News | 2003年6月27日 08:54 PM 更新 |
松下電器産業は6月27日、同日開催された同社株主総会の模様を、ハイビジョン映像で遠隔地へリアルタイムに中継する「株主総会ハイビジョンブロードバンド中継」を行った。
今回の試みは、同社株主総会の会場となる本社所在地(大阪府門真市)から遠隔地の株主に対して、株主総会のライブ中継を提供することで、「開かれた株主総会」「開かれた企業」を目指すもの。
同社は2001年から衛星回線を使って株主総会のライブ中継を東京と名古屋の2会場で実施していたが、今回はブロードバンド時代にふさわしい通信手段として大容量バックボーンネットワークを用いた高速ブロードバンド専用線を使い、株主総会の臨場感あふれる様子を再現するためにデジタルハイビジョン映像で中継を行った。
中継システムは、自社開発の「HDブロードバンド中継システム」を使用。IPネットワーク網には、NTTコミュニケーションズのポイント・ツー・ポイント型の大容量バックボーンネットワークで接続している。
このIPブロードバンドネットワークを介して、BSデジタル衛星放送と同じ映像フォーマットに変換したデジタルハイビジョン映像をリアルタイムで伝送。ゲートウェイと通過したハイビジョン映像データは、市販のBS デジタル衛星放送用チューナーで受信し、会場のDLPプロジェクターやPDPで視聴するというシステム構成でライブ中継が行われた。
今回の株主総会の中継は、東京、大阪、名古屋の3会場で行われたが、高速ブロードバンド回線によるハイビジョンライブ中継は、東京と大阪で実施。名古屋会場は、INS1500回線を使ってストリーミング配信で中継された。
東京会場は、東京都の臨海副都心有明地区に昨年9月にオープンした「パナソニックセンター」の1階にある多目的ホールが中継場所となった。ホールにあるDLP方式プロジェクターからは、午前10時の株主総会開始と同時に、約500キロ離れた本社会場からライブ映像が映し出された。
ハイビジョンのリアルな映像は、株主総会独特の緊張感も同時に体験できるほど。特に、株主からの質疑応答で、近年の株価下落から資産が大きく減っていることを切実に訴える株主がハイビジョン映像に登場した時など、そのやりとりがリアルに目の前で行われていると錯覚するぐらいの臨場感があった。
最新のIT技術によって“距離”という壁を越え、従来なかなか難しかった遠隔地からの株主総会への参加が一気に加速しそうなトピックスだが、本格的な“IT株主総会”までには、越えなければならない壁は多い。
まず、現在の商法では、このような中継会場は「総会開催地」に該当しない。そのため株主は、このような中継会場から発言権や議決権を行使できないのだ。
従来から、総会に参加できない株主のために、郵送での議決権行使という方法が用意されていた。そして、商法改正で電子投票が可能となった昨年からは、インターネットを利用した議決権行使(ネット投票)を導入する企業が徐々に増えている。同社も昨年6月の株式総会からネット投票の導入を開始した。
ただし、同社のインターネットによる議決権行使のリミットは、総会前日の6月26日まで。最低でも総会の2日前までには郵便ポストに投函しなければならなかった郵送方式から比べると、リアルタイム性ははるかに高まっている。だが、総会当日に中継会場へノートPCなどを持ち込んで、会場でリアルタイムにネット投票を行い、議決権を行使するということはできない。
また、株主側も、この新しい議決権の行使には戸惑っているようだ。
同社の株主総会で議決権が行使できる株主は16万4110人で、議決権数は222万8193個(22億2819万3000株)。このうち、今回の株主総会で議決権を行使した人数は4万7090人で、議決権数は163万226個(16億3022万6000株)だった。
議決権行使の手段は、ほとんどが郵送によるもの(4万3935人、144万3373個)で、ネット投票を行った株主はわずか2088人と、議決権行使人数の4.4%とさびしい状況に終わった。しかも、この“先進的なIT株主”は、議決権数にすると全体の0.5%となる8610個(861万株)しかない小口の株主。大口の法人持ち株などは、ネット投票よりも従来型の郵送方式を選んだようだ。
もっとも「ネット投票」や「ハイビジョン中継」は、小口の個人株主にもっと経営に参加してもらおうという狙いも含まれている。総会開催地を今回のような中継会場にまで広げるなど商法改正が行われれば、個人ユーザーの株に対しての興味が今よりも高まる可能性もある。株主総会のIT化が、現在の株価低迷の状況に一石を投じることになるかもしれない。
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[西坂真人, ITmedia]
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