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» 2020年09月10日 07時00分 公開

ネット同時配信拡大、NHKに民放追随も常時化には高い壁

テレビ番組を放送と同じ時間にインターネットでも流す「同時配信」が広がりを見せている。NHKは新サービスで顧客獲得をある程度成功させているが、民放にとっては採算性や著作権などの問題が壁となり常時同時配信は厳しそうだ。

[産経新聞]
産経新聞

 テレビ番組を放送と同じ時間にインターネットでも流す「同時配信」が広がりを見せている。3月から試行が始まったNHKの新サービスの申込件数はすでに80万件を突破。10月からは日本テレビが時間帯を限定した同時配信の実験を行う予定だ。ただ、現在約18時間実施しているNHKのような常時化は民放にとって難しい。最大の課題として、識者は著作権などの権利問題を挙げている。

(文化部 森本昌彦)

5カ月間で84万件

 PCやスマートフォン、タブレットといったネットに接続した機器で、テレビ番組を放送と同時に見られる「同時配信」。NHKの新サービス「NHKプラス」では、現在1日18時間程度提供している。同時配信に加え、リアルタイムで見逃した番組を1週間見られる「見逃し番組配信」も実施している。

 新サービスには3月内だけで約33万件の利用登録申請が寄せられた。4月末には約61万件に増加したが、勢いはその後やや鈍化し、5月末に約73万、6月末に約78万件、7月末で約84万件と推移している。

 正籬(まさがき)聡放送総局長は7月の定例会見で「やや伸びが欠けてきているのが数字で出ている。まだNHKプラスの存在を知らない人もかなりいる」と述べ、認知度の向上を最大の課題として挙げた。このため、NHKはテレビ番組の中で、ネットでも配信していることをテロップや二次元コードを表示して伝えたり、サービスを紹介するスポット番組の放送も行っている。

日テレ試行へ

 民放も追随する動きが出てきた。

 日本テレビは7月の定例会見で、10月から12月にかけ、プライム帯(午後7〜11時)で同時配信のトライアルを行うことを発表。小杉善信社長は「テレビを持っていない、あるいはテレビを見る機会が少ない、そういうデジタルデバイスのユーザーに対して、地上波のコンテンツとの接触機会を促進する」と意義を説明した。

 同社だけでなく、民放キー局は同時配信の研究を進めている。各局はすでに人気スポーツイベントなどについて配信を実施。2020年1月には、民放の無料見逃し番組配信サービス「TVer」で、5局の夕方の報道番組を同時配信する技術実証実験を行った。

 メディアコンサルタントの境治氏は「他の在京キー局も21年には、一番ビジネス的においしいゴールデン帯(午後7〜10時)やプライム帯の番組を同時配信する前提で準備を進めているようだ」と見通しを話す。

採算性、権利が課題

 ただ、NHKのような長時間にわたる常時同時配信を実施するには、課題がある。事業として採算性が不明なことに加え、著作権など権利関係の処理を行う必要があるからだ。

 TBSの佐々木卓社長は7月の定例会見で、「常時同時配信に関しては率直に申し上げてビジネスモデルがない。それから、権利関係の課題が多いというふうに思っている。もちろん技術的な検討などはあり得るが、積極的に推進していこうという立場ではない」と述べた。

 NHKは20年度予算で、「常時同時配信等業務」として54億8千万円を計上している。これだけの費用がかかりながら、配信番組にCMがつかなければ、民放にとっては損失が出るだけの事業になりかねない。

 権利問題も各局にとって大きな課題だ。日本では著作権法上、放送とネット同時配信が同じ扱いとなっていないため、番組の原作者や曲を作った音楽家らから別に許可を取る必要が生じるからだ。文化審議会の著作権分科会基本政策小委員会「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム」がこの問題について議論を進めているが、4日に第1回の会合が開かれたばかりで、結論が出るにはまだ時間がかかる。

 民放各局が常時同時配信に踏み切れない理由について、境氏は「おそらく著作権の問題がすごく大きいのだろう。NHKは体力があるので、それなりの人数やお金をかけてなんとか著作権の問題をクリアできている。しかし、民放にとっては、NHKと同等にやるのはかなり厳しいのではないか」と指摘した。

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