News | 2003年7月23日 11:41 AM 更新 |
講演は、出井氏が日立製作所と初めて仕事をしたときの「個人的なエピソード」から、ソニーと日立製作所の「両極的な相違」、日本IT業界を取り巻く環境変化の実態から、出井氏が深くかかわったIT戦略会議、そのIT戦略会議が打ち出した第2次答申と話題は進んでいった。
ソニーと日立製作所の比較で、出井氏が繰り返し述べたのが「企業カルチャーがまったく別」と語る両社の違い。日立が「情報ライフライン」を標榜し、日本の基幹インフラを整備していったのに対し、コンシューマーを重視し、国外売り上げが7割を占めるソニー。「ソニーは端末の会社、インフラは日立」と、ライバルというよりは、お互いを補完しあう最適な協業パートナー、というのが日立製作所に対する出井氏の評価だ。
「日本の技術力がピークだったのは、VTRの開発競争が激しかった1980年代」と、現在の苦境に陥っている日本の産業界に話題が移った出井氏は、PCの出現によって発生した構造の変化とその対応の見誤りが、トップの座を米国、台湾に奪われる原因となったと述べる。
PCの世界は、業界で発生したデファクトスタンダードにあわせて開発した製品を世界的なスケールで展開する。しかし、日本では独自規格に基づいた製品にこだわったために世界展開ができなかった。「垂直展開から水平展開への変換ができなかった」ために、トップの座を明け渡した、というのが出井氏の分析だ(そのソニーは、現在、自社内製化による垂直展開を推進して“商品力を高める”方針をとっているのは興味深いところ)。
しかし「米国、台湾に遅れをとった日本産業にとって、いまが逆転のチャンス」と出井氏は主張する。それが、この2〜3年で急速に普及した広帯域で安価なブロードバントネットワークと、無線LANだ。
かつてNTT独占のもと「高くて遅い」だったネットワーク環境は、いまや米国、韓国と比べても格段に「速くて安い」状況に。また、携帯電話によるインターネット利用や、無線LANと小型チップ、携帯端末の発展で「ユビキタス社会」が現実になろうとしている。
米国が、インフラの旧式化や広い国土、法律の改正などでネットワーク環境が「それほど速くなくそれほど安くない」状況に陥り、国内で使える携帯電話に一貫したポリシーがなく、「数少ない輸出品であるコンテンツに対して著作権保護の対策がなおざり」であるのに対して、日本は十分逆転できる可能性がある、と出井氏は満席の聴衆にアピールする。「2年前に阪神が優勝する、といったらぜんぜん相手にされなかったけれど、今ならみんなその気になっているじゃないですか」
「同じ大学の卒業が集まった宴会で、ITがらみの話をしていた小渕元首相が、その宴会の直後に倒れて亡くなられてしまった」という経緯で議長を引き受けることになった「IT戦略会議」。物理的な通信インフラの整備を打ち出した第1次の答申をうけて、第2次答申では「共通サービスインフラの整備」を打ち出している。
「第1次答申には国民のメリットが書いていないと指摘された。今回は通信基盤ができた上で縦割りの日本に横方向に共通のサービスを整備する」というのが、出井氏の説明だ。しかし、縦割り組織の中に横志向の展開することが、非常に困難であることも出井氏は十分知っている。「そこで、7つの分野を設定してそれぞれの分野を各省庁に分散、そのうえで横方向の共通サービスを展開する」(出井氏)
講演の最後に、日本の産業界のために必要なこととして、「何よりも自信を持つこと」と主張した出井氏。「(IT)産業に対して興味が薄い」と出井氏が語る小泉首相相手に、答申内容がきちんと実行されているか監視を行っていく日々がしばらく続くのだろうか。
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[長浜和也, ITmedia]
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