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» 2020年10月05日 07時00分 公開

法話を動画で お坊さんYouTuber、小池陽人・須磨寺副住職

真言宗須磨寺派大本山・須磨寺の副住職、小池陽人さんが動画サイト「YouTube」で配信する法話が人気を集めている。小池さんは「新型コロナ禍で多くの方が不安や悩みを抱える社会だからこそ仏教を伝えたい」と話す。

[産経新聞]
産経新聞

 源平の合戦の舞台として知られる真言宗須磨寺派大本山・須磨寺(神戸市須磨区)。その副住職、小池陽人さんが動画サイト「YouTube」で配信する法話が人気を集めている。「仏教には、生きていく上で役立つ教えがたくさんある。新型コロナ禍で多くの方が不安や悩みを抱える社会だからこそ仏教を伝えたい」という小池さん。総視聴回数は340万を超え、仏教者として法話を最も重視するという小池さんに、その活動を聞いた。(聞き手・上坂徹編集委員)

photo 自身のYouTubeチャンネルを見る小池陽人さん=神戸市須磨区の須磨寺(渡辺恭晃撮影)

配信3年 視聴数は340万回超え

 小池さんがYouTubeを始めたのは3年前。須磨寺近くに住むWebデザイン会社幹部から「お寺はWebサイト作成には熱心だが、これからは動画だ」といわれ、決断した。当時、仏教者の動画配信はほとんどなかった。

 「日本の寺といえば、葬式や法事などの儀式が中心ですが、実際の仏教は生きる人のための教えです。お釈迦様やお大師様(弘法大師)が説いた教えを伝える。それを(当時)29歳という年齢ならではの方法でやっていこうと思いました。毎月、須磨寺で行われる縁日での法話を、第三者が撮影しているという形をとりました」

 「須磨寺小池陽人の随想録」と名付けたチャンネルを開設。隔週で配信を始めたが、スタート時の視聴回数はわずか2桁だった。

 「法話は通常1時間ですがそれではクリックしてもらえない。長くて10分以内。視聴数を見ながら毎回反省会です。どう話すのか、誰にどう届けるのか。それが次回に生きたのだと思います」

 視聴数は回を追うごとに増え、チャンネル登録者は現在2万2900人、総視聴回数は343万7000回にのぼる。内訳は最も比率が高いのが65歳以上で35.4%、次いで55〜64歳の23.8%。45歳以上で8割を超す。24歳以下はわずかに2.9%だった。「若い人が多いと思っていたのですが、境内で80歳代の女性から『(YouTubeを)見ているよ』といわれることもある。ありがたいことです」

photo 法話の動画を収録する小池さん=神戸市須磨区の須磨寺

 東京生まれの小池さんは公務員の家庭で育った。母親が須磨寺の先代住職、小池義人さん(故人)の長女で、孫の小池さんは夏休みになると里帰りで須磨寺を訪れていた。9歳の時、義人さんが訪問先のインドで急逝。「将来は坊さんになってくれ」と祖父から言われていた小池さんは、義人さんの葬儀にあたり、急きょ須磨寺で得度、剃髪(ていはつ)させられた、という。

 その後は東京に帰り普通の生活に。進学先も仏教系の大学ではなかった。地域創造学部で地域経済を研究。卒業後はまちづくりにかかわる一般企業への就職を望み11社から内定をもらったが、僧侶への迷いはあった。

 そんな時に母親から一冊の本を贈られた。「がんばれ仏教!」(上田紀行著)。舞台や展覧会などさまざまな活動をする寺を紹介する内容だった。「(米の著名経営学者)ドラッカーも『世界最古のNPO(非営利組織)は日本の寺』と記している。お寺にいても地域活動、まちづくりにかかわっていける」。そう思えるようになり、内定を断って、僧侶の道を歩むことを決めた。

祈りのある生活、体験を

 須磨寺で2019年6月、少し変わったイベントが開かれた。宗派、地域を超えて僧侶が法話の伝え方を競う「H1法話グランプリ エピソードゼロ」。出場したのは浄土真宗▽真言宗▽日蓮宗▽天台宗▽臨済宗▽曹洞宗▽浄土宗――の7組8人。約450人の入場者を前に、紙芝居やキーボード伴奏の歌など、工夫を凝らした10分間の法話で仏教を伝えた。

 法話の優劣ではなく、「もう一度会いたいお坊さん」を選定するのが趣旨。兵庫県丹波篠山市の曹洞宗系寺院の住職がグランプリに輝いた。

 このイベントを仕掛けたのも小池さんだ。「仏教を広めるのに最も大切なのは法話」と考える小池さんは「人の胸に響く法話をどうすればよいか。仏教になじみのない人に法話を聞いてもらい、若手僧侶の研さんの場にしたかった」と話す。

 実は4年前、栃木県の真言宗系の若手僧侶らが県内で実施していたのを、小池さんがニュースで知ったのがきっかけ。関係者の協力を得て2年前に兵庫県大会として開催。この時は真言宗系の寺院が対象で、小池さんがグランプリに輝いた。次に宗派の壁を取り払い、初の全国大会として拡大開催したのが19年の「H1法話グランプリ」だった。チケット420枚のうち、200枚をネットで販売したところ、わずか10分で完売するほどだった。

 20年も予定していたが、新型コロナの影響で断念。かわって、YouTubeで「法話巡礼33」を開催している。宗派を超えた若手僧侶が自坊で撮影した法話の動画を順次公開。最終的には「三十三所観音巡礼」にちなんで33人の僧侶がアップするという。

 仏教の伝道を目的に、斬新な企画を次々と実行している小池さん。須磨寺では15年から毎年、平和への祈りをささげる音楽法要祭「須磨夜音」を開催している。

 1本の弦を操る須磨琴、人気ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」の元ドラマー、梶原徹也さんが率いる音楽グループ「神紗shinsya」の演奏と、平安密教の天台、真言両宗の僧侶が節をつけて唱える「声明(しょうみょう)」が融合し、荘厳な音楽が会場を包み込む。19年9月の夜音では、須磨寺境内が約2500人の聴衆で埋め尽くされたが、20年は中止が決まっている。

 小池さんは「個の社会の進展で、家庭に仏壇がないのが当たり前になっており、祈りが生活からなくなっている。ここで、祈りを体験してもらうことが大切なことだと思います」。

 一方、災害などの支援活動にも熱心に取り組んでいる。死者・不明者86人、約1万8000戸の住宅被害を出した20年7月の熊本を中心とした豪雨災害では、写経勧進による被災地支援活動を展開。被災地復興の祈りを込めて写経をしてもらい、寺に奉納(郵送)してもらうことで、その奉納料を被災地に寄付するという「祈りの写経プロジェクト」だ。すでに米国、オランダなど海外からのものを含め、奉納された写経は4500巻を超えた。

photo 視聴者から寄せれられた写経に目を通す小池さん(渡辺恭晃撮影)

 小池さんはWebサイトで「写経の功徳で心の安寧を得る。奉納料は支援金として被災地の支援につながります。施しの循環をお寺から作り上げていきたいと思っています」と呼びかけている。


【プロフィール】こいけ・ようにん 1986年11月、東京都八王子市生まれ。須磨寺で9歳の時に得度。その後は普通の生活を続け奈良県立大学を卒業後、僧侶の道に。京都・醍醐寺で修行、真言密教の法を授かる伝法灌頂(でんぽうかんじょう)を受けて阿闍梨(あじゃり)位を得る。清荒神清澄寺(兵庫県宝塚市)で修行後、叔父で義父となる現住職のもと須磨寺に入寺。副住職、須磨寺派寺務長を務め、YouTube「小池陽人の随想録」を開設し人気に。天台宗・真言宗の僧侶による声明と音楽を融合した法要祭「須磨夜音」を開催、宗派を超えた法話グランプリを実施するなど多彩な活動を展開。

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