News 2003年7月31日 08:46 PM 更新

拠点の集約化でR&Dの強化を目指すNEC

NECは7月31日、同社の研究・技術開発体制の具体的な強化策を発表した。今回発表された内容で「技術力の低下に不安を感じ始めた」投資家は納得するかもしれないが、肝心の「失われた社員の自信」は果たして回復できるだろうか。

 記者発表に出席したNECの杉山峯夫氏(代表取締役副社長)は、研究開発体制を強化する背景を「産業界を取り巻く環境の変化や、構造変換に対応する“先取り”の動きが遅れてしまったため、NECは苦境に陥ってしまった。これまでは、財務などの直近の問題に集中していたが、その分、技術関連への投資が遅れてしまい、投資家は不安を抱き、社員は技術的な自信を喪失してしまった」と説明した。


NEC 杉山峯夫氏

 今回NECが打ち出した強化策は「コアコンピダンスであるテクノロジー集積の実現」「バランスシートの圧縮による“持たざる経営”の推進」と表現されている。

 「テクノロジー集積の実現」の具体策は「研究開発拠点の集約化」。「持たざる経営の推進」の具体策は「研究開発部門における適正コストの評価」。

 従来、NECは以下の8拠点の事業所に分かれて研究開発を行ってきた。

筑波ナノテク、バイオ、材料などの先端研究
生駒インターネット関連ソフトウェア開発
宮崎台アーキテクチャ、実装技術研究
玉川実装、生産技術、SOC設計
三田本社バイオインフォマテックス研究
府中オープンミッションクリティカルソフトウェア、NAS、SAN開発
大津化合物デバイス
相模原シリコンデバイス設計

 発表された強化プランでは、宮崎台、府中、三田本社の研究開発部署を、現在拡張中の玉川事業所に移管させ、研究開発拠点を5カ所に集中させる。宮崎台事業所、また玉川事業所で生産拠点として使われていた施設については、売却処分されることになっており、現在業者との売買交渉が行われている。

 宮崎台事業所の廃止について、NECは「住宅地に変貌した宮崎台で研究開発活動を行うことは、廃棄物の処理も含めてさまざまな問題がある」と説明した。

 5拠点に集約されることで、各事業所における研究開発分野は以下のように変更される。

筑波ナノテク、バイオ、材料などの先端研究
生駒インターネット関連ソフトウェア開発
玉川ソリューション関連、生産技術、SOC設計
相模原シリコンデバイス設計、実装技術開発
大津化合物デバイス

 ちなみに、生駒、大津拠点が地理的に集約されていないように見えるが、これについてNECは「ソフトウェア開発の生駒については、地理的集約はそれほど必要ないし、不安定な化合物を扱っている大津拠点は生産ラインと隣接する必要がある」(渡辺久恒氏 NEC 研究開発担当執行役員)という理由から、これからも集約される可能性は低いとしている。


NEC 渡辺久恒氏。新規の研究開発事業についてのコメントはなかったが、量子コンピュータの研究進捗について「秋にはまた何らかの成果を発表できるだろう」と述べている

 今回の集約プランの目玉は、研究開発拠点がなくなる宮崎台と府中で行っている分野が集約される「玉川事業所」だ(実装技術開発分野だけは、相模原事業所に移管)。

 この事業所は現在、川崎市の武蔵小杉駅周辺で建設が行われている3棟連結の「玉川ルネッサンスシティ」と呼ばれる高層ビル。運用がすでに始まっているA棟は地上26階地下2階、2005年1月に完成するB棟は地上37階地下1階という大規模な研究開発施設となる。ただし、「持たざる経営」方針のため、この大規模な施設も「自社ビルではない」(杉山氏)

 NECは、研究開発拠点の集約化がもたらすメリットを「研究所内シナジー最大化による研究開発強化と、事業部門との連携強化に向けた研究拠点展開」(杉山氏)と表現するが、つまるところ「物理的な距離が短くなることで、スタッフの連携、事業部門との連携をよくする」(渡辺氏)ことが目的だ。

 記者会見では、研究開発部門と事業部門における連携強化の具体例としてモバイル事業が紹介された。


携帯電話を扱うモバイル事業の関連開発部隊はすべて玉川事業所に集約される。RF、音声画像、実装技術の研究を行うセクションと、製品に実装するLSI、デバイス、低消費電力技術を開発する「NECエレクトロニクス」を1カ所に集めることで連携を強化し、製品開発を迅速に行う。なお、モバイル事業の拠点であった横浜事業所も、今回の玉川集約で廃止、売却される


今回の拠点統合による京浜地区の研究開発体制。研究開発拠点がなくなる、三田本社はSI・営業拠点として機能し、府中はコンピュータや社会インフラ関連事業を行うことになる。また、これまで玉川にあった光ネットワーク事業は我孫子のIPネットワーク事業に集約し、ブロードバンドを扱う「光・IP融合事業」として立ち上げる

 今回発表された強化策に関する説明は、ほとんどが拠点集約に関するもの。人員などの増強については「玉川事業所に10%ほどの余剰スペースがある」と述べたものの、具体的な人員増強、研究開発予算の拡大、新規の先端技術研究については、何も説明がなかった。

 量子コンピュータ、ナノチューブ、SUPERCOMPTER SITEのTOP500など、最先端の研究開発では世界のトップと渡り合ってきたNECであるが、その「競争力の強化」は事業所の統合だけで実現できるものではない。陣容を充実させて次の一手にどれだけのパワーを費やすのか。技術者の自信を回復するには、誇れる「成果」と研究を支える充実した「予算」も必要ではないだろうか。

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[長浜和也, ITmedia]

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