News:アンカーデスク 2003年12月15日 09:00 PM 更新

分かれた道はやがて一つに!? 日米のPC事情

感謝祭で始まった米国の年末商戦。それにからむ翻訳記事もいろいろ掲載されているが、それを読んで筆者が感じるのは日米のPC事情の違いだ。しかし、それは今後収束(それも日本メーカーにとってよい方向に)していくのではないかと見ている。
顔

 米国では、感謝祭とそれに続くクリスマス商戦というのは、1年の売り上げの中でも非常に重要な位置を占める。その時期までに製品ラインナップをそろえ、実際にモノを店頭に積み上げることができるかに、苦心惨憺(さんたん)するのである。セールスをそこに集中させるのは、日本のような年末・年始セールみたいなものがないから、という事情もあるだろう。米国も「元日」という文化を輸入すれば、もっと商売が楽になるかもしれない。

 大きな買い物をするのに、祝賀ムードは欠かせない。日本でもクリスマス商戦は存在するが、クリスチャンが少ない日本では、祝賀ムードは希薄だ。むしろクリスマスで喜ぶのは、プレゼントがついて回る子供と恋人同士ぐらいのもので、それ以外は無理してでも楽しそうにしなけりゃならない日という、ノルマ的な印象が強い。そんなことだから、クリスマスといえば外食・アパレル・おもちゃ業界はかき入れ時だろう。値の張るものとしては宝飾業界ぐらいか。

 そういえば筆者も、クリスマスだからってことでPCやテレビを買ったことはない。PCや家電のような大物は、そのあとに続く年末・年始商戦がメインだ。日本人にとっては「年越し」の方が、より祝賀ムードが高いのである。

存在する日米差

 日米差というものを考える意味で、12月11日に掲載された「デジタルメディアが奏でるPC復活の序曲」という米国発の記事は、興味深かった。この記事に登場するユーザーが平均的な米国のコンシューマーユーザーの姿であるとするならば、日本と米国のコンシューマーPC事情は、大きくかけ離れていることになる。

 米国では昨年の秋頃からMedia Center PCがリリースされ、ようやくPCを娯楽の対象として見る下地ができあがりつつある。従来の「安くてネットが使えりゃなんだっていい」というコスト重視型から、「映像も音楽もいろいろ楽しめるPC」というファンクション重視型へと市場が移っていくことが予想される。多くのユーザーが期待するのは、テレビ録画機能とDVD書き込み機能だ。

 もともとコンシューマーPCでDVD-Videoを作るというソリューションは、米国からやってきた。2001年初頭最初にそれをやったのは、Appleだ。だがその目的は、もっとココロザシの高い、クリエイティブな用途としてであった。現在のように、テレビ番組のDVD化という目的に最初に合致したのは、それから半年後にリリースされたソニーの「VAIO RX(PCV-RX72K)」だった。

 DOS時代から行政やビジネスでガンガンにPCを使ってきた米国とは違い、日本のビジネス市場はもともと小さい。そこで国内では早くから一般家庭に活路を見いだし、よりエンターテイメント性の強いPC、すなわちAV機能が強化されたPCというアプローチを進めてきた。さらにDVDドライブ自体もほとんど国産のため、ドライブの価格低下や入手しやすさは米国とは比較にならなかったこともある。それ以降、日本では、DVDドライブ搭載PCが矢継ぎ早にリリースされ、現在の状況になっている。

 もう一つ、これは住宅事情からか、日本では家庭用でもノートPCが強い傾向にあった。だがデスクトップも自作では小型キューブがはやり、メーカー品では折りたたんで小型化できるPCなど、新提案が相次いだのも昨今の特徴だろう。デスクトップでは、もともとAV機能は盛り込みやすい。カスタムでハードウェアを作らなくても、PCカード大の汎用ボードが入る余地があるからだ。

 そもそも論から言えば、「デスクトップ」というからには、本来机の上に乗らなければおかしい。だが従来のミニタワー型本体をわざわざ机の上に乗せて使っている人は、あまりいないだろう。ほとんどの人はモニターとマウス、キーボードだけ机の上で、本体は横のラックや足下という状況ではないだろうか。まあそれだけ日本の机は狭いのである。

 だからモニター一体型で、折りたためば小型化できるという「ポータブルデスクトップ」型マシンは、日本においてはようやく現われた、本来の意味での「デスクトップマシン」だと言える。

AVパソコンは米国で成功するか

 米国で歓迎されたMedia Center PCは、日本ではうまくいかないと筆者は見ている。理由は明らかで、もともと日本のPCは、DVDを焼いたり、リモコンでテレビを見たりといった機能が当たり前のように付いているからだ。すでに同様の技術を持っているメーカーは、その技術をうっちゃってまでMedia Center PCに賭ける意味はない。今までそっち方向で訴求できなかったメーカーにのみ、メリットがあるだろう。

 ユーザー側でも、今更OSでそれらの機能をサポートしたところで、新鮮味を感じることはないだろう。「でさ、それってバイオと何が違うの?」という素朴な疑問に対して、明確な答えが見えてこない。

 Media Center PCでは、OSでサポートするキャプチャカードや提供される機能が、果たして日本人の標準的なニーズを満たしているだろうか。少なくとも国産PCでは、それぞれに対して高いクオリティが期待できる。ソニーやNECではキャプチャカードも自前で設計しており、アプリケーションも独自開発してきた。AV機能を満喫しようと思ってMedia Center PCに買い換えたら、かえって機能が下がってしまったということも有り得る話だ。

 DVDドライブを考えてみよう。12月10日の記事、「明暗分かれる米年末商戦、全体的には出足好調」では、CDドライブがDVDドライブにとって代わられようとしていることを伝えている。

 これを読んで多くの日本人は、「なんのこっちゃ」と思われたはずだ。日本では、2001年6月に国内でDVD-R/RWドライブが発売になって以降、ドライブの売り上げは停滞することなく伸び続け、CDドライブとの逆転がささやかれ始めたのは既に去年のことだ。DVDドライブの認知度や市場推移から見ても、日本ではとっくにDVDドライブのほうがすう勢となっている。この面では、だいたい米国市場よりも1−2年ほど先行していると考えていいだろう。

日本の懐に転がり込んできた米国市場

 米国には、MicrosoftやIntelといった影響力の大きな存在は依然として存在する。だがその一方で、PCに実装するAV関連技術に関しては、日本が影響力を持つ分野は少なくない。IT家電先進国である日本のメリットを生かして、HDDやメモリなど、ストレージ技術がいい具合に上がってきている。

 IBMのHDD事業を引き継いだ日立製作所、小型HDDで市場独占状態にある東芝を始め、SDメモリーカードの利権と製造を握る松下電器産業、そしてDVD系メディアの製造技術でも、国内生産品は高い水準を保っている。

 日本のPCメーカーは、長い冬のトンネルを抜けようとしている。今まで国内用に積み上げてきた技術が、米国での売りにフックしてきているのだ。これからうまく事を運べば、米国は日本のPCメーカーに取って、今まで以上に上質な狩り場になる可能性を秘めている。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



関連記事
▼ 小寺信良氏のその他のコラム

関連リンク
▼ [WSJ] デジタルメディアが奏でるPC復活の序曲
今年の年末商戦は3年ぶりにホームPCが好調。その原動力となっているのはビデオ編集やDVDなどのマルチメディア・エンターテイメント機能だ。その勢いが2004年も続くとの予測もある。

▼ 明暗分かれる米年末商戦、全体的には出足好調
序盤戦のコンピュータ・家電の売上は前年比11%増と好調。記録型DVDドライブやデジカメ、無線LAN機器などが大きく伸びる一方、LCDディスプレイやプリンタは今ひとつだった。

[小寺信良, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.