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» 2021年01月12日 07時00分 公開

きっかけ食堂、コロナ禍もオンライン交流で東北との縁つなぐ

2020年12月11日、Web会議ツールを使った「きっかけ食堂」が開店した。東日本大震災の被災地や復興を考えるため、東北の食材や地酒を提供する酒場だ。オンライン開催にすることで被災地の生産者らをゲストに招いて親交を深めることもできた。

[産経新聞]
産経新聞

 東日本大震災から9年9カ月たった2020年12月11日夜。乾杯の発声に、画面の中の20人ほどが、一斉にヨーグルトを掲げた。オンライン会議システムを使った「きっかけ食堂」の開店だった。

photo きっかけ食堂京都の武田彩代表(本人提供)

 新型コロナウイルスの影響で20年6月以降は毎月11日にオンラインで開催し、東北で生産される食材や商品を紹介する。この日のテーマは岩手県岩泉町で作られる「岩泉ヨーグルト」。メンバーの加藤優貴(23)が岩泉ヨーグルトとの出合いを語ると、生産会社の担当者も「『かむヨーグルト』とも呼ばれるもっちり感が特徴」とPRする。生産工場内をまわるオンライン工場見学会も行われ、参加者から「商品に愛着が湧いた」「岩泉に行ってみたい」との声が上がった。

 加藤は「岩泉町の魅力を知ってもらう入り口になってよかった」と話す。

 きっかけ食堂は14年5月、京都からの震災ボランティアツアーを企画運営していた原田奈実(26)が、被災地とつながる「きっかけ」をテーマに、当時通っていた立命館大の同級生らと立ち上げた。

 「福島県が嫌われものになった」

 東京電力福島第1原発事故の風評被害に悩む農家の男性がつぶやいた一言にショックを受けた。「東北の魅力や復興を語り合う場を作ろう」と、京都市内の飲食店を借りて毎月11日の夜に営業を始めた。提供するのは東北の漁師や農家から仕入れた新鮮な魚介類や野菜、地酒。宮城県南三陸町など毎回、特定の市町村に絞って食材をそろえる。

 毎時11分になると初対面の客同士で東北の話題を語り合う「きっかけタイム」が始まる。東北の生産者とテレビ電話をつないだ交流や、語り部を招いて話を聞く取り組みも評判だ。

 3年前に被災地できっかけ食堂のメンバーと知り合い、その後も交流を続けている岩手県大船渡市の漁師、中野圭(34)は「きっかけ食堂は、『食』という関わりやすいテーマを通じて、人のつながりなどを提供してくれている。東北や現地の生産者の気持ちも知ってもらえる場で、その一人としてもありがたく感じている」と話す。

 同市の山でジビエ用のシカやイノシシなどをとる金野誠也(33)も「東北に縁もゆかりもない人たちを巻き込んで、東北を思う日を作ってくれている。地元の思いや特産品などを発信できる場を提供して頂けることは、率直にありがたい」と口にする。

 原田の大学卒業後は後輩らが引き継いだ。19年までは、月一回の食堂開店の他、定期的に宮城、岩手県といった被災地を訪れ、現地で農家や漁師らとの交流を続けてきた。しかし、コロナ禍で20年3月以降は食堂の営業自粛を余儀なくされ、被災地訪問や現地での交流活動も断念した。

 「東北に1度も行けなかったのは20年が初めて」

 原田から数えて3代目の京都代表、武田彩(25)は悔しさをにじませる。高校時代から東北の復興支援に携わっていた。ボランティアを通じて原田と知り合い、4年前にきっかけ食堂のメンバーに誘われた。

 「食堂は多くの人に親しまれ、心のよりどころとなっている」と実感していた。それだけに、営業自粛は断腸の思いだった。

 代わりに取り入れたのが「オンラインきっかけ食堂」。参加者は東北の料理や酒を用意して自宅から交流する。被災地の生産者らをゲストに招いて親交を深めることもできた。実際の食堂では経験できないメリットもあった。

 一方で、客同士が顔を合わせて自由に語り合い、東北の魅力を伝え合う「場」の存在価値も再確認した。「21年の3月11日には京都で被災地に思いをはせる場を設けたい」。震災から10年。武田らは新たな交流の形を模索しながら、復興への思いを新たにする。

 「きっかけ食堂を全国に広げ、震災のことを忘れさせないきっかけを作り続けたい。それが私たちにできる、私たちなりの支援だと信じています」(桑村大)


 きっかけ食堂 食を通じて東北の被災地や復興を考える「きっかけ」をつくろうと、14年5月に立命館大の学生3人が立ち上げた酒場。京都市内の飲食店を借りて毎月11日に営業し、東北の食材や地酒を提供する。18年には復興支援に取り組む民間の個人・団体をたたえる復興庁の「新しい東北」復興・創生顕彰に西日本から唯一選ばれた。20年2月にNPO法人化。京都以外にも、東京や名古屋、仙台など全国9カ所に店舗ができ、活動は全国に広まりつつある。

=敬称略、終わり

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