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» 2021年03月17日 07時00分 公開

落ち込むラジオの広告収入 ネットが主戦場に

ラジオ局の経営は、広告収入の落ち込みで厳しさを増している。インターネットを舞台とする新興の音声メディアが台頭する中、ネットでの存在感と広告媒体としての魅力という二兎を追う番組が神戸から放送・配信されている。

[産経新聞]
産経新聞

 ラジオ局の経営は、広告収入の落ち込みで厳しさを増している。新型コロナウイルス感染拡大で在宅時間も増え、片手間に楽しめる「ながら聴き」の魅力が見直されているが、インターネットを舞台とする新興の音声メディアも台頭。先行きは楽観できない。そんな中、ネットでの存在感と広告媒体としての魅力という二兎を追う番組が神戸から放送・配信されている。(粂博之)

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崖っぷちで想定外の広告も

 「リスナーにはまったく関係のない内容なんだが……」。大手民放ラジオの関係者は苦々しい仕事を振り返る。「プロ野球のナイター中継で、業務用食器の卸売店のCM(広告)を入れたことがあった」

 卸売店の狙いは、ナイター中継を「応援」していると球団にアピールし、球場の厨房(ちゅうぼう)に商品を売り込むこと。リスナーに直接訴えるものではなかった。

 この関係者は本来、CMもリスナーにとっては役に立つ情報であるべきだと考えているが、自嘲気味に話す。「こんなことでもやっていかないと、広告は取れない(獲得できない)」

 電通によると、2020年の国内のラジオ広告費は1066億円で、15年前と比べると4割減っている。一方、20年のネット広告費は2兆2290億円と15年間で5.9倍になった。

 コロナ禍で外出機会が減って、ラジオの魅力が見直されてはいる。しかし、同様にネット上で多様な人の一人語りが聴ける「Voicy」、仲間内の雑談や著名人が語る裏話をリアルタイムで流す「Clubhouse」などの音声メディアも勢いを増しており、広告費への好影響はそれほど見込めないのが現実だ。

売れる方程式が変わる

 「主戦場はラジオ放送ではありません」と話すのは、Kiss FM KOBE(神戸市)の番組「10BLOCKS」でプロデューサーを務める電通西日本の中谷聡志さん(39)。重視するのは、各局の番組をネット配信するradikoの「タイムフリー」サービスだ。各番組は放送後1週間ならいつでも好きな時間に聴ける。

photo 10BLOCKS」の収録に臨む住谷徳人さん(奥)と井上隆平さん=3月5日、神戸市中央区のKiss FM KOBE

 10BLOCKSは、旅や日本酒、ランニングなどのテーマ別に作られた10分の番組を「1ブロック」として2ブロックで構成し、土曜日の朝に放送している。出演する住谷徳人さん(34)は「聴き終えた後、リスナーが番組のエッセンスをひと言で表現できるような番組」を目指している。放送後1週間以内に、番組Webサイトで聴きたいブロックをクリックすると、radikoにつながり、少し時間の空いた10分間だけでもトークを楽しめる仕組みだ。

“売れる”番組をradikoでリサーチ

 実は住谷さんも電通西日本の社員だ。同社が深くラジオ放送に関わるのは「売りづらいラジオ広告を売る」仕組みを探るためという。各ブロックのテーマと関わりのある企業をターゲットとする営業活動では「radikoの登録情報などでリスナーの属性や人数が分かるので売り込みやすい。10分番組なら価格も安くできるので反応はいい」と中谷さんは話す。

 広告主は日本酒の「沢の鶴」や旅客船の「フェリーさんふらわあ」など地元の企業が中心だ。番組を始めて2年余り。当初より「利益は増えた」という。

 ただ、課題もある。番組リスナーのネット(radiko)利用は増えているが、ネットで番組を知ってラジオを聴くようになる人が少ないという。番組プロデューサーでディレクターも務めるKissの井上隆平さん(45)は「ながら聴きではなく、あえて聴こうと思ってもらえる番組にしなければ」と話す。ラジオがネットをてこに成長するのに何が必要なのか。10BLOCKSの挑戦は続く。

 広告媒体としてのラジオのこれからについて、立命館大学産業社会学部の小泉秀昭教授(広告論)に聞いた。

――広告収入を柱とするラジオ局の経営は厳しさを増しています。今後の見通しはどうでしょうか

 「ラジオは基本的に可能性を多く持っていると思います。ラジオ番組をインターネットで配信するradikoの登場でデジタルメディアとの融合がはかられる。radikoを利用する聴取者の年齢層や居住地、好みなどのデータはある程度取得できるので、広告の可能性が広がった。それに伴い新しい表現の開発も必要になるでしょう」

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――radikoの今後の課題は何でしょう

 「他にも音楽や映像作品を配信する定額制サービスが多くある中で、ラジオならではの価値を伝えて有料会員を増やせるかどうかです。また広告効果を広告主に具体的に示すため、効果測定を精緻化することが必要でしょう」

――ネット時代にラジオ広告は有効でしょうか

 「現在のネット広告は、ターゲットとなる閲覧者や掲載ページの内容を分析しながら配信する『運用型』が中心。自動化も進んでいるが、広告主のブランドを傷つけるような場所への表示を避ける仕組みを確立するには手間もかかります。一方、ラジオは番組内容などから聴取者像がみえやすい。多少費用が高くても、広告を出す場として適切だと評価する広告主もいると思います」

――音声だけの広告は不利ではないでしょうか

 「音だけの情報からイメージを膨らませるラジオショッピングなどは効果が高いようです。面白いものも多いですよ。長尺のドラマ仕立てのCMもあります。テレビより時間が長く取れる他、比較的低コストで作れるメリットがあり、自由度が高い。アイデア勝負です」

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