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» 2020年10月30日 07時00分 公開

ナゴルノ紛争は現代戦闘の見本市 ドローン駆使、SNSでプロパガンダ流布 (1/2)

アルメニアとアゼルバイジャンの係争地、ナゴルノカラバフ自治州をめぐる紛争は、軍事ドローンを使った巧みな攻撃やSNSでのプロパガンダの拡散など、現代の国家間紛争の形をあぶり出した。

[産経新聞]
産経新聞

 南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアとアゼルバイジャンの係争地、ナゴルノカラバフ自治州を巡る紛争は、各種の軍用ドローン(無人機)や、IT(情報技術)を用いたプロパガンダ(政治宣伝)を駆使する現代の国家間紛争の形をあぶり出した。特に目立ったのが、アゼルバイジャンのドローン戦術の巧みさで、アルメニア側の防空網を早期に無力化。専門家は「今後の局地的紛争の在り方を世界に示唆した」と分析している。(モスクワ 小野田雄一)

photo アルメニアとの紛争で、アゼルバイジャンが使用している上空滞在型の攻撃ドローン「バイラクタルTB2」。米軍の同様のドローンに匹敵する性能とされる=製造元のバイカル社のサイトから

旧式機を「おとりドローン」に

 9月27日に始まった戦闘では、これまでに双方で少なくとも900人以上の兵士・民間人が死亡。停戦の仲介に動いているロシアのプーチン大統領は今月22日、合わせて5000人近くの犠牲者が出ているとの見方を示した。

 両国は「戦闘の責任は相手にある」と非難合戦を繰り広げている。ただ、第三国の専門家の間では、国際的に自国領とされながらアルメニア側が実効支配する自治州の“解放”を狙ったアゼルバイジャンが開戦を主導したとの見方が強い。

 同国は近年、軍備増強を進めていた上、戦闘の数日前から自治州の境界線付近に部隊を集結。準軍事同盟関係にあるトルコの支援もアゼルバイジャンを後押ししたとみられている。

 戦闘開始後にアゼルバイジャンが取った戦術は次のようなものとされている。

 (1)第二次大戦直後に設計された旧ソ連の旧式複葉機「アントノフ2」をドローンに改修し、同自治州に進入させ、攻撃を誘発させてアルメニア側の対空システムの位置を特定する。同時に、偵察ドローンで相手の戦力配置を把握する。

 (2)火砲や対地ミサイル、敵のレーダー電波を感知して突入するイスラエル製の自爆ドローン「ハーピー」、トルコ製の上空滞在型攻撃ドローン「バイラクタルTB2」――などを駆使し、ドローンの脅威となる単距離地対空ミサイルや対空砲陣地、地上部隊の脅威となる戦車などを排除する。

 (3)その上で地上部隊を進軍させ、拠点を占領する。

 アルメニアも小型ドローンを持つが、偵察用で数も少なく、アゼルバイジャンに対抗できなかったとみられている。

 今回の戦闘は、アゼルバイジャンが同自治州や付近の複数拠点を占領した段階で一応の停戦合意をみた。ただ、停戦後も戦闘は散発的に続き、情勢は不安定だ。今後本格化する予定の具体的な停戦交渉では、アゼルバイジャンが支配下に置いた地域の扱いが焦点になるとみられている。

進む新たなドローン研究

 アゼルバイジャンのドローン戦術について、軍事研究者の小泉悠・東大先端科学技術研究センター特任助教は「アゼルバイジャンの戦術は、おとりドローンを使って敵の防空陣地の場所をあぶり出す伝統的な戦術の延長上にあるものだ」と指摘。軍事専門家にとっては特に目新しいものではないという。

 その上で「アゼルバイジャンのドローンが大きな戦果を上げられたのは、アルメニア側のドローン妨害能力の不十分さや、(戦車や対空陣地の)偽装や隠蔽(いんぺい)のまずさなどの要因によるところが大きい」と指摘。対ドローン戦術を研究している米国や中国、ロシアなどの軍事大国に対しては、アゼルバイジャンが取った戦術の有効性は低下するという。

 小泉氏によると、米中両国はレーダーで探知できないステルス性を備えた高速ドローンや、無数の超小型ドローンが集団として振る舞う「スウォーム(虫の群れの意味)技術」など、さらに高度な技術開発を進めている。

 他方で、小泉氏は「今後の戦争では、大国同士が直接衝突するよりも、シリア内戦やリビア内戦で既に見られるように、大国が相互に抑止をきかせながら『手先(プロキシー)』を使って代理戦争を繰り広げるような戦略が一般化する可能性がある」と指摘する。

 大国の介入が限定され、小国同士が衝突する局地的な紛争が現代における戦闘の典型の一つである以上、今回のアゼルバイジャンのようなドローン戦術は、今後も大きな威力を発揮する可能性がある。

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