News:アンカーデスク 2003年12月24日 03:22 PM 更新

っぽいかもしれない
そのときDVカメラは壊れていた──南極の日食中継は大変だった

“人類が初めて南極で見る皆既日食”と言われた11月の天文ショーを中継した「ライブ!ユニバース」。極地で奮闘したスタッフの苦労話。

 ちょっと古い話になってしまったけれど、日本時間2003年11月24日の朝に南極大陸でおきた皆既日食の映像はごらんになりましたか。NHKは地上のほかに皆既帯の中に飛行機を飛ばしてそこから中継するという大技をやってくれたのだけど、それよりも1時間ほど前、「ライブ!ユニバース」によるインターネット中継LIVE! ECLIPSE 2003も行われていたのだ(関連記事を参照)。

 わたしも、当日はわくわくしながらマシンに向かった。中継は、QuickTime、Windows Media Player、Real Playerの3つのフォーマットで、それぞれブロードバンド、ナローバンドの2つの速度、全部で6種類で行われた。こちらも、2台のマシンを、Windows Media Playerのハイスピードと、QuickTimeのナローバンドとにつないで見ることにした。

 当初の予定では6時にページのデザインが変わって、中継が見られるようになるはずだったのだけど、いつまでたっても切り替わらない。掲示板を見たら、ここでみられるよってストリームサービスの直接URLを書いている人がいたので、ありがたくそれを使わせてもらった(あとから聞いた話では、複数あるWWWサーバーのいくつかでページのリライトがうまくいっていなかったのだそうだ。だから、普通にみえた人もいたはず。うちは運の悪いサーバーにあたってしまったらしい)。

 中継はカメラを2台使い、一つはロングショットで南極の風景を、もう一つは太陽のアップを撮影し、それを1画面に重ね合わせるというスタイルだ。さらに、東京のスタジオから解説の画面もかさなる。つまりこんな感じ。


 この時点で、もうなんだか怪しくなっているけど、雲が出てきている。現地の天候を見て、観測船「Kapitan Khlebnikov」号は、当初の予定位置から少しずれたところに着岸したそうなのだけど、それでも曇っている。祈るような気持ちで見ていたのだけど、雲には勝てない。そのうち、太陽アップの部分が真っ暗になってしまう。


 残念ながら、皆既の瞬間のアップ映像は見ることができなかった。でも、ロングショットのほうでは、風景が左から暗くなっていって、真っ暗になって、左から明るくなっていくところ、つまり月の影がカメラの上を通り過ぎていくところを感じることはできた。

 NHKの中継は、航空機と地上からだったのだけど、地上も好天で(場所が違う)、いい風景をみせてくれた。でも、この影が通り過ぎていく醍醐味だけは、インターネット中継のほうがよかった。NHKの場合、テレビの宿命で、同じカットを長時間映しつづけることができないのだ。これだと影が通り過ぎるのはいまひとつよくわからない。

 事前の説明会で、番組構成の河村光彦さんが「インターネット中継ならではのほとんど動かない番組」というのを強くアピールしていたのだけど、それが高い効果をあげたのだ。

 実は、ここまでは前置き。12月18日に、LIVE!ECLIPSE 2003の報告会というのが東京で開催された。実際に南極に行った市川雄一さんの話が聞けるのである。以下は、その市川さんの話をまとめたものだ。

 「わたしの行動は、LIVE!ECLIPSE 2003のサイトにアップされている日記でばれているわけですけど、日食だけじゃなくて、南極の氷の世界や、そこにいる生き物がほんとにすばらしいものでした。」

 「準備の段階では、荷物の量がどのくらいになるのか前日まで全くわかっていませんでした。カバンの大きさすらわからない。出がけに上野のヨドバシカメラに駆け込んで足りないものを調達するような状態ですし。で、成田にいって、初めて荷物の総重量というのを量ったんです。……150キロ」。

 「当初は200キロだといわれたし、直前には100キロで済むんじゃないかとかいってたんですけど、ちょうどその間におさまりました」。

 「そんな状態なんでカルネ(*1)も用意してなかったんですけど、税関交渉もおだやかにすみましたし。オーバーチャージの交渉も、ごく、おだやかに」。

 「それでも成田で乗るときには見送りの仲間とがいたからまだいいんです。飛行機はヨハネスブルグに着いて、国内線に乗り換えるんですが、ここでは一人で荷物(7つになった)全部を受け取ることになります。なんだか怪しげなものをたくさん一人で運んでいるっていうんで、税関はかえってあきれてしまって、中も調べず素通し」。

 「悪いことに、国内空港まではあるいて20分くらいあるんです。そこはもう、カート2台同時運転って技術を習得してしまって。途中でクレジットカードをひったくられたんですが、それを追いかけることもできない。カードはすぐに止めたんでいいんですが」。

 「港の近くの空港から、港までは車に詰め込んだんですが、こんな感じ(といって写真をみせてくれたのだけど、こばやしのカメラにトラブルがあって、その写真のコピーが取れなかったすみません)。運転手さん、でかいひとだけど、首すくめるみたいに運転してくれた」。

 「船に乗ったら乗ったで、やっぱり、この荷物をどこに置くのってことになって、とても自分の船室には入らないんで、倉庫みたいになっていた空間に押し込めさせてもらいました」。

 「一行は80人。世界中から、日食を見たい人が集まっています。ペンギンの好きな人もいますが」。

 「最初に着いたのはクローゼ諸島。フランス領の島で、1年の9割が曇りか雨か嵐というところ。ここはキングペンギン(オウサマペンギン)とアルバトロスの島です。とにかく平らなところはペンギンがぎっしりで足の踏み場もない」。

 ここでは、ペンギンの写真とかペンギンの動画とかいろいろみせてくれて、わたしはとてもうれしい。このデータは追ってサイトで公開されるということなので、楽しみである。

 「次がケルゲレン諸島。アザラシ、イワトビペンギン、キングペンギン。とにかくキングペンギンは3万羽。水平線のむこうまでペンギン」。

 こちらは、普通の画像のほかにQuickTime VRの360度画像もみせてくれた。これも早く公開してほしいです。

 「さて、あとはPack Iceの海を南に進んでいくのですが、船はこんな感じで揺れます(30度くらい?)。そのうちに、中継の生命線のインマルサットBの通信がつながらなくなる。どうしたんだっていうんで、結局アンテナをはずして間を同軸ケーブルでつないで、高いところにアンテナを置いたら通信が回復した。これがその時の写真(ガッツポーズしている)。これ、やらせじゃなくて、本当につながって喜んでいる時をちょうど撮っててくれてて。もともとが研究のための船だからか、工作室があって、そこに同軸ケーブルとか転がっていまして。助かりました」。

 「これが、前日の日没。白夜って言っても、(この緯度、この季節では)まったく日が沈まないわけではなくて、沈んでもあんまり暗くならないっていう感じです。これがその夜の間の写真(薄暗がり程度)。このアデリーペンギンは好意的というか人に興味があるというか、集まってきます」。

 「さて、これが当日の日の出、この辺りの雲が不安です。もともとの予定地と変わったのは、一行の中にオランダ人の天気コンサルタントのハリーっていうのいたんですが、彼のアドバイスによります。ご承知のように、ああやって曇っちゃったわけですが、どうももともとの予定地だったら、雲の位置から見て、太陽は見えていたらしい。ハリーは一行全員から冷たい視線を浴びていました。寒いところなのになおサムくなって」。

 「ここにきて、トラブルが再発します。人間はそんなに寒くないつもりだったのですが、寒さに堪え切れなくなったモノがでてきました。まず、赤道儀のコントローラ。これで自動で太陽を追いかけることができなくなって、手動で動かすことになる」。

 「次にデジタルカメラ。この写真(太陽が9割以上欠けている)を最後に、動かなくなりました。液晶はこの画像を表示したまま凍りついて。撮影もできなくなって。(質問に答えて)バッテリーだけじゃなかったです」。

 「そしてデジタルビデオカメラ。ロングを撮っていたほう(松下製)はよかったのですが、太陽のアップを撮っているほうが全く映らなくなった(メーカー名もあがっていたのだけど、ここでは秘密にしておこう)。中継の(アップのほうの)画像が真っ暗になっちゃったのはそういうわけです。」

 え?え?じゃぁ、雲のせいじゃなくて?

 「中継の音声を聞いていた人はご存じですが、わたしはこのように見ることができました。(皆既に入る瞬間=第2接触、皆既中の写真。銀塩カメラで撮られたもの。手前に群雲はあるけれど、日食はしっかりわかる)」。

 その音声(「わたしは見られました」)は、確かに聞いたけど、それはマケオシミ(っていって悪ければ心の眼)だと思ってました。

 「第4は無理だったけど、第1−3接触(*2)はなんとか見られました」。

 天気のせいだと思ってあきらめていたのに、なんだかまた悔しくなってしまった。だったらカメラをもう1台用意しておけばっていいたいけど、最初の荷物の話も聞いているんで、それも言えない。つい、カメラメーカーにあたりたくなってしまう(わたしがそうだから、みんなもそうだろうと思うので、あえて秘密にしました)。

 「最後に壊れたのが、イリジウムのアンテナ。寒さで硬くなってぽっきりと」。

 「そんなに寒いのに、(写真を出しながら)この人は、イギリスから来た日食マニアのデビッドなんですが、彼はずーっと短パン。上半身や靴はちゃんと防寒しているのに なぜか短パン。不思議です。わたしはちゃんとしていました。履いていた靴が甲板ですべっちゃうので、足はビーチサンダルだったんですけど」。

 現在LIVE! ECLIPSE 2003 では、ビデオ・オン・デマンドによるハイライトシーンを見ることができる(Windows Media Player 9が必要)。これは飛行機からの撮影を行った別働隊からの映像も加わっている。また、市川さんの旅行記もここから見られる。これを見ながら、またちょっと悔しがることにしよう。


*1 品物を国外に一時的に持ち出す(持って帰ってくる)ときに、それを免税扱いとするために必要な書類。
*2 第1接触=欠けはじめ、第2接触=皆既になる瞬間、第3接触=皆既終了の瞬間、第4接触=欠けおわり。ダイアモンドリングが見られるのは、第2と第3。



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