News 2003年12月5日 09:34 PM 更新

「物量」で攻めるインテルを「質」で迎え撃つAMD

とある日本の有力PCベンダーの役員に「なぜAMDのCPUを使わないのですか?」と聞いた答えが「供給に不安があるから」 しかし、AMDは少ないFabの生産効率を向上させてインテルに戦いを挑もうとしている。

 AMDがドレスデンに最新の生産設備を誇るFab36を着工したのは、先日報道したとおり。この工場は300ミリウエハーと65ナノプロセスに対応し、2006年には稼動する予定になっている。

 当然、AMD製プロセッサの主力生産拠点となるわけだが、問題はライバルのインテルが、世界中に生産拠点を建設して稼動させていること。豊富な資金と機材を投入できるインテルと比べると、たった一つの生産拠点から出荷するCPUで戦いを挑まなければならないAMDは、ずいぶんと不利に見える。

 しかし、AMDは「無駄が多いたくさんの工場なら、効率の高い少ない工場でも対抗できる」と考えているようだ。このたび米国のAMD本社から来日した生産技術のトップが、AMDが誇る自動調整製造(Automates Precision Manufacturing:APM)をはじめとする、「高い技術力で効率の高いAMDの生産体制」について説明を行った。


APMの説明を行ったトマス・ソンダーマン氏。APM担当ディレクタとして国内外にあるFabの設計開発を統括している


ソンダーマン氏の説明に先立って登場した日本AMD取締役の吉沢俊介氏。ライバルを意識した発言でいつも聴衆を喜ばしてくれるが、今回も「AMDは10倍大きい会社を相手に一つのFabで戦わなければならない。しかし、競争力の強化はインテルのやり方だけではない。AMDはインテルと異なる方法で競争力を強化している」とアピールした

 少ないリソースと工場で、巨大なインテルに立ち向かうAMDの基本戦略は「量より質」 数少ない工場の生産効率を向上させて「クライアントが必要とする製品を、必要とするときに、必要な分だけ送り届ける」(ソンダーマン氏)体制を整えることで、AMDはインテルと競争できるとソンダーマン氏は説明する。


AMDが唱える顧客中心主義の生産体制。「クライアントが求めるパフォーマンスを実現する設計能力」(Architecting Solutions)、「設計された製品を生産できる技術力」(Creating Enabling Technologies)、「収益が出せるだけのボリュームをタイミングよく生産できる能力」(Delivering Products)といった3要素を相互に作用させて、生産体制を整えていくのがAMDの狙いだ

 少ない工場の生産効率向上を目指すAMDにとって、解決しなければならない命題は次の二つに集約される。その一つは「生産能力を最大限に引き上げること」。そしてもう一つが「歩留まりを最大限に引き上げること」。ともに工場施設としては最重要なテーマであるが、その具体的な解決には、膨大な資金を工場に投下して、生産設備を拡充する方法もあるが、リソースの限られているAMDは「生産活動におかるあらゆる局面に自動化を推し進めていく」アプローチを選択した。

 工場の自動化=オートメーションとは、なにをいまさらと思うぐらい当たり前のことに聞こえるだろう。しかし「APM」のコンセプトは生産設備といったハードウェア的自動化だけを指しているわけではない。「生産活動におけるあらゆる意思決定作業も自動化していく」(ソンダーマン氏)というのが、APMのユニークなところだ。

 APMが目指すのは「生産設備のパフォーマンスを最適化する」ことと、「製造された製品のパフォーマンスが目標レベルに到達している」こと。この二つを実現するために用意されるのが、「Advenced Process Control」「Integrated Production Scheduling」「Yield Management Systems」という三つの要素である。

 Advanced Process Control(APC)は、生産された製品の品質が、一定のレベルを逸脱していないか即時にチェックし、異常を把握した場合は迅速に製造ラインのパフォーマンスを改善することを目的としている。

 Integrated Production Scheduling(IPS)は、発生したイベントやマテリアルのライン情報といった変化する状況に応じてリアルタイムにスケジューリングを管理する機能。「意思決定のオートメーション」は、このIPSの一つとして盛り込まれる機能で、現在は「発生した事象に対処する意思決定」を自動で行っているが、将来的には、「発生する事象を予測しながらスケジューリングの決定」を自動でこなせるようになるという。

 Yield Management Systems(YMS)では、実装されたフルトレーサビリティー機能によって、製造したすべてのマテリアルが追跡可能になっている。製品に不具合が発生した場合は、それがどの工程で発生したかを短時間で確認し、その工程における問題を抽出して改善することができようになる。


このグラフの横軸は時間、縦軸はYieldである。「100% of Mature Yield」とは「収益可能になる歩留まり率」の指標であり、このラインまで歩留まりが到達する時間が短いほど、早く収益をあげることができる。APMを導入したOpteronは、それ以前の第7世代CPUと比べて非常に短い時間でこのラインまで到達しているのが分かる

 先日着工されたドレスデンのFab 36は、300ミリウェハーと65ナノプロセスの製造に対応しており、2006年に稼動を開始する予定になっている。ここでは、現在導入されているAPM 2.0の上位バージョンともいうべき「APM 3.0」が導入されることになっている。

 APM 3.0では、一カ所にコンソールが集中する中央管理式のオペレーションコントロールが導入される。先ほど紹介した「予測するスケジューリング機能」に加え、APCでは従来ロットレベルだったコントロール単位がウェハーレベルまで細分化され、YMSには、外部調達マテリアルの物性パラメータに変更が発生すると、その影響を予測してラインを自動で修正する機能が盛り込まれる。

「AMDが巨大なインテルと競合できるのはAPMのおかげ」と、生産技術の責任者でもあるソンダーマン氏は主張している。しかし、今回説明があったのは、すべて「アイデア」であって、そのアイデアを導入した結果、具体的にどれだけ効率がアップし、工場の生産能力はその程度まで拡大するのかについては「この場で具体的な値を述べることは適当でない」(ソンダーマン氏)と、明らかにしていない。

 日本の有力ベンダーが、大々的にAMD製CPUを採用できない最も大きな理由である「供給能力に対する不安」を解消するのに必要なことは、すばらしいアイデアを並べることではないはずだ。実際に工場からどれだけのチップがどれだけの時間をかけて出荷されるのか。その実績こそが唯一AMDの不安感を拭い去ってくれるはずだ。



ドレスデンで建設が続くFab 36の完成予想図(上)と、そこに導入されるAPM 3.0で採用される中央管理方式のモニタールーム(下)。ちなみに、「物量で攻めてくるライバルに質で勝負をかける」という構想は、100年前にどこかの国でもあったような……

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[長浜和也, ITmedia]

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