News | 2003年11月13日 00:13 AM 更新 |
11月12日からパシフィコ横浜で開催している組み込み技術の展示会「Embedded Technology 2003」で、セイコーエプソンの“ある参考出展”に来場者の注目が集まっている。組み込み技術者の熱い視線の先にあったのは、同社が開発品として披露した「無接点電力伝送モジュール」だ。
金属部などの接点を持たずに非接触で充電を行う無接点充電システムは、家庭用電話機の子機やPHSなどの充電器ですでに一般的なテクノロジーだ。
一次コイル(充電器)と二次コイル(本体)とを磁気的に結合し、一次コイルから発生する交流磁場で二次コイルに電圧を発生させる「電磁誘導方式」によって、非接触で二次コイル側に電力が伝送されるというこのシステムは、水まわりで使うシェーバーや電動ハブラシなど本体側に金属接点を装備できないエレクトロニクス製品にも欠かせないものとなっている。
このような既知の“ありふれた”技術に人だかりができていた理由は、同社の展示モジュールが従来品に比べて飛躍的に電力伝送効率を高めていたからだ。
新開発の無接点電力伝送モジュールは、一次側コイルと二次側コイルそれぞれの周波数特性のマッチングによって、従来ロスしていた直流抵抗値を大幅に抑えることに成功。従来品が20〜30%程度の伝送効率だったものを、約70%にまで引き上げた。
「水平/垂直/角度の位置ズレにも強く、高さで2ミリ、横で6ミリ、角度で5度のズレでも、正常位置比で8割以上の電力を確保できる。従来品では、ちょっとズレただけでも充電できなかった」(同社)
ところで、PHSには無接点方式の充電器があるのになぜ携帯電話には見当たらないのだろうか。
「従来のモジュールでは、無接点方式の伝送効率が悪かったのが最大の理由だろう。少しの電力しか送れないと、結局は充電時間が長くなってしまう」(同社)
たしかに、携帯電話の充電時間は約130分程度だが、PHSは3〜6時間と携帯電話に比べて充電時間が長い。PHSでも高速充電を売りにした三洋電機のH"端末「H-SA3001V」は約90分と短いが、その充電器をよく見ると接点がある接触型だ。
消費電力が少なく、ひんぱんに充電しなくてもいいPHSでは無接点方式でもいいが、毎日のように充電しなければならない携帯電話では、充電に数時間かかる無接点方式がこれまで敬遠されてきたのもうなずける。
「電気的な接点は、シェーバーや電動ハブラシのような“水まわり製品”には致命的だが、携帯電話ではそれほど致命的にならないことも無接点方式が採用されなかった理由の1つだろう。だがデザイン性やメンテナンスの点からも、携帯電話にも無接点方式という声は以前からあった」
新開発モジュールは、コア(磁芯)がない薄型の平面コイルを使っているため厚さも1ミリ以下となり、小型モバイル機器にも組み込みやすくなっている。同社はこれまで、無接点充電モジュールの開発は行っていなかった“新規参入組”だが、各種半導体製品開発で培った低消費電力化や小型化技術のノウハウなどが今回のモジュール作りに生かされている。
「すでに充電回路や昇圧回路を内蔵した二次コイル側モジュール開発も済んでおり、リチウムイオン充電池をつなげればすぐに携帯電話や小型モバイル機器などに組み込める」(同社)
期待が広がる応用アプリケーション
今後は、携帯電話に入るぐらいのモジュールサイズで送電/受電の両方が可能なチップを開発していく予定。実現すれば、携帯電話で無接点充電ができるだけでなく、携帯電話同士での電力の受け渡しも可能になるという。
「携帯電話のバッテリーが切れても、本体同士を近づけるだけで簡単に友達などから電力をわけてもらえる。そのほか、携帯電話から給電して音楽再生する“バッテリーレスのMDプレーヤー”を作ったり、乾電池の代わりにキャパシタ(コンデンサ)を搭載してバッテリーレスにしたTVリモコンなども可能。すでに一部メーカーには開発サンプルを提供し、商品化の話もいくつか進んでいる。来年春には量産を行いたい」(同社)
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[西坂真人, ITmedia]
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