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» 2021年05月26日 07時00分 公開

テレワークで広がる「ワーケーション」 地方再生の“切り札”なるか

テレワークの普及により注目を集めるワーケーション。これを移住者増加のチャンスと捉え、地方再生につなげる動きも出てきている。

[産経新聞]
産経新聞

 旅先で休暇をとりつつ仕事もする「ワーケーション」が注目され始めた。コロナ禍でテレワークが普及し、PCがあれば場所を選ばず仕事できる環境が整ってきたからだ。ワーケーションが移住者増加につながれば、地方再生の切り札にもなる。

photo 都市近郊ながら目前に海が広がるリゾート感が魅力の貸し別荘「関空オーシャンフロント」。最近は家族連れのワーケーション客も増えている=大阪府阪南市(同施設提供)

 朝は暗いうちから起き、いてつく寒さの中をランニング。息は白いままだが身体にはじわり汗がにじんでくる。日中は滞在中のホテルの1室で仕事。疲れれば散歩に出て、雄大な石狩川の眺めにわれを忘れる──。

 2020年10〜11月、東京都港区のアプリ開発会社に勤める佐伯航平さんが体験した北海道旭川市でのワーケーションの1日だ。ホテルは素泊まりで1カ月で約9万円。自腹で負担した。

 「気分転換が図れ、仕事がはかどった」。こう振り返る佐伯さんは再びワーケーションをしようと考えている。「次はサーフィンをしながら仕事したい」。

 こうした新しい働き方のニーズを取り込もうとホテルが動き出した。佐伯さんが滞在した星野リゾートの「OMO7旭川」は20年30連泊のプランを発売し、館内の会議室をワークスペースに転用する取り組みを始めた。佐伯さんが利用したのはこのプランだ。

 20年10月から全国の道の駅に隣接して拠点を広げているホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」はコロナを機に、豊かな自然や通信設備が整う共用ラウンジを武器として、ワーケーション客の呼び込みにかじを切った。

移住につなげる

 旅行会社も同様だ。JTBは20年、550以上の農山漁村観光とワーケーションを組み合わせる事業を本格化。要望に合わせた宿泊先や滞在先でのプログラムを企業に提案している。

 「リピーターや長期滞在が多くなれば地域の人と多様な関わり方をする『関係人口』が増え、地域づくりの担い手になる」。JTBの関係者はこう語り、地域に貢献できるとした。

 人口減に苦しむ自治体は、ワーケーションや、その一種である「2拠点生活」が移住者の増加につながると期待する。2拠点生活は都市に生活の拠点を残し、週の数日は田舎で暮らすライフスタイルだ。

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 兵庫県丹波篠山市は、20年度の転入者が19年度の約1.8倍となる124人と過去最多を記録した。奏功したのは、20年11月に始めた農作業や飲食店員の就業体験などができるツアーだ。同市での「暮らし」に興味を持つ人が増えた。

 21年6月には、京都府南丹市、滋賀県高島市、JR西日本と共同で、1カ月以上の移住が試せる事業を始める。空き家を活用した賃貸住宅を用意し、JR西は通勤時の特急料金などサブスクリプション(定額制)サービスを提供。ワーケーションや2拠点生活、さらには移住者の呼び込みにつなげたいと考えている。

「予定なし」56%

 ワーケーション客をあてこんだ動きは都心や都市近郊でも活発だ。東急は4月から全国39の傘下ホテルを定額で泊まり歩ける住み替えサービスに乗り出した。

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 だが、今のところ従業員のためワーケーションを導入する企業は少数派だ。調査会社クロス・マーケティング(東京)が20年9月発表したアンケートでは、ワーケーションを自社で「導入済み」と答えた就業者はわずか7.6%。「導入の予定なし」は56.6%だった。懸念される点として「仕事と休暇のメリハリがつきづらい」「情報漏えいが不安」などが上がった。

 ワーケーションは普及するのか。星野リゾートの星野佳路代表は「労働時間を把握しづらいといった課題を企業が解決できなければ制度として残りづらい」と指摘する。

 「仕事と休暇の融合が公私混同だという拒否感が最大の障壁だ」。こう語るのはワーケーションを研究する山梨大学の田中敦教授。ワーケーションの普及には、企業、個人ともに利点を理解することが求められる。

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