News 2003年12月26日 05:21 PM 更新

アバターでがん患者の心のケアを 京大などが実証実験

遠隔地に住む患者同士がアバターを通じてコミュニケーションをはかり、がんのストレスを和らげるというシステムの実証実験が始まった。

 特定非営利活動法人(NPO)のジャパン・ウェルネスと京都大学、明海大学、野村総合研究所は12月25日、インターネットを利用してがん患者の心のケアをする「3Dオンラインメディカルフォローアップ」の実証実験を開始したと発表した。

 ジャパン・ウェルネスは、がん患者とその家族への心のケアを目的として設立されたNPO。東京・赤坂の事務所でがん患者からの相談を受けたり、患者同士のコミュニケーションの場を設け、がんによるストレスを和らげる支援をしてきた。

 今回の実験は、遠隔地に住んでいたり体が動かせなかったりして東京の事務所に来ることができない患者が、事務所と同様のケアを受けられるようにするもの。ジャパン・ウェルネス会員のがん患者などがオンラインのケアシステムを利用、その様子を両大学が解析し、効果的なケア方法を模索する。

 実験は、アバターを利用して患者同士がコミュニケーションする「サポートグループ」「同病者コミュニティ」と、ビデオチャットを通して患者と医師とが対話する「セカンドオピニオン」の3種類。


アバターの服装や髪型などは自由に決められる

 サポートグループは、患者同士が悩みを共有することで精神的負担を軽減するグループ療法。患者はPCに専用ソフトをダウンロードし、分身となるアバターを作成。決まった時間にオンライン上の3D空間に集まり、治療についてや家族についてなどファシリテーター(進行役)を交えて話し合う。

 同病者コミュニティでは、ファシリテーターなしで患者同士が自由にコミュニケーションする。


3D空間でチャットする。各アバターのふきだしと、画面下部に会話が表示される

 アバターそれぞれの発言は、チャット形式で連続的に表示されるほか、各アバター用のふきだしにも表示される。チャットだけだと自己主張の強い参加者が連続発言して他の人の発言を妨げるという問題があったが、ふきだしなら複数人が重ねて発言できる。「タイピング中」を示すふきだしも表示されるので、タイプが遅い人でも発言のサインを示せる。

 アバターは表情を変えたり、歩いたり座ったりもでき、身体動作による意思表示も可能だ。アバターを利用すれることで匿名性が保たれ、リラックスして発言できるという。

 チャットを利用したこのシステムでは全会話がログとして記録されるため、会話内容の詳細な解析も可能だ。従来の同様の実験では、実験前後に質問紙に答えてもらうことで効果の検証をしていたが、「質問紙調査では表面的なことしか分からなかった」(京都大学・子安増生教授)。


音声会話と文章のチャットを併用できるビデオチャットシステムを利用した「セカンドオピニオン」の実験

 また、医師と患者がビデオチャットを行うセカンドオピニオンでは、がんについての医学的な相談のほか、患者と家族との関係や職場の悩みなど幅広い相談に応じる。電話やメールと違って顔を見ながら相談できるほか、画像も共有できるため、レントゲン写真を見ながらの相談なども可能だ。


レントゲン写真の共有

 ジャパン・ウェルネスにはこれまで、北海道や九州など全国各地からの相談が寄せられてきたが、実際に東京でグループ療法などに参加できる人はわずか。遠隔地に住む人も十分なケアを受けられるよう、インターネットを使ったシステムの構築に踏み切った。

 ただ、がん患者の大半は40代後半から60代と、PC操作が苦手な人が多い層だ。この点についてシステム開発を担当した野村総研の嶋本正執行役員は、「直感的に操作できるユーザーインタフェースで、誰でもすぐ使いこなせる」とした。実際に40−60代のジャパン・ウェルネス会員に利用してもらったところ、たいていの人が30分ほどで使いこなせるようになったという。

 ジャパン・ウエルネスによると、2003年のがん患者数は298万人。2015年には533万人に膨れ上がるという。患者数の急増を前に、インターネットを利用して誰でも参加できる新しいケア体制の確立を目指す。


「オンライン空間がいくらリアルに作られていても、直接対話と全く同じものにはならない。仮想世界でのコミュニケーションの特徴をあぶり出し、対面ケアとも連動させたい」と話す竹中文良理事長

関連リンク
▼ ニュースリリース
▼ ジャパン・ウエルネス
▼ 京都大学
▼ 明海大学
▼ 野村総合研究所

[岡田有花, ITmedia]

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