新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は東京都と埼玉、千葉、神奈川3県の首都圏を対象にコロナ特措法に基づく緊急事態宣言を出す。事態を打開する期待が寄せられているのがワクチンだが、2月下旬にも始まる国内での接種を前に、中国の「闇ワクチン」が日本に持ち込まれ、富裕層に接種されているとの報道もあった。そうした中、製薬会社などワクチン開発企業へのサイバー攻撃が相次いでいる。狙いはどこにあるのか。
菅義偉首相は4日の記者会見で、ワクチンについて「できる限り、2月下旬までには、接種開始できるように政府一体となって準備を進めている」と強調。医療従事者、高齢者、高齢者施設の従業員から順次開始し、「私も率先して接種する」と述べた。
コロナ禍のゲームチェンジャーになる可能性もあるワクチンだけに、いち早く手に入れようとする動きもある。元日付の毎日新聞は、中国で製造したとされる未承認ワクチンが日本に持ち込まれ、日本を代表する企業の経営者など一部の富裕層が接種を受けていると報じた。
中国から持ち込まれたワクチンを接種する意味はあるのか。
日本医科大の北村義浩特任教授(感染症学)は、「輸入元で承認されていない場合は違法になる可能性もある。80代以上の高齢者や重度の糖尿病など基礎疾患がある人でなければ、先を競って接種してもどんなメリットがあるのか、甚だ疑問だ」と語る。
東北大災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は、「医薬品として厳格な管理・保管・移送ができていたのかのか保証がない。菌や異物の混入、濃度の違いなど品質の問題も確認は難しい」という。
個人のリスクだけでなく、公衆衛生上のリスクもあるという。児玉氏は、「正規品と混在し始めると、誰にワクチンを接種したのか、把握できなくなる。ワクチンの効果だけでなく、どのワクチンによる副作用かも不明確になりかねない」と指摘する。
サイバー空間でもワクチンを狙う動きは激化している。2020年11月下旬、北朝鮮の関係者と疑われるハッカー集団が英製薬大手アストラゼネカにサイバー攻撃を試みたとロイター通信が報じた。同社のワクチンの情報が狙われた可能性があるが、攻撃は失敗したとみられるという。
12月上旬には、欧州医薬品庁(EMA)がサイバー攻撃を受け、ワクチンに関する文書についてハッカーにアクセスされたと公表。米製薬大手ファイザーや独製薬大手ビオンテックはEMAへのサイバー攻撃により、新型コロナワクチンの開発に関する資料が不正にアクセスされたと発表した。米バイオ医薬品大手モデルナもEMAへのサイバー攻撃で関連文書に不正アクセスを受けたとしている。
サイバー攻撃の狙いはどこにあるのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「主に中国やロシアによるものと考えられる。新型コロナウイルスの流行拡大に見舞われた直後の20年の春先から攻撃は確認されていて、米連邦捜査局(FBI)なども関係機関に注意喚起を行っている。現在はワクチンに関する情報が標的とされているが、狙いは単純な金もうけとみられる。本気筋の産業スパイだ」と分析する。
前出の児玉氏は、「ファイザーやアストラゼネカのワクチンは、すでに製造の方法論が確立されており、大量生産の方法や何をもって有効性を示したかを把握できる患者情報など、部分的な情報が狙いではないか」との見解を示す。
児玉氏はまた、「もう1つ考えられる狙いは、ワクチンの情報を盗み、例えば安定供給のための瓶詰め法など部分的な特許を自国で先に取得してしまうことだ。情報を盗まれた製薬会社がその国でワクチンを販売するには特許を買い戻す必要があるので収益を得ることができる」と話した。
日本のワクチン関連企業にも影響は及ぶのか。前出の黒井氏は「新型コロナワクチンはまさにビッグビジネスだ。世界に先駆け特許を取得することで多額の利益が見込める。だからこそ、ワクチン開発に注力する製薬会社はじめ関係先にも手当たり次第にサイバー攻撃が仕掛けられる。当然日本への攻撃も想定される」と語る。
卑劣な横取りにも警戒する必要がある。
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