News 2003年10月30日 09:49 PM 更新

「オムロン技術展」を見てきました

血圧計、自動改札機、FA機器、ケータイ向け部品と幅広い分野で活躍するオムロンのテクノロジー。その最先端技術が集まった技術展「OTF(OMRON Technology Innovation Fair)2003」を、京都まで行って見てきた。

 「オムロン」といえば、われわれの生活の中では血圧計や体温計といったヘルスケア製品で知られている。最近は、低価格なマッサージチェアなども隠れたヒット商品になっており、実は筆者宅でも活躍中だ。

 PC歴10年前後のユーザーには、モデムメーカーとしてのイメージも強いだろう。モバイルがまだモービルと呼ばれていた頃に「Massif」というキーボード付きの携帯通信端末(実はPC/XT機)を出していたりもした。ロボット好きには「ネコロ」なんてのもある。

 見えないところでも、いやむしろわれわれが目にしない分野で同社技術は活躍している。駅の券売機や自動改札機はほとんどがオムロン製だったり、工場のオートメーション化に欠かせないFA制御機器分野ではトップシェアを誇る。最近では、携帯電話の液晶バックライト用に使うマイクロレンズアレイも好調だ。


今年5月に完成した最先端研究施設「京阪奈イノベーションセンタ」

 そんなオムロンが、このほど技術展「OTF(OMRON Technology Innovation Fair)2003」を開催した。京都に今年5月にできたばかりの同社の最先端研究施設「京阪奈イノベーションセンタ」に集結した同社最新技術のいくつかを紹介しよう。


デジカメのピント合わせにも応用できる顔認識技術

 同社は、発明した特許を使った製品の年間売上高が10億円を超えた場合、粗利益や事業貢献度に応じて累計で最高1億円を特許発明者に与える「スーパー特許報奨制度」を1999年に設けた。青色LEDを巡る特許訴訟など、IT業界では“発明の対価”というテーマが問題になっているなか、1つの回答を示したケースとして注目されている制度だ。

 そんな企業風土の中で開発される技術は、ユニークで独創的なものが多い。

 同社の製品に共通するテーマは「センシング&コントロール」。数ある同社センシング技術の中でも、バイオメトリクスやセキュリティなどの分野で注目されているのが「顔認識技術」だ。

 同社の顔画像センシング技術「OKAO Vision」は、コンパクトながら高い検出・認識性能を持ち、高性能なPCを使わずに高度な顔認識を行える。会場では、FPGA(Field Programmable Gate Array:現場ですぐに設計回路をハードウェアとして使えるIC)に認識エンジンを載せて、画像内にある顔の位置や大きさを検出するデモンストレーションが行われていた。


画像の中から顔の位置と大きさを瞬時に検出する「OKAO Vision」


認識エンジンは、FPGAの中にすべて収められている。使用するFPGAはXILINXの250万ゲートタイプだが、実際に使っているのは35万ゲートぐらいという

 これをASIC(特定用途向けIC)にすれば、5ミリ角ぐらいのチップにすることができ、さまざまな機器や装置に組み込むことが可能になる。デジカメのような小型機器にも搭載できるのだ。

 デジカメに顔認識技術が載ると、どんなメリットがあるのだろう。

 「例えば、デジカメの構図の中で顔が入っている場合、その顔が被写体であるケースがほとんど。あらかじめ顔の位置や大きさを検出することで、目的の顔(被写体)に最適なピントや露出を自動で設定することができる」(同社)

 この顔認識技術の優れた点は、画像のピントがボケていたり、逆光で顔が黒くつぶれてしまっているケースでも、顔の位置や大きさを正しく検出できることだ。


画像のピントがボケていたり逆光のケースでも正しく顔を検出


 「当社の顔認識技術は他社で行われている顔の肌色で検出するような色情報は使っていない。そのため、肌の色に関係なく顔認識をできるのも特徴。そのアルゴリズムは詳しくは語れないが、認識にはモノクロ画像を使用し、濃淡の差や、目鼻口の位置などで顔を検出している」(同社)

 この技術を応用すれば、監視カメラで人の顔だけにズームインしたり、ビデオデッキやDVD/HDDレコーダーなど録画機器に組み込めば録画内容から顔のあるシーンだけを抽出することも可能になる。ロボットに装備すれば、顔(人)を見つけて(認識して)話しかけるといった動作にも使える。

 「チップ1つで顔を認識するという“インテリジェンス性”を機器にプラスできる。携帯電話への搭載は、5ミリ角では難しいので、IPで提供するカタチになるだろう。チップ化の時期は未定だが、IPでの提供は来年春頃から開始する予定」(同社)


顔認識技術の応用で、年齢や性別も分かるようになる。「PCに組み込めば年齢によってインタフェースを変更できるユニバーサルデザインPCが可能なほか、コンビニの客層調査にも使える」

電波センサーで人の動きをインテリジェントに検出

 単に近くを通過するだけでは開かないが、開けようという意思持ってドアに近づくと、行動を先回りしてドアを自動で解錠する――。

 こんな“頭の良い”インテリジェンスドアを可能にするのが「プリタッチセンシング技術」だ。同社は、広帯域の電波を使って人の動きや位置を正確に感知するセンサーを開発。会場では、ドアノブに組み込んだ応用例を紹介していた。

 ドアノブの中に組み込まれた電波センサーが、ノブに触れようとする手の動きを5センチ手前で感知すると同時に利用者が持っているICタグを瞬時に認証してドアのカギを開ける。その間わずか0.2秒というハヤワザだ。


開けようという意思持って近づくとドアを解錠する

 「電波センサーでは距離の変化を見ており、仮にドアの横を通過するだけの時にドアノブに触るか触らないかぐらい手が近づいても解錠しない。手の動きが直線的な距離の変化なのか、加速度がついたドアを開けようとする行動なのかを、距離変化で認識できるのが今回のシステムの特徴」(同社)

 日産のマーチなどには、キー側のボタンを押さなくてもキーを身に付けていれば、自動車のドアボタンを押すだけで解錠する進化したキーレスエントリーシステム「インテリジェントキー」が装備されている。だが、プリタッチセンシング技術をこのようなキーレスエントリーに応用すれば、自動車のドアボタンすら押さずに、手を伸ばしただけで解錠するシステムも可能になるのだ。

 「電波方式は、赤外線や超音波方式などと比べて、泥/汚れ/粉塵などがある環境でも安定して作動するのが特徴。自動車などの過酷な使用条件にも十分対応できるほか、手袋ごしにも作動する。機器システムも電波を送受信する針金状のアンテナと基板があるだけで、手の幅が取れるところがあれば組み込める。電波感度を上げることで、高齢者や体の不自由な人が機器に触れずに操作できるような仕組みにも応用可能」(同社)

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▼ オムロン

[西坂真人, ITmedia]

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