News 2003年10月20日 10:09 PM 更新

「授業中はヒマだからゲーム」──「情報」必修化と“教室内デジタルデバイド”

高校で「情報」が必修になったのに合わせ、パソコン検定に「4級ベーシック」が新設された。普段からPCに接している生徒たちは、「情報」の授業やP検をどう見ているのだろうか。

 10月16日から18日の3日間、高校生向けのパソコン検定試験「4級ベーシック」の第1回試験が行われた。高校では本年度から「情報」が必修科目になった。生徒たちは、「情報」の授業やP検をどう見ているのだろうか。


受検のルールや操作法を川崎教諭(中央奥)が解説、例題で練習をしてから本番に臨む。紙のテストと違い「練習がある」ことに驚く生徒も

 東京都文京区の筑波大学付属高校では10月17日、4級ベーシック検定に40人が取り組んだ。内訳は「情報A」の授業を受けている1年生がほとんど。PCで行うCBT(Computer Based Testing)形式で行われ、日本語の文章を入力するタイピング試験と、選択式の知識問題、WordやExcelなどを実際に操作する実技問題に挑戦した。

 タイピング試験では、44行の例文を10分間で入力する。市販のタイピングソフトのように、タイプミスをすると正しく入力できるまで先に進めない仕組みで、合格には3割以上の入力が必要。完璧なタッチタイピングで時間内に悠々と終わらせてしまう生徒から、キーボードをにらみながら1字1字丁寧に入れる生徒までさまざまだ。


タイピングが一足先に終わってしまって退屈そうな生徒


タイピング試験が終わった瞬間頭をかかえる生徒。家のPCで「名探偵コナン」のタイピングソフトを利用して練習してきたのだが、問題内容があまりに違いすぎて役に立たなかったという。「“犯人はお前だ!”ならすぐタイプできるのに、問題は“島崎藤村がどうした”とか普段絶対タイプしないような内容ばかりで……」と悔しそうだった

 その後は4択問題。「学校の各教室にあるコンピュータをお互いに接続したネットワークの名称として、最も適切なものを選択して下さい」「フォルダについての説明として、正しいものを選択して下さい」などとネットワークやPCについての知識を問われる。その後WordやExcelのシミュレーターで、指示された通りの文章やグラフを作ったり、印刷などの操作をする実技試験を行う。あわせて6割以上の正答で合格だ。

“高卒程度のPCスキル”を検定

 パソコン検定試験(P検)は、民間団体の「パソコン検定協会」によって運営されている検定試験。PC入門者用レベルの6級から、企業の情報化推進のリーダーとして活躍できるレベルの1級まで9レベルに分かれている。試験内容は、現場の教諭やマイクロソフトなどで構成する評議会が監修している。

 2002年度は合計9万3000人が受検。企業が社員のPCのレベルを計る指標として採用したり、4級以上の資格取得者は158大学322学部の入試で優遇措置を受けられる。

 「4級ベーシック」は、文部科学省が今年度から高校課程に必修教科「情報」3科目(情報A、情報B、情報C)を新設したのに対応した。8割以上の高校が採用している「情報A」に準拠しており、合格すれば“高校卒業程度のPCレベル”があるということになる。

実力を確認、向上するきっかけに

 同校では「情報A」が1年生の必修科目。週2回の授業では、著作権など情報モラルの学習からPCアプリケーションの演習、ネットを活用した資料集めやプレゼンテーション資料の作成などを学ぶ。

 同校でのP検受検を企画した川崎宣昭教諭は情報と数学の担当。P検4級ベーシックの試験内容を検討する評議会の委員も務めている。受検で「生徒が自分の実力を確認し、さらに上をめざす動機付けになれば」と導入することにした。

 受検を終えた生徒たちの感想はさまざま。「思ったより簡単だった」「タイピングはできたけど、知識問題にてこずった」という男子生徒もいれば、「難しかった」という女子生徒も。特にタイピングなどの実技では、普段からPCを使い慣れているかどうかで難易度に差がつくようだ。

浮き彫りになる“教室内デジタルデバイド”

 「既に知っていることが多く退屈」──情報Aを学ぶ多くの生徒がこう漏らす。

 例えばある生徒は、中学の総合学習でPCの基礎的な使い方は学んでおり、PCを自宅でもよく使う。こんな生徒にとって「授業でやることは知っていることばかり」なので、「授業中は暇なので、ゲームやWebブラウズをしている」。PCの普及が進み、自分専用のPCを持つ子どもも珍しくない。


「2ちゃんねる」発のFlashアニメ「たのしい国語」を友人の男子生徒(左)に見せる女子生徒(右)。彼女はクラス随一の「2ちゃんねらー」らしく、Flashアニメを集めたサイトから、有名なFlashアニメ「よしのや」なども再生して見せていた

 その一方で、自宅にPCがないため操作に慣れず、授業についていけない生徒も少数ながらいるという。生徒によると「人前でPC操作を恥ずかしがるため、P検も受けにきていない」という。検定は「実力を把握し、学習の動機付けをする」のが目的のはずなのだが……。

 生徒のPCへの習熟度はさまざまだ。クラスの全員を授業に参加させるには、教師の力量が大切になってくる。例えば「知ってることばかり」のつもりの生徒に対しては、「実は知らないことばかりだった」と学習意欲を盛り上げるような教材作りも必要になるだろう。

 ところがここで問題になるのが教師の指導力の差だ。川崎教諭は筑波大学で情報教育にも関わる専門家。「授業で新たに学ぶことや考えさせられることも多い」と生徒の評価は高い。

 しかし川崎教諭のように専門スキルを持つ人材は少ない。大学で専門の教職課程を修了した教師が教えているケースはまれで、数学や家庭科などの教師が90時間の研修を経ただけで四苦八苦しながら授業に当たっているのが現状。“趣味でPCに詳しいから”という理由で担当にさせられた教師も少なくない。教師よりもPCに詳しい生徒が逆に教師に教えてあげるという笑えないケースもある。

 「知ってることばかり」の生徒がいる一方で「人前でPC操作を恥ずかしがる」生徒、PC操作を生徒に教わる教師──「情報」科目の一斉必修化が逆に“教室内デジタルデバイド”を顕在化してしまった。スタートしたばかりの情報教育だが、教材の工夫やノウハウの蓄積、自宅にPCがない生徒へのサポートなど、地道な取り組みが必要になりそうだ。

関連リンク
▼ パソコン検定協会
▼ 筑波大学付属高等学校

[岡田有花, ITmedia]

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