News:アンカーデスク 2003年9月1日 10:56 AM 更新

両親にインターネットを使わせるとしたら(2/2)


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 解決方法としては、ISDNにするかADSLにするかだが、今更ISDNでもないだろう。TAが余っている人も多いことだろうが、回線速度と料金から考えれば、メリットはほとんどない。一応「AirH"」の定額料金サービスも検討してみたが、モバイルで使えるから4930円という価格でもメリットがあるわけで、場所が固定では安いとは言い切れない。

 従って、ADSLがもっとも妥当な選択となるだろう。だがここにもいろいろな落とし穴がある。まずは、料金体系の複雑さだ。プロバイダー利用料、ADSL利用料、モデムレンタル料、ADSL回線使用料などなどがずらずらと並ぶ。このような料金体系が、われわれの両親に理解できるとはとうてい思えない。またNTTのフレッツADSLでは、その料金が別途かかるという。合計すると、4000〜5000円になりそうであった。

 このような料金体系は、シニアにとっては「結局月額いくらなのか」が分かりにくい。それにどれぐらい使うのかわからないのに、毎月5000円弱の出費は高いと思わざるを得ない。

 また、もう一つの落とし穴が、IP電話である。例えばYahoo! BBでは、今なら「最大2ヶ月間電話代がタダ!」という無料体験キャンペーンを実施している。具体的にはBBフォンの通話料指したものだが、これを義母が勘違いした。つまりNTTに支払うフレッツADSL月額利用料が2カ月タダなのかと思った、というのである。

 シニアにとって、電話回線を使っていれば、話をしようがインターネットを使おうが、電話代は電話代だと思っているし、そもそもIP電話という仕組みはインプットされていないのであるから、無理はない。

 もっとシンプルな契約はないものかと探していたところ、ACCAでADSLエントリーサービスとして、1Mbpsのサービスがあることを知った。各プロバイダーもそれに対応したコースを設定している。

 このメリットはNTTのフレッツADSLと違って、料金体系もプロバイダーから一括請求されるので分かりやすい点、1Mでも8Mに変更したときの実行速度が分かる点、高速回線への変更手数料がかからない点、そしてもちろん料金的に安いということも見逃せない。

 インターネットに依存率の高いわれわれならば眼中にないプランだが、どれぐらいの利用度があるのかわからない場合にはこのようなサービスは便利だ。しかも多くのプロバイダで、3カ月無料キャンペーンを行なっている。

 ただこれも、問題がないわけではない。ほとんどのプロバイダーはオンラインサインアップすれば割引キャンペーンが適用されるが、そもそもネットにつながっていない状態でオンラインもなにもあったもんじゃない。

 また一時的にサインアップできても、支払い方法がクレジットカードしかないのが痛い。シニア世代では、クレジットカードの保有率は案外低いのだ。これは「カード破産」という時代を定年前に生きてきた人たちの典型的な反応で、「カードは怖い」という思いがあるからだ。

 某大手プロバイダに電話で確認したところ、書面で申し込めば振り込みでの支払いも可能だという。だが申し込み手続きに時間がかかるため、キャンペーン期間中に間に合うかどうかは微妙、ということであった。

結局何が目的なのか

 これがデジタルデバイドの姿だ、という切り口で行けば、両親にインターネットを使わせるというのはいささか極端な話かもしれない。しかし突き詰めていけば、デジタルデバイドを作っていったのは、実はデバイドのこちら側の人間だという気がしてくる。そしてそれを乗り越えるための方法は、デバイドの向こう側の人に投げっぱなしなんじゃないか、とも思うのである。

 例えば家電メーカーは、テレビやケータイをインターネット端末にするために奔走している。いままで使い慣れたもので、溝を埋めようとしているわけだ。これらはすべて、デバイドのあちら側の人が自力で溝を跳び越えるための試みだと言えるだろう。しかしそれらに欠けているのは、「何のために」という視点だ。

 現状のテレビやケータイで満足している人は、大勢存在する。テレビはテレビ、そう思っている人々が、それ以上のことを求めるのだろうか。われわれデバイドのこちら側にいる人間がインターネットに飛びついたのは、それが「何にも似ていない」からではなかっただろうか。

 結局のところ、自分の両親がパソコンが使えるようになったり、メールが出せるようになれば、それでデジタルデバイドは埋まったことになるのか。筆者はそうは思わないし、それはどうでもいいと思っている。

 それよりも、パソコンのことで親とよく電話で話すようになった、ということぐらいでも十分価値はある。写真をメールで送ったり、サイトで近況を報告したりといったことは、もっと先でもいい。デジタルデバイドをネタに、こちら側の人間とあちら側の人間が双方歩み寄って、一緒に話したりすることが重要であろう。われわれはコンピュータ技術のことには詳しいかもしれない。しかし先人は、自然の摂理やちょっとした知恵、あるいは経験に基づいた科学など、もっと違うことに詳しいはずなのだ。

 離れて暮らす両親との距離が近づけばそれでいい。手段はインターネットでもなんでもいいが、重要なのは、人間同士が物理的距離を超えて、よりつながり合うことなのである。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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[小寺信良, ITmedia]

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