News:アンカーデスク 2003年12月22日 06:02 PM 更新

フラットテレビの次に来るもの(1/2)

来年以降、コンシューマー家電の世界で話題をさらうのはフラットテレビだろう。だが、現状では、日本企業はこのフラットテレビで必ずしも優位に立てない可能性がある。巻き返すための鍵になるものは、いったい何なのだろうか?
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 去年、今年と、縁があって沖縄および石垣島周辺に行った。そんなことから興味を持ち、沖縄の歴史などの本を読んでいる。そんな中の1冊で興味深かったのが、高良倉吉著「アジアの中の琉球王国」(吉川弘文館)である。だいたい14世紀から16世紀頃の沖縄を、明貿易の面からひもといた本だ。

 かつて栄えた琉球王国は、当時の中国国家「明」への進貢貿易の中核となることで、アジアの拠点となった。当時、明は「海禁政策」を実施しており、中国人の海外渡航の禁止、またすでに海外に住む中国人の帰国を厳しく制限していた。この政策が、のちに日本の鎖国のモデルとなる。

 ではいかにして明は国外との貿易を行っていたかというと、琉球という入貢国、つまり家来の国を介して、日本、朝鮮などの西北、シャム(今のタイ)、ジャワ、スマトラなどの東南アジア地域とつながっていた。琉球の立場から見れば、典型的な中間貿易である。

 だがこのシステムは、やがて徐々に崩壊していく。その要因となったのは、明の統治力が弱体化し、海禁政策が形骸化し始めたこと、日本が戦国時代を経て統一され、独自の貿易ルートを築いたこと、ポルトガルなどのヨーロッパ勢による東南アジアの植民地化、などである。そうして国力が衰退したところで、琉球王国は薩摩藩による侵攻に敗れた。

 いや、こんなに琉球王国の話を長々としてきたのにも、訳がある。これってコンシューマー家電における今の日本の状態に、実は似ているのではないか。

500年の時を経てよみがえる中間貿易の限界

 すなわち、「明」←→「琉球」←→「アジア諸地域」という構図であったものを、戦後以降の日本の産業構造に置き換えると、「米国」←→「日本」←→「アジア諸地域」となる。現在の日本を支えてきたのは、米国の需要に依存した製品加工貿易だ。日本は製品化技術で他国リードしてきたが、この状態は徐々に崩壊しつつある。

 新入貢関係とも言える近代日本の構図においてポイントとなるのは、航海貿易時代とは違って、距離スケールが地球半周規模に拡大されているため、地理的要因なメリットが享受できない点にある。したがって技術力で優位に立たなければ、簡単にわれわれの頭越し、つまりアジア諸地域と米国との間でダイレクトに話が始まってしまうわけだ。

 そして実際にその傾向は進行している。既にPC系パーツの生産力では、台湾、マレーシアに大きく依存しており、彼らがパーツではなく完成品で勝負してくる日は近いだろう。またソフトウェア開発では、以前からその英才教育に国力を投入してきたインド、シンガポールあたりが伸びており、やがて米国と肩を並べることだろう。

 一方コンシューマーの世界では、例えばInternational CESなどを見ると日本企業以上に韓国企業の元気の良さに驚く。ご存じのように日立とLG電子の合弁会社「日立エルジーデータストレージ」は世界初全フォーマット対応DVDドライブの開発という成果を収めた。またLG電子は米国の家電メーカーZenith Electronicsを買収し、Zenithブランドで全米展開を行なっている。

 今年の話では、ソニーとSamsungが第7世代TFT液晶ディスプレイパネルの製造で、合弁会社を設立するという。今年5月のソニー経営方針説明会のあたりから噂されていたとはいえ、決まってみるとやはり感慨深い。

 さらに加工貿易の面で眠れる獅子、中国の巻き返しが始まったら、それは16世紀における日本のような怒とうの勢いで、今の日本を食いつぶす可能性もある。最近の記事では、「家電の世界を揺さぶる「大変動」とは?」あたりにその傾向を感じることができる。

 また最近深刻化した問題として、PC/IT系新技術特許のほとんどが米国に独占され、それを使った応用製品を作るたびに、日本は「輸出国へ向かって金を払う」という状況に落ち込んでいる。

 ということは、今の日本の現状を維持するために、韓国や台湾、中国にはない日本のオリジナル技術が、今後のキモになってくるということは想像に難くない。ではその日本のお家芸技術とは何か。

オーディオ技術でまだ食える

 筆者が思うに、それはアナログオーディオ技術ではないかと思う。現在アジア諸国に負けがこんできているのは、すべてデジタル系デバイスでの話だ。デジタル革命以前、世界的に見ても日本のオーディオは非常に高い水準にあり、アメリカも含めて諸外国が一朝一夕に追いつけるものではなかったのだ。

 もちろんオーディオだってデジタル化は進んでいる。だがオーディオはディスプレイ装置と違い、最終的には空気振動を起こすという原始的な論理に基づいており、最終的にはDA変換するしかないのである。そこがポイントだ。

 これはいかに世の中のデジタル化が進行しようと、スピーカー開発技術は日本の重要な資産になるということを表わしている。安易に中国や台湾あたりに頼らず、未だアナログオーディオのエンジニアを捨てなかったメーカーには、黙っていても生き残りのチャンスがあるというわけだ。最近のトピックスからいくつかのサンプルを紹介しよう。

 まず、いつも面白いオーディオ製品を開発しているのが、東北パイオニアだ。

[小寺信良, ITmedia]

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