News:アンカーデスク 2003年4月11日 11:33 AM 更新

NABレポート
コンシューマー技術がプロを支える時代(3/3)


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 筆者が見たところこのフォーマット最大のメリットは、ダビング特性が大幅に改善されたところだ。従来のHDCAMでは、1/5圧縮を行なう前にフィルタリングによる帯域制限をかけているため、ダビングした際の画質劣化が著しい。だいたい3回目ぐらいから劣化が感じられ、5回目ぐらいでたいていの人が気付くレベルとなる。

 ここでなぜダビングに言及しているかというと、番組編集というのは映像をダビングすることによって行なっているからである。従ってダビング特性というのは、最終的な放送クオリティに大きく関係する。

 ブース内のデモでは、HDCAM SRフォーマットのテープを1回ダビングしたものと10回ダビングしたものの比較を行なっていたが、筆者の目でも違いはわからない。これならば画質にうるさい業界でも納得するだろう。

 具体的なターゲットとしては、やはり米国はハリウッド、日本ではコマーシャルということになるだろう。

 というのもHDCAM SRでは、従来の4:2:2以外にも4:4:4で収録できるからだ。

 4:2:2だの4:4:4だのと言われても、よく分からないかもしれない。簡単に説明すると、4:2:2は映像の基本となるRGB信号から人間の目には見えにくい色成分をカットして、容量を減らした信号形態である。プロ用VTRはほとんどこの4:2:2だ。それに対して4:4:4は成分カットしていないので、ほぼ生のRGBに近い信号が得られる。

 映像そのものだけを見ても4:2:2と4:4:4は区別が付かない。さっきも説明したように、人間の目には見えにくいところをカットしただけだから、その違いも見えないのである。

 だが4:4:4は、クロマキー合成をする際に威力を発揮する。クロマキーは色成分を使って合成用の信号を作り出すので、人間の目には見えないからといって成分カットした信号を使っていては、合成の精度が下がるのである。

 なんだかずいぶん長い説明になってしまったが、要するに合成をバリバリやるような仕事というと、もうハリウッドかコマーシャルぐらいしかないのである。

 筆者の本音を言えば、ノーマルな編集フォーマットとして普及してくれれば、ダビング回数を気にすることなく作業が出来て楽なのだが。あとはSONYさんが低価格でVTRを出してくれることを願うのみだ。

 ちなみにHDCAM SRのスタジオVTR、SRW5000の米国での予価は8万8000ドルとなっている。

コンシューマー技術がプロの目にさらされる

 放送業界もここにきて、いろいろITベースの製品が多く登場してきた。

 いやITというと、ZDNet読者諸氏にとっては既に陳腐化が始まった単語に映るかもしれないが、日本のテレビ業界ほどIT化が遅れている産業もない。

 ビデオサーバやHDDレコーダ、ノンリニア編集システムなどは当たり前に使っているが、これらは業務上必要な専用機である。ほとんどの業界人は、いまだに通信手段は携帯電話、スケジュール管理はホワイトボードの線表とシステム手帳で動いている。

 そんな業界だからこそ、今回のようにコンシューマの基礎技術がベースになっているプロ用機材が登場したのはかなり珍しい現象だ。従来はプロの技術がコンシューマに流れていくというのが当たり前であったわけだが、この逆転現象は今後コンシューマでの映像デジタル化が進行するに従って顕著になる動きではないかと予想している。

 プロ機器において重要なのは、信頼性である。例えばパソコンなどは、ちょっとよくわかんないけど調子悪いなどということはあることだが、放送機器では調子が悪いなどというステータスが存在すること自体許されない。

 コンシューマー技術をベースにそこまでの堅牢性を確保できるのか、コンシューマからプロまでの製品ラインナップを持つ両メーカーの技術力が試されようとしている。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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[小寺信良, ITmedia]

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