News:アンカーデスク | 2003年9月8日 02:52 AM 更新 |
9月2日に発表されたソニーのHDDレコーダー「コクーン」の新モデル「CSV-EX11」は、500GバイトというHDDの巨大さで他社を圧倒した。しかし筆者はこの製品に、ある種の焦りを感じてしまうのだ。それはソニーがこのモデルで、その過ちを認めているからに他ならない。
針路を間違えた?ソニーのレコーダー戦略
ソニーのいわゆる「次世代レコーダー」戦略は、2000年の「Clip-On」から始まった。当時、PCでHDD録画というスタイルは既にできあがっていたが、AV機器としてのHDD録画機はまだなく、スタート時期としてはなかなか早かった(2000年6月22日の記事。録画システムには、いち早くEPGを搭載してその利便性をアピールした。Clip-Onはその後マイナーチェンジを繰り返して最終的には3モデルとなった。
Clip-Onの基本コンセプトは、「見たら消す」という、極限まで割り切ったものであった。DVDのような、“外部メディアに映像を書き出す”ような機能は、一切付いていない。すなわちレコーダーとは言うものの、その実態は「電波のバッファー」なのである。このコンセプトは新しいが、「それでOK」と割り切れるユーザーはそう多くはなかった。
ソニーという会社は、失敗から学ぶことができる企業である。「そうかそうか、Clip-Onはダメか」ということで次にリリースしたのが、「チャンネルサーバ(CSV-S55)」だ。Clip-OnからアナログBSチューナーやHQ録画モード、編集機能などがカットされ、実勢価格も9万円程度であったようだ(2002年4月15日の記事)。
キーワードを登録しておけば勝手に録画するという「おまかせ・まる録」機能が、このモデルで初めて登場した。だが基本の「見たら消す」というスタンスは変わらなかった。
安ければそれで売れるということでもない。加えてコストダウンに伴うデザイン的な魅力の損失は大きく、市場にはさほどのインパクトも与えずに、今となっては“レアもの扱い”となっている。
ソニーという会社は、失敗から学ぶことができる企業である。「そうかそうか、チャンネルサーバもアレか」ということで2002年11月、HDレコーダーの新シリーズ「コクーン(CSV-E77)」を市場に投入する。独特のフォルムで“モノとしての質感”をアップし、久々にソニーらしいデザインであった。
2系統のチューナーを搭載し、予約録画中に裏番組を見たり録画できるというのは、Clip-On時代からメンメンと培われた「録画チャンスは死んでも逃さない」という、執拗(しつよう)なまでのコダワリが結実した結果である。「チャンネルサーバ」というコンセプトを、さらに深化させたものと言えるだろう。
だが相変わらず基本は「見たら消す」であり、保存する手段はない。背面にEther端子は着いているが、これは番組データのやりとりに使うだけで、映像を取り出したりすることはできない。
ソニーという会社は、失敗から学ぶことができる企業である。だがこの件に関しては、失敗から学ぶものが間違っている。「見たら捨てる」という文化は、日本には根付かないのだ。そこにはちゃんと理由がある。
[小寺信良, ITmedia]
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
前のページ | 1/3 | 次のページ