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» 2021年01月13日 07時00分 公開

ネット被害、裁判迅速化へ 地方の負担軽減は不透明

ネット上で他人を中傷した投稿者を特定する手続きが年内にも簡易化されそうだ。だが、特定までの手続きが東京地裁に集中する問題について、有識者会議が議論を深めた形跡はなく、地方在住の被害者の負担軽減策が盛り込まれるかどうかは不透明だ。

[産経新聞]
産経新聞

 ネット上で他人を中傷した投稿者を特定する手続きが、年内にも改善されそうだ。現状では特定するだけでも少なくとも東京での2度にわたる裁判手続きが必要で、被害者が賠償を受けるまで、1年以上を要する例も少なくない。国は年内の通常国会に関係法の改正案を提出し、情報開示の迅速化を図る方針。だが、地方在住の被害者の負担軽減策が盛り込まれるかどうかは不透明だ。(桑村朋)

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選挙控えSNS悪用

 《過去に女子中学生を強姦し、被害者を自殺に追いやりました》《大阪市の皆さん、こんなゴロツキに投票してはいけません!》

 大阪府知事と大阪市長を決めるダブル選の投開票日を間近に控えた2019年4月。市長選に立候補した地域政党「大阪維新の会」代表、松井一郎氏(現・大阪市長)を誹謗(ひぼう)する内容がTwitterにアップされた。

 選挙には勝った。それでも代理人の坂井良和弁護士は「事実無根の投稿内容が広まれば選挙結果に響いた恐れもあった」とし、投稿者に損害賠償を求める裁判の準備に着手。だが、その手間は予想以上だった。

投稿者特定に1年超

 提訴には、投稿者の特定が不可欠だ。

 まずはTwitterなど会員制交流サイト(SNS)事業者にIPアドレスを開示してもらうため、裁判所に仮処分を申請する。次にインターネットの接続事業者(プロバイダー)に、氏名や住所の開示を任意で求めるが、「通信の秘密」などを理由に拒まれるため、ほとんどは訴訟に踏み切るしかない。

 投稿者の名前や住所が判明すると、ようやく損害賠償の訴訟を起こすことが可能になるが、2度の裁判手続きを経るため、最終的な判決まで1年以上掛ることも珍しくなく、「壁」は高い。

舞台は東京に集中

 さらに、TwitterやFacebookなど海外に本社を置くSNS事業者が相手の訴訟は、民事訴訟法の規定で東京地裁でしか起こすことができないことも、壁を高くしている。また、多くのプロバイダーが東京に本社を置くため、2度目の訴訟も東京地裁に偏りがちだ。

 特定後の損賠訴訟は、各地の裁判所で起こすことができるが、それまでの労力やコストを考えると、地方在住者の負担は大きい。何度も上京し、投稿者を特定できても、賠償金の相場は数十万円程度。訴訟費用や交通費を差し引くと「大赤字」のケースも多い。

 総務省は有識者会議の提言を踏まえ、21年の通常国会に、投稿者情報の開示手続きを定める「プロバイダー責任制限法」の改正案を提出する方針だ。仮処分や訴訟によらない「非訟手続」を創設し、1回の手続きで裁判所が開示を判断できるという内容だ。

 改正後はプロバイダーを訴えずに済むケースが増え、時間やコストの面で負担が軽減される。通常3〜6カ月で消える投稿記録の保全命令も可能になり、被害者の泣き寝入りを減らす効果も期待される。

総合的な対策を

 一方、特定までの手続きが東京地裁に集中する問題について、有識者会議が議論を深めた形跡はない。非訟手続が導入されても、問題が解決されるかは不透明で、地方の弁護士からは「被害者の住所地の裁判所にも管轄させるべきだ」との声も上がり、今後の検討課題といえそうだ。

 会議メンバーの清水陽平弁護士は「管轄を広げすぎると、専門外の裁判官による審理が増え、かえって時間がかかる。慎重に検討すべきだ」と指摘。その上で「中傷は法規制だけでは対応できない。事業者の意識改革やネットリテラシー教育の充実といった総合的な対策が大切」と訴える。


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