News 2003年6月12日 08:29 PM 更新

Amazon.comのベゾスCEOが語る、e-コマースの極意

Amazon.comの創設者、ジェフ・ベゾス氏が、自社の歴史や手法を振り返りながら、e-コマース事業にとって何が大切なのか、その極意を明かした。

 Amazon.comの創設者でありCEOのジェフ・ベゾス氏は世界で最も有名なe-コマース企業家だ。しかし、6月10日にシカゴで開催されたRetail Systems 2003カンファレンスで同氏が行った基調講演の内容は、まったくe-コマースの基調講演らしくなかった。

 「e-コマースは小売り全体から見れば、微々たるものだ」とベゾス氏。「販売の大部分は(まだまだ)物理的な世界(つまり、店舗で)行われている。製品全部を見て買い物をしようというのなら、いまだにそれが最良の方法だ」

 それにもかかわらず、ベゾス氏は売り込み口上を始めた。大きめのゴルフバッグくらいの大きさのSegwayに乗り、かなりのスピードで通路をいったりきたりしてみせたのだ。「これに乗るのは楽しい!」と彼は叫ぶ。「そして、これはAmazon.comで独占販売している」

 会社の、そして個人の秘話を自由にちりばめた基調講演の中でベゾス氏は、ドットコム時代の数多くの神話の実態を暴露してみせた。そして、聴衆が直面しているリアルビジネスとテクノロジーの問題を明確にした。ベゾス氏は、事実上、インターネットは小売り分野に根づき、従来型小売り業者の多くはコンシューマーに商品を売るときの選択肢の一つに過ぎなくなっていると断言する。しかし、e-コマースはブリック&モルタルの小売り業とは異なり、別の技術が必要で、異なる種類の技術も必要な場合がある、とベゾス氏。

 ベゾス氏はAmazonの株価は6年で1.5ドルから20ドルに上がったと話す。「しかし、その途中には113ドルというのもあった」と同氏は聴衆の笑いを誘った。ベゾス氏は、「リアルビジネスのファンダメンタルズ」という言葉を示し、同じ期間にAmazonのアクティブな顧客は1400万人から3000万人に増加したと述べた。

 しかし、オンラインでどれだけ努力しても、これだけの購入意欲を持つ顧客を獲得できるわけではない。小売り業の経営者が直面している重要な問題は、(小売りによる)売上高の何パーセントをe-コマースからのものにするか、という点だとベゾス氏は指摘する。その比率が50%なのか5%なのかによって、ビジネスプロセスとテクノロジーへの投資という点において、戦略的な意味合いが異なってくる。

 ただ、それが何パーセントであっても、オンライン販売は従来の小売りとは異なる問題に直面する。一つはフルフィルメント。ある商品を実際に購入者の手元に届けるまでのプロセスが、オンライン小売り業者にとって最大の経費だ、とベゾス氏は指摘する。過去5年間でAmazonはフルフィルメント関連技術に3億ドルを費やしてきた。これには機械化された配送センターが含まれる。しかし、同じ期間に同社がマーケティングと関連分野に費やした金額は6億ドルに上る。

 また、同社はテクノロジーに9億ドルをかけた。大半はカスタムソフトウェアの開発に、残りの大半はHPから購入したサーバに費やされた。Amazonのe-コマース・ソフトウェアアーキテクチャーにはすべて、自社のコードが使われている。

 「間違って使われたマーケティング費用はとても多い」とベゾス氏は認める。そこで学んだ教訓を、過去に実践していたとすれば、フルフィルメントへの投資を半分に抑えることができただろうと同氏。

 それでもベゾス氏はテクノロジーに対して使った費用については後悔していない。毎年2億ドルずつ発生するソフトウェア開発費とハードウェア購入費用についても、同様だ。ソニーがプレイステーション2を4000台、Amazon.com販売用に割り当てたとき、同社は商品掲載後、わずか37秒で売り切った。

 Amazonは最近、コンピュータサイエンティストのチームを再編し、正式に最初の最高アルゴリズム責任者を任命した。このチームは常にアルゴリズムを書き、最適化しており、ここで作られるアルゴリズムによって、Amazonのウェブサイトの相互作用が実行されるのだ。この相互作用には、ウェブサイトが顧客の購入したものを記憶し、顧客が気に入りそうな他のアイテムをお勧めする、という機能も含まれる。

 その他のアルゴリズムとしては、毎回顧客がログインするたびに「店舗を改装する」というものがある。顧客が過去、見た商品や、購入パターンに基づいて、これを調整するのだ。ベゾス氏は別のスピーチの中で、自分自身のログインページを見せた。そこでは、「女宇宙戦士スレーブクイーン」というDVDタイトルがAmazonからの「おすすめ商品」として表示されていた。このおすすめ商品は、ベゾス氏が最近購入した、ジェーン・フォンダ主演の古典的SFカルト「バーバレラ」をもとにしている。

 Amazonは顧客のセルフサービスに深く依存しており、顧客が使いやすいようにさまざまな相互作用を設定している。その一つとして、Amazonの注文をキャンセルできる、というものがある。このアイデアは、Amazon内部で売り上げに響くのではないかという議論を沸き起こした。経営陣の結論としては、短期的にはいくぶんネガティブな面もあるだろうが、サービスの品質が改善され、顧客が望むものを購入できるとすれば、それを埋め合わせる以上のものがあるということになった、とベゾス氏は話した。

 Amazonが顧客を満足させるために、どこまでやるかを示す、初期の事例がある。創業後30日で、Amazonは英文の書籍を45カ国に出荷した。

 数カ月後、同社はブルガリアの、クレジットカードを持っていない顧客からの注文を受けた。彼は現金をAmazonに郵送した。フロッピーディスクの中に巧妙に隠した100ドル札2枚で。封筒の中には英文のメモが入っていた。「税関ではお金を盗もうとするのですが、彼らは英語が読めないので大丈夫です」

 ベゾス氏は後で報道陣に対し、Amazonはたくさんの金を使ったと改めて表明した。「しかし、フォーカスを失っていたわけではない。ビジネスの核心部分については無駄なことはしていない」と同氏は述べた。

 「たくさんの情報通の投資家がわれわれについていてくれたこと。これが(金を使うことへの)唯一の砦となっている」とベゾス氏。

[John Cox, IDG News Service]