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» 2020年10月27日 07時00分 公開

インパクト強め体験談で効能うたうネット広告の舞台裏露呈

健康食品に病気への効能があるかのように宣伝したとして、大阪府警が東京の販売会社などを医薬品医療機器法違反容疑で摘発した。広告主と広告代理店が両方摘発されたことから、行政指導の実効性がこれまでよりも高まるとする見方もある。

[産経新聞]
産経新聞

 あなたはインターネット上に書かれた体験談を信じますか――。健康食品に病気への効能があるかのように宣伝したとして、大阪府警が今夏以降、東京の販売会社などを医薬品医療機器法(薬機法)違反容疑で摘発した。事件ではネットに掲載された体験記事が、実は広告代理店による広告だったと判明。代理店は行政指導を逃れるためか、ダミー会社名義で広告を配信したことも明らかになり、ネット広告のモラルが問われている。(西山瑞穂)

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 サプリメントを紹介するこのようなネット記事を府警が見つけたのは2019年11月。記事は健康診断結果とされる写真などを掲載し、サプリで肝臓数値が下がったとアピールする内容だった。病気への効能を宣伝できるのは医薬品だけで、サプリに肝臓疾患の予防効果があると紹介すれば薬機法に違反する。府警が記事を調べると、思わぬ事実が分かったという。

ダミー会社使う

 記事はネットに配信された広告で、配信元として2つの会社名が記載されていた。しかし、一方は法人登記もない架空会社で、もう一方は登記はあるものの活動実体のない休眠会社だったのだ。

 行政が広告表現の指導をしようとしても捜査権限がないため、会社の実態をつかめない。だが、府警は地道な捜査で裏にいた広告代理店2社を暴き出した。20年7月、販売会社と代理店のS社とK社、下請け1社の担当者ら6人を同法違反容疑で逮捕。9月末には法人としての4社も書類送検した。

 事件の構図はこうだ。販売会社がS社とK社に広告制作を発注し、S社はさらに下請け会社に依頼。完成した広告は販売会社が確認した上で、両社がダミー会社名義で配信していた。広告には販売会社のサイトに誘導するリンクが貼り付けてあり、広告料はリンクのクリック数や契約数に応じた「成功報酬」。3月までの4〜5カ月間で、S社とK社はそれぞれ2000万円前後の報酬を受け取っていたという。

 府警によると、逮捕された6人には違法な広告だったという認識があり、「法律の範囲の表現ではインパクトが弱く、商品が売れない」とも供述した。広告代理店は無名業者ではなく、S社は東証1部に上場。にもかかわらず、他の広告でも同じ手口を使うことがあったといい、ある捜査員は「ネット広告の闇は深い」と驚きを隠さない。

業界改善につながるか

 一方、ネット広告は今や社会にとって不可欠な存在だ。中小事業者も少ないコストで宣伝を打てるメリットがあり、電通によると、19年は初めてテレビ広告を上回り、広告費が2兆円に到達。ただ、同時に悪質な広告も増え、ルールを守る事業者が割を食っているという危機感が業界内でも広がっている。

 大手ポータルサイト「ヤフージャパン」は19年度、約2億3000万件の広告を審査基準に抵触するとして非承認とした。それでも対応は追い付かず、業界団体もまだ対策を模索する段階だ。さらには、個人が「アフィリエイター」としてブログなどで商品を宣伝し、成功報酬を受け取る「アフィリエイト広告」も広まっており、誇大広告などのトラブルが増えている。

 今回の事件は、こうしたネット広告の課題に一石を投じる可能性もある。広告業界に詳しい斎藤健一郎弁護士は「違法な広告を出せば、広告主も広告代理店も全て摘発対象となると示された。それはアフィリエイトでも同じだ」と指摘。

 広告主に違法広告の是正を求める行政指導をすれば、その後は広告主にも制作側にも摘発リスクが生まれるとして、「行政指導の実効性はこれまでよりも高まる。広告主もリスク管理として、従業員教育などに力を入れることが重要になる」と話している。

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