News:アンカーデスク | 2003年8月4日 08:57 AM 更新 |
先月の初め、某ニュースサイトの企画で、エレキットの真空管アンプのキット「TU-870」を購入した。組み立てて音を出してみると、価格の割にはなかなかきれいな音が出る。それ以来すっかり真空管の魅力に取りつかれてしまい、このてんまつが記事として掲載された後も、仕事場のアンプとしてそのまま居座っている。
「真空管」という部品は、エレクトロニクス大国の住人であるわれわれ日本人の生活には、既に必要のないものとなってしまった。従って、かつて真空管を製造していた国内メーカーは、今となってはまったく製造していない。マツダ(のちの東芝)、ナショナル、NECなど、今でも日本を支える企業である(もしかすると国内でも小さな専門メーカーで作っているところもあるかもしれない。もしそうだったらごめんなさい)。
真空管には大きく分けて二つの働きある。一つは交流電源を直流にするための整流機能、もう一つはなんらかの信号を増幅するための機能である。もっともブラウン管も真空管の一種なのだが、これは用途が違うので今回はおいておく。もともと真空管は、放送とは切っても切り離せない関係にあった。微弱な放送電波をキャッチして、スピーカーを鳴らすまでに信号を増幅するわけである。従って、ラジオやテレビに多く使われていた。
真空管の終焉を具体的に記す資料はないが、1955年にソニーから初のトランジスタラジオ「TR-55」が、また1960年に同じくソニーからトランジスタ型テレビ「8-301」が発売されていることから、そのあたりから70年代初めにかけて徐々にトランジスタに市場を奪われていったようである。筆者が東京に出てきたのが80年代前半なので、それ以前の秋葉原の様子は知らない。が、今でもパーツ類を扱っている店は、「ナントカ電子」という名前が多いのに気付く。
ICやコンデンサを扱って「電子」は大げさだ。かといって電子レンジを扱っているわけでもない。この電子という名前は、やはり真空管を扱っていた頃の名残であろう。真空管とは、真空のガラス管内に電子を飛ばす装置なのである。
意外に簡単な真空管探し
オーディオアンプ類は、パーツを変えれば音が変わる。抵抗やコンデンサを変えるのはハンダで固定しないといけないので、交換して比較するのは大変だが、真空管ならば引っ張って抜けばいいので、いろいろ付け替えて試してみるのは簡単である。真空管を変えるだけでどれぐらい音が変わるものか興味がわいたので、このアンプの真空管を取り替えて遊んでみることにした。
あらかじめ言い訳しておくが、筆者がなんぼオッサンだといっても、さすがに真空管リアルタイマーとは言えない。子供の頃、父親がテレビの裏側でなにやら差し替えていた記憶はあるが、訳も分からず後ろから見ていただけだ。昔、真空管でラジオ作ったなんて人は、筆者よりはだいぶお兄さんのハズである。
真空管は秋葉原に行けば売ってるだろうということは予想できたが、実際に買うのはおろか、探すのだって初めてである。今となってはパソコンの街となった秋葉原で真空管探しはさぞや難航するだろうと思っていたのだが、意外にも予想どおりの場所で見つかった。
まずはいわゆる「ガード下」と呼ばれるラジオセンター。JR電気街出口切符売り場の正面「ラジオ会館」。駅から昭和通りを渡った「ラジオデパート」。どれもラジオの名を残すパーツ街である。昔はラジオの自作でさぞや賑わったことだろうが、今も変わらず同じ場所、しかも駅から近いアキバの中心地で営業を続けているのがスゴイ。
現在でも真空管を製造しているのは、ロシアを中心に旧ソ連だった国々と、中国である。かつて日本企業の工場がそこにあったのだが、撤退したあともそのまま残された製造機械を使って作っているところも多いという。そういえばこのキットに含まれているものも、ユーゴスラビアのEi製であった。これらの国が未だに真空管を作り続けているのは、軍の需要があるからである。故障が少なく安定して動くことから、通信機などで使用されているという。
日本で比較的手に入りやすいものはロシア製で、SovtekやSverlanaといったメーカーがよく知られている。
Sovtekはギターアンプなども作っていて、音楽をやっている人の間でも知られているという。国産の管も売られているが、もはや在庫しかないので、ロシア管に比べると3〜4倍の値段が付いている。
確かに音が変わる
真空管には型番があって、メーカーは違っても同じ型番のものであれば差し替えが利く。TU-870に使われているのは、6BM8というモデルである。とりあえずキットに付いてきたものを含めて3種類ぐらいあればいいか、と思い、価格的に手頃なものを2種類買った。
[小寺信良, ITmedia]
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