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» 2020年12月10日 07時00分 公開

繰り返される視覚障害者の転落事故どう防ぐ AI活用に注目集まる

東京メトロで、視覚障害者の男性がホームから転落し電車にはねられ死亡する事故があった。同種事故を防ぐにはホームドアの設置が求められるが費用負担が大きく、最近ではAIで白杖を認識するシステムや無線技術で障害物を知らせる仕組みなどが注目を集めている。

[産経新聞]
産経新聞

 東京メトロ東西線東陽町駅(東京都江東区)で11月、視覚障害者の男性がホームから転落し電車にはねられ死亡する事故があった。東陽町駅には転落防止用のホームドアが設置されていたが、稼働は2021年2月の予定で、男性は開け放たれていた扉の部分から転落してしまった。繰り返される同種事故を防ぐためにはホームドアの早期設置が求められるが、鉄道各社の費用負担は大きく、最近では人工知能(AI)や無線技術を使った防止策開発の動きも進む。(松崎翼、王美慧、吉沢智美)

稼働目前の「悲劇」

 事故は起きたのは11月29日の白昼。東陽町駅の1番線ホームから白杖を手にした視覚障害者の男性(68)が転落し駅に入ってきた電車と衝突、間もなく死亡が確認された。

 警視庁深川署や東京メトロによると、駅構内の防犯カメラには改札から階段を降りてホームに到着した男性が一度も立ち止まることなく、真っすぐ進んで線路に転落する様子が映っていた。

 反対側のホームには電車が到着しており、構内には電車のモーター音が響いていたとされる。東陽町駅は上下線でホームが分かれている構造のため、男性が自身がいたホームに電車が止まっていると勘違いし、止まることなく進んで転落した可能性があるという。

 東陽町駅では2週間ほど前にホームドアの設置が完了。作動試験や調整を進め、21年2月に運用開始予定だったため、ドアは開いた状態だった。男性が転落したのに気づいた利用客が非常停止ボタンを押し、引き上げようともしたが、間に合わなかったという。

 日本視覚障害者団体連合の橋井正喜常務理事は「ホームの反対側に電車が到着すると、自分側に来たと思い、行ってしまうことがある。地下鉄では音が反響するため、余計に勘違いしてしまう」と指摘。「ホームドアは設置されていたのに(稼働までに)3カ月かかるのか。何かしらの策をしてほしかった」と無念さをにじませた。

 今回の事故を受けて東京メトロは、駅にスピーカーを設置しホームドア設置工事についてのアナウンスを強化するとともに、駅員を増員して白杖の乗客への声かけを徹底。ホームドアの運用開始も前倒しする方向で作業を進めている。

設置は一部

 視覚障害者がホームからの転落する事故は後を絶たない。

 20年1月にはJR日暮里駅(荒川区)で男性会社員=当時(53)=が、7月にはJR阿佐ケ谷駅(杉並区)でマッサージ師の男性=同(51)=が、それぞれ線路に転落し電車にはねられて死亡。いずれもホームドアは設置されていなかった。

 国土交通省によると、視覚障害者のホームからの転落事故は、死亡したり負傷したケース(ホームでの接触を含む)が19年度に5件発生。負傷に至らなかったケースは15年度の94件をピークに減少傾向にはあるものの、19年度は61件起きている。

 防止に最も有効なのがホームドアであるのは間違いない。国交省によると、ホームドアの設置は10年度末は全国の484駅にだったが、19年度末は858駅(1953番線)に拡大。国は21年度から5年間で計3000番線にまで増やす予定だが、設置は都市部を中心にした一部の駅にとどまる。

 設置の足かせとなっているのは多額の費用だ。ホームの補強なども必要になるケースもあり、1駅あたりの設置費用は数億円から十数億円に上るとされ、飛躍的な改善は望めない。

新技術の開発も

 こうした中、注目を集めるのが、AIや無線技術を用いた新技術だ。

 国も10月に検討会を立ち上げ、ホームドア以外の策も模索。改札に設置したカメラが白杖などを認識して駅員に自動通知するシステムや、電車停車時以外に乗客がホームの端に接近すると音声での注意喚起や駅務室への通知するシステムなどの実証実験もすでに進められている。

 京セラ(京都市)は「スマート白杖」の開発を進める。

 「RFID」という無線技術を使い、ホームの端や障害物など危険な場所に発信装置を付ける一方、白杖に受信センサーを内蔵。危険な場所に近づくと《ホームの端ですよ》《点字ブロックまで来た》といった警告を、バイブレーターなどで伝える仕組みだ。

 20年2、3月には横浜の研究所で試作品の体験会も実施。反応距離などに意見はあったものの、ほとんどの参加者から好評を得たという。

 開発に携わってきた中川浩文さん(60)は「ホームドアのように完璧に転落を防止できるものではないが、全ての駅にホームドアを付けるのは難しい。少しでも事故を減らせるようなシステムとして軽量化などの課題をクリアし、実用化させたい」と話す。

 日本視覚障害者団体連合の橋井常務理事も「これまで『声かけ・サポート』運動として車内放送などで弱者への声掛けを呼び掛けていた。このコロナ禍でソーシャルディスタンスが叫ばれているが、困っているような人がいたら声を掛けてほしい」と、ソフト面での対策も訴えている。

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