News 2003年9月2日 05:15 PM 更新

「中年の危機」をOneTouchで打開するMaxtor

8月27日にMaxtorから発表された「OneTouch」は、一新されたデザインや8Mバイトキャッシュ・最大容量300Gバイトという高スペックが特徴の外付けHDDユニットだ。来日した同社マーケティング担当副社長のStephen DiFranco氏に、日本におけるOneTouchの販売戦略について話を伺った。

外付けHDDで日本市場に挑戦するMaxtor

 今回、「OneTouch」プロモーションのために来日した米MaxtorのStephen DiFranco氏(Vice president of Corporate marketing and branding)へのインタビューで筆者が意外に感じたのは、同氏が来日した目的の一つとして「日本市場におけるMaxtorブランドの再確認」を挙げたことだった。

 というのも、アキバのパーツショップにおけるMaxtorの存在感は十分に大きく、ブランドイメージが与える信頼感とパフォーマンスに対する期待感は、日本のユーザーにはすでに広く浸透していると考えていたからだ。

 とくに昨年から今年にかけて、7200rpm、プラッタ容量80Gバイト、大容量化に静音化と、最新技術を反映した製品をいち早く投入し、動きの激しかった内蔵型HDD市場で一定の成果を上げているのは、多くのユーザーの認めるところだろう。

 しかし、DiFranco氏が今回の来日で、“再確認”しようとしているのは、“ベアドライブベンダーとしてのMaxtor”ではなかった。昨年から投入した外付けHDD製品の、日本市場におけるMaxtorの認識(認知度)だったのだ。

 確かに外付けHDDユニットという周辺機器市場では、国内ではメルコやアイ・オー・データ機器といった有力ベンダーが幅を利かせている。HDDドライブベンダーとしてパーツショップに出入りする自作PCユーザーや、企業の基幹ストレージとしてIT部門業界では知られているMaxtorも、日本の周辺機器市場ではスタートしたばかり。

 今回投入する新世代外付けHDDユニット「OneTouch」は、7200rpm、8Mバイトキャッシュ実装とスペックとパフォーマンスで競合製品との差別化を図っている。従来製品の「PersonalStorage」のOneTouchボタン機能でアピールしてきた「ボタン一つでバックアップ」という簡便な操作体系は継承しているだけでなく、新世代OneTouchではボタンを押したときの動作をユーザーが自由にカスタマイズできるなどの改良も加えられている。スクリプトを搭載しているので、バッチプログラムをユーザーが記述して複雑な動作をさせることも可能だ。

 DiFranco氏は、「単なる周辺機器ベンダーの外付けHDDユニットでは、どこのどんなHDDドライブが組み込まれているかをユーザーが知ることは難しい。しかし、Maxtorが販売する外付けユニットならば、中に入っているドライブがなんであり、誰が作ったものなのか、ユーザーはすぐに知ることができる」と、HDDベンダー自らが周辺機器を販売するメリットをアピールする。

 しかし、日本で外付けHDDユニットを購入するユーザーは、アキバのパーツショップではなく、郊外の量販店で購入するケースが圧倒的に多い。日本で周辺機器ベンダーの地位を確立するためには、このような「郊外の量販店」でどれだけ陳列棚を確保できるかが大きな要素となってくる。しかし陳列棚を確保するためには、独特な「日本の商習慣」にも対応していかなければならない。

 こうした国内流通業界の特殊性については、DiFranco氏は「勉強中」といったところのようだ。日本法人のスタッフと協力して、量販流通界に深く広く浸透していくか。もしくは、ほかの外販ITベンダーのように直販流通で特定ユーザーに向けて販売していくのか。このあたりの作戦についてはこれから立案していくというのが、日本におけるOneTouch展開戦略の現状だ。

革新的な技術は

 外付けHDDユニットベンダーとしてのブランド戦略を強化中とはいえ、多くの日本人ユーザーにとってMaxtorのイメージは、やはり「HDDベンダー」。これは否定できないことだろう。このところ新技術の投入で活気付いていたHDD市場だが、Serial ATA製品の投入以後、市場をさらに活性化させるきっかけとなるテクノロジーには何があるのだろうか。

 DiFranco氏は未公表の技術については具体的な話はできないとしながら、「Maxtorは記録密度とキャッシュサイズの増加およびドライブのパフォーマンスの改善を含む革新的なHDD技術のための研究開発を続けているところだ」と話した。こうした新技術の多くはすでに保有しているとのことだった。

 HDDに関心のある人なら気になる垂直磁気記録の開発状況についても、DiFranco氏は同様の理由でコメントを差し控えている。ならば、Seagateが新製品を投入し、Western Digitalが参入計画を発表している「ノートPC向けHDD市場」にMaxtorは参入しないのだろうか。

 同社はまだ市場に出していない製品についてコメントしないとのことで、DiFranco氏の答えは次のようなものだった。

 「ノートPC向けHDD市場は供給過剰な状態にある。Seagateの参入によってその傾向が一段と強まった。そもそも市場規模がそれほど大きくない以上、そこでビジネスを成功させるのは容易ではない。現状ではMaxtorがノートPC向けにHDDを供給する可能性は低い」

 「もしノートPCの市場がホワイトボックス市場のように伸びてきて、Serial ATAがノートPCに導入されるようになれば、われわれは市場参入に向けてフィージビリティ・スタディを開始するだろう。Maxtorは、正しいタイミングでこの市場に参入をする。それは、ビジネス、ファイナンシャル、およびマーケットの需要という視点から見て、理に適ったものでなければならない」(DiFranco氏)

外付けHDDで活路を切り開く?

 HDDではこの2〜3年、記録密度は6〜8カ月ごとに増加していったが、現在は(記録密度を向上させた)新たなドライブが誕生するまで12〜18カ月を要するというのが、最も一般的なトレンドとなっている。これをHDD業界における「中年の危機」と見る向きもある(8月12日の記事参照)。

 このような業界における「中年の危機」を、Maxtorでは、OneTouchという外付けHDDユニット事業の拡大によってまず打破していこうとしているようだ。無論、その中には日本市場も含まれる。

 そのためにも、日本における周辺機器ベンダーとしてのMaxtorの認知度を向上させ、国内でのコンシューマービジネスの更なる拡大をつなげることが不可欠。「日本市場におけるMaxtorブランドの再確認」という、来日に当たってDiFranco氏がちょっと意外な理由を挙げた背景には、同社のそうした戦略があったようだ。



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[長浜和也, ITmedia]

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