ジェイアイエヌは5月13日、眼鏡のフレームに電位差測定センサーを搭載したウェアラブルデバイス「JINS MEME」を来年春に発売すると発表した。眼球の動きやまばたきの回数、体の傾きなどを検知し、交通事故の防止や疲労度の可視化、健康管理などに生かせるという。今秋にはAPIと開発者向けSDKを公開し、さまざまなアプリの誕生にも期待する。
レンズのあいだの眉間部と小鼻に触れる左右のアイパッド、合計3点にセンサーを搭載し、眼球運動によって目の周りに生じる電位差をリアルタイムに読み取り、まばたきの回数や視線の方向、動きなどをトラッキング。視線だけでスマートフォンの画面をスワイプすることもできる。
眼球は網膜側がマイナス、角膜側がプラスの電位を帯びており、センサーでこの電位差「眼電位」を測定する仕組みだ。視線移動を検知する「アイトラッキング」はアイカメラなどを使う方式があるが、眼鏡に搭載して常時使うのは大きさやバッテリー問題などから非現実的。3点式センサーにより鼻パッドと眉間部分から眼電位を測定することで、8方向の視線移動とまばたきのリアルタイム測定が実現できるという。
セルの先には加速度/ジャイロセンサーも搭載し、歩行のスピードや距離、体の傾きも検知する。従来の眼鏡とほぼ重さは変わらず日常生活で利用できるのが特徴で、内蔵バッテリーによる連続使用時間は約8時間。
専用のスマートフォン向けアプリには「オフィス」「ドライブ」「フィットネス」3つのシーンに適したモードを用意。眼球運動をトラッキングすることで疲労度や眠気を数値として可視化し、適切な休息タイミングをアラートで示すため、体調管理や事故の防止に役立てられる。フィットネスモードでは歩数や消費カロリー、体軸のブレなどを表示。頭部の動きを測定しているので、リストバンド型のデバイスに比べ、より正確に体の動きを感知できるという。
デザインは太めフレームのウェリントン、上半分だけにふちのあるハーフリム、スポーツ用のサングラスの3タイプで男女兼用。価格は未定だが、「JINSブランドとして、手の届かない価格にはしない」(田中仁社長)。
今後、コンシューマー向けの販売だけでなく、法人向けの一括導入や、同製品を利用したツールやアプリの共同開発など、より広い活用も視野に入れる。同商品をプラットフォームとして、アプリやツールの開発が広がれば――と、今秋には発売に先んじてAPIや開発者向けSDKを公開する予定だ。
田中社長は「ウェアラブルデバイスは世界的にブームとも言える状況だが、我々が見据えるのは一歩先。ただ外を見るだけ、PCやスマートフォンでできることを眼鏡でできるだけ、ではなく、内面に目を向けて『自分を見る』デバイスを目指す。物珍しいだけでは意味はない、生活をより健康的に豊かにするためのもの」と胸を張る。
東北大学の川島隆太教授らと、足かけ4年をかけて開発した。眼球の電位差をセンシングする技術はカメラ型、パッチ型などが医療現場などで使われていたが、機器やバッテリーの問題で手軽に使えるものではなく、眼鏡に搭載することを前提に新たな「三点式眼電位差センサー」を生み出した。
川島教授は「最初に田中社長から出されたお題は『頭がよくなる眼鏡を作りたい』。当時はいくらなんでも……と思っていたが、何度もブレストを繰り返し、手応えのあるものになった。センシングデバイスはわざわざ身に付ける一手間があってはだめ。今生活にあるものに載せることで真の効果を発揮するはず」と期待を寄せる。
技術開発は産学協同で行い、自動車分野でデンソー、慶應義塾大学メディアデザイン研究科と運転サポート技術の研究を始めている。同科の稲見昌彦教授は「電機メーカーではなく、アイウェアの会社からこの商品が出てきたのが画期的。逆に言うと、眼鏡の良さや可能性を常に考えている企業だからこそ、当たり前の日常の延長にイノベーションを産めたのかもしれない。単に眼球の運動ではなく、心の動きを可視化するツールとも言える。活用の幅は無限大」と話している。
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