには全世界的な教育支援プログラム「Intel Innovation in Education」があるが、PCスクールはそれとは別個の日本独自プログラム。「自分の子どもたちを見ていて感じた“理数離れ”を何とか食い止めたくて」(阿部氏)という想いがこのイベントの出発点になっている。

 毎回のテーマやカリキュラムの内容は、ボランティアで参加するインテル社員が考えたオリジナルだ。イベントにも子どもたちの引率、作業のサポート、機材やアプリの設定スタッフとして参加している。

 例えば広報室 PRマネージャー ビジネス・コンピューティングPR担当の青木哲一氏はプレス担当として、マスコミ関係者にはおなじみの人物。ところが今回のテーマである「江戸の歴史」に大変造詣が深く、史跡探検コースの設定を行い、実際の探検では解説者として参加している。その姿は記者が知っている「広報の青木さん」ではなく「郷土資料館学芸員の青木さん」だった。


午後からは4つの班に分かれて探検に繰り出す。普段は「広報の青木さん」も今日は「学芸員の青木さん」となって、皇居に残る江戸城城門の詳しい解説をしてくれた


なかなか難しい二重橋の説明も幕末に撮影された写真資料を使って分かりやすくしてくれた。「学芸員の青木さん」は本格的な歴史資料も用意していたのだ


探検から帰ってきたら、実際に見てきたことを発表する作業が待っている。ジャストシステムの「はっぴょう名人」を使い、探検中にデジカメでとった写真やインターネットで調べた内容を「かわら版」にまとめる


出来上がったかわら版をプロジェクタで写して、調査結果を発表。タイトルデザインや写真のレイアウトなど、大人がいろいろアドバイスするが「こっちのほうがいい!」と子どもが自分の意見を押し通し、それが結構良かったりする

 イベントの最後で、子どもたちが発言した「パソコンのことや中身のことがよく分かってとっても面白かった」「江戸時代のことがよく分かってとっても面白かった」という感想は、こうして文字にすると「いかにも」という感じになってしまうかもしれない。しかし、この言葉を口にしたときの子どもたちの表情や、帰っていく子どもたちをいつまでも見送っているインテル社員を実際に見ていると、イベントに参加した子どもも大人も、心の底から楽しんでいたのは紛れもない事実だ。

 記者は、これまでもメーカーが行う子供向け体験イベントの取材をしてきているが、参加者が満足するイベントに共通しているのは、なによりホスト側の社員が楽しんで参加していることだ。インテルのPCスクールも、社員が楽しんで、そして真剣に取り組んでいた。その雰囲気と熱意が子どもたちを楽しませてくれているのだ。

 企業イメージのアップとかビジネスの利益とか、そういったひねくれた見方は、いかにも皮相。この楽しい雰囲気には、“お呼びじゃない”のである。

関連リンク
▼ インテル
▼ インテルPCスクール
▼ エーピーピーカンパニー
▼ ジャストシステム

[長浜和也, ITmedia]

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