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DVD発売前にYouTubeでアニメ全編公開 元円谷プロ副社長の挑戦

» 2010年10月28日 07時00分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 CAT SHIT ONE

 舞台は中東のどこか。砂ぼこりが巻き上がっている。「俺たちがやらなきゃあの2人が殺されてしまう」「俺たちならやれるさ」。2匹のウサギ、パッキーとボタスキーは銃を手に、人質の救助に向かった――。「CAT SHIT ONE」という約20分の短編CGアニメがある。DVDやBlu-ray Disc発売前に約2カ月間YouTubeで無料公開し、48万回再生された。

 小林源文さんの漫画「Cat Shit One」(ソフトバンククリエイティブ刊)をアニメ化したもので、ウサギのかわいらしさと、民間軍事会社の特殊部隊員というハードボイルドな設定とのギャップが面白い。このほど開催された、アニメやゲームなどコンテンツ関連企業が集まる展示会「Creative Market Tokyo」の「TCMアワード 2010」で大賞に選ばれるなど、注目を集めている。

 製作元のIDAは、元円谷プロダクション副社長で、映画「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説」などを手がけた経験を持つ岡部淳也さんが、今年設立したばかりの企業。CAT SHIT ONEのプロデューサーも岡部さんが務めている。なぜYouTubeを活用し、パッケージ発売前に無料公開したのか。狙いを聞いた。


画像 現在のIDAチャンネル
画像 無料配信時は凝ったデザインになっていた

 短編アニメのビジネスモデルは、劇場で公開することで作品の知名度や注目度を上げて「ハクを付け」、収益はその後のDVDや関連グッズの販売で稼ぐ――という方法が一般的という。岡部さんは、YouTubeで公開しても、劇場と同じプロモーション効果を得られると考えた。DVDやBDの販売ページへリンクを張って直接誘導できるのも魅力的に感じたという。

 YouTubeに作品を公開するための「IDAチャンネル」を開設。タマノイ酢の子会社・キックオフにスポンサーになってもらってYouTubeに出稿してもらい、広告主向けのページデザインのカスタマイズ機能を活用した。ページは、背景に劇場風の赤いカーテンやオスカー像っぽいトロフィーを描くなど凝ったデザインにカスタマイズ、動画を再生するとキックオフの広告がオーバーレイする仕組みになっていた。

画像 岡部さん

 無料公開は7月17日〜9月20日に行い、12月にDVD(1980円)とBD(2980円)を発売する。パッケージに収録する映像は、BDがYouTubeで公開したものと同じHD画質、DVDはSD画質だが、日本語字幕付きの英語吹き替えバージョンや、軍事アドバイザー・長谷川朋之さんによる作中のアクション解説など、未公開の映像も収録した。

 48万回というYouTubeでの再生回数は「想定より少なかった」ものの、DVDとBDの予約は、受け付け開始から3日間で1300件ほど集まるなど上々という。無料公開するとパッケージの売れ行きに影響するのでは――という懸念も当初はあったが、「1度も見たことがないDVDやBDを買うことは自分自身あまりないから」と今は問題視していない。

 岡部さんは、最近の特撮ものやアニメのビジネスについて、グッズ販売がますます重要視されるようになり、グッズを作る玩具メーカの意見が作品に強く反映されるようになっていると指摘する。「作り手としてはかったるい。(作品づくりは)そういうもんじゃないと思う」

 IDAの目標は、作品の制作・公開から、パッケージ化、キャラグッズ販売などすべてを自社で手がけること。「いまはネットもある。新しいことをやっていきたい」と意気込む。CAT SHIT ONEは海外展開を狙っており、英語版をYouTubeで無料公開する準備を進めている。

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