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» 2020年02月26日 07時00分 公開

AI時代に東大とソフトバンクが目指す先は 藤井輝夫東大理事・副学長インタビュー (1/2)

AI技術はもはや一過性のブームではなく、未来を語る上で必要なものになっている。東京大学はソフトバンクとともに「Beyond AI研究所」を設立する。このAI時代に東大とソフトバンクはどのような社会を目指しているのか、藤井輝夫東大理事・副学長に話を聞いた。

[産経新聞]
産経新聞

 2010年代後半、囲碁の世界チャンピオンを打ち負かして一躍脚光を浴びた人工知能(AI)技術はもはや一過性の「(第3次)ブーム」などではなく、GAFAの席巻やCASEといった言葉に代表されるように、それ抜きではわれわれの未来は語れなくなっている。そんななか、東京大学がソフトバンク(SB)とともに「Beyond AI研究所」を設立する。わが国を支える産学の両雄は、いかにAIを「越え」、その先にどのような社会を築こうとしているのか。担当の藤井輝夫東大理事・副学長に聞いた。(編集委員 関厚夫)

photo 藤井輝夫東京大学理事・副学長。Beyond AI研究所が築こうとする未来社会とは−=東大本郷キャンパス(酒巻俊介撮影)

次世代AI研究・事業化サイクルで日本を変える

 「『日本のAI研究は米国や中国に比べて遅れている』との指摘がありますが、数理工学やロボット工学分野におけるAI関連研究では本学は世界のトップを常に走っているという自負があります。

 本学が有する『AI知』を駆使し、またやはり世界の最先端をゆく物理学や脳科学などの分野の研究と融合させて基礎領域の研究を行うとともに、さまざまな社会課題を解決するための応用研究領域を展開し、そこで得られた成果を事業化することを考えております。

 もう少し詳しく申しますと、次世代のAI技術を先取りした研究成果をベンチャー企業の立ち上げなどによって事業化する。そしてその事業化益を大学に還元することで、AI研究や人材の育成をさらに充実・加速させるといったサイクルを回転させる−そのようなエコシステムを構築するということです。

 そこにはこの研究所の設立を通じて『社会における大学の役割を変える』という理念があります。代表(会長兼社長)の孫正義さんが『AIが社会を変える』といった意味のことをおっしゃっているSBグループとともに、その理念を具体化する最初の取り組みがBeyond AI研究所なのです」

 〈Beyond AI研究所はまず今春、東大・本郷キャンパスに基礎研究を行う拠点を開設し、今冬にはソフトバンクの新本社(東京都港区海岸の竹芝地区)に両者が共同して応用研究を行う拠点を立ち上げる。従事する研究者は総計約150人。またSBグループ以外の企業にも参画の門戸が開かれている。

 研究の事業化については「ヘルスケア」や自動運転を含む「公共・社会インフラ」、ロボット工学の活用を見込んだ「製造領域」などの分野を幅広くカバーしてゆく。「世界最高レベルの人と知」を集結させるため、SB側はグループ全体で1年に20億円、10年間で計200億円の資金を投入する用意があるという〉

目指すは世界とごする「AIベンチャー」輩出

 「これまで、国から運営費交付金を受けている本学のような国立大学法人は、事業にかかわるにせよ、そこで発生した収益を得るにせよ、関与できる範囲は非常に限定的でした。しかし今回は経産省が運用促進と改正を進めているCIP制度を活用することによって、例えばBeyond A研究所発のベンチャー企業の株式については、貢献度を見合いながら、その企業の議決権に抵触しない範囲で割り当てを受けることも可能になりそうです」

 ――研究所を巡るエコシステムついてですが、将来的にどのような状態になれば「構築された」といえるのでしょう。SBグループから拠出される「年20億円」という数字がキーワードになるのでしょうか。

 「このエコシステムの理念を別の言葉でいえば、大学側が主体となって社会全体の資金循環を駆動する役割を果たすということです。

 わが国では久しく、企業の内部留保が莫大(ばくだい)な金額になっています。その一方で、『ハイリスク・ハイリターン』を承知のうえでベンチャー企業に投資するリスクマネーの動きは鈍く、有望な『日本発ベンチャー』が輩出する土壌が整いません。本学関連のベンチャー企業は約370社を数え、その時価総額はすでに1兆円を超えているとはいえ、世界と比較すると『まだまだ』で、それを打ち破るきっかけをつくりたいのです。

 ですので、一つ一つの事案の成否も大事ですが、Beyond AI研究所を通じて、ベンチャー企業やカーブアウトなどが輩出し、そこから『ヘルスケア』や『自動運転』といった一つの分野に限られることなく、成功例がダイナミックに、良い意味で雪だるま式に多方面に広がってゆく。それが目指すゴールだといえましょうか」

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