ITmedia NEWS >
ニュース
» 2021年07月08日 07時00分 公開

“認知機能ケア”で市場創出なるか 食品大手でサプリやスマホアプリの開発相次ぐ

長寿社会の進行で認知症への関心が高まる中、大手食品メーカーが中高年をターゲットに、自社研究を基にした新成分による認知機能ケア食品を相次いで市場投入している。これに付随し、認知症の進行を確認する手段として、スマホアプリやゲームの開発が進んでいる。

[産経新聞]
産経新聞

 長寿社会の進行で認知症への関心が高まる中、大手食品メーカーが中高年をターゲットに、自社研究を基にした新成分による認知機能ケア食品を相次いで市場投入している。他の健康食品などと異なり摂取効果を体感しにくいのが“弱点”だが、メーカー側は日頃の健康管理や認知機能を鍛えるための無料アプリも開発し、市場規模の拡大に知恵を絞る。

photo キリンビバレッジの「キリン βラクトリン」(写真左)と味の素の「脳活セブンアミノ」はともに自社研究を基にした認知機能ケアのための機能性表示食品だ

 「発売後、どこで売っているのかと問い合わせがしばらく続いた。商品発表報道を基にした反応だろう。(エーザイなどの)アルツハイマー病治療薬の米国での承認報道もあって、認知症対策への関心が高まったと感じる」。キリンビバレッジ企画部新規事業開発室の上野健史担当部長は、5月11日発売の機能性表示食品「キリン β ラクトリン」への手応えをこう語る。

 親会社のキリンホールディングスが2015年、東大との共同研究でカマンベールチーズに含まれる成分が記憶力維持に役立つことを発見。これは牛乳由来のペプチド(アミノ酸化合物)βラクトリンによる機能と判明したという。記憶力の改善についても臨床試験で確かめた。

 1日のβラクトリン目安摂取量1.6mgはカマンベールチーズ4kg相当だが、手軽に摂取できるよう100mlの小瓶入りのヨーグルト風味の飲料に仕立てた。

 ターゲットは60代、70代で「その次に物忘れに不安を感じる50代。説明を尽くしたいので店頭説明ができるスーパーやドラッグストア、ネット販売に限っている」と上野氏は話す。

 記憶力改善を体感するには毎日取り続ける必要がある一方、足腰ケア食品で腰の痛みが軽くなるような体感も薄く、血圧のように自分で測定できる指標もない。このため、記憶力や集中力、素早さなど5つの要素を鍛える脳トレゲーム、食事や歩数といった健康情報も管理するスマートフォンアプリ「KIRIN毎日続ける脳力トレーニング」を無料配信し、摂取の習慣化と体感提供に取り組む。高齢者施設との連携もテスト中で、今後は「Web上で体験を共有できる場を作りたい」という。

 富士経済によると、認知機能サポート食品の国内市場は、サプリメント部門が19年に前年比7%増の168億円に達した。「イチョウ葉」や「DHA、EPA」「ヒスチジン」など成分の“顔ぶれ”に大きな変化はないが、20年、21年も市場伸長を予測する。

 背景にあるのは認知症となることへの危機感の高まりだ。認知症は発症する10〜20年前に物忘れ程度で日常生活に支障がない「軽度認知機能障害」(MCI)という“一歩手前”の時期がある。MCIは早期発見と対策で健常な状態に戻ったり、進行を遅らせたりできるという研究結果もある。アルツハイマー病治療薬の一連の報道は、そんな現状を認識させた。

 団塊世代が後期高齢者入りする22年が来年に迫る中、国内の社会環境を大きな事業機会としてとらえたのが食品大手の味の素だ。長年のアミノ酸研究を基に同社初の認知機能ケアの粉末状サプリ「脳活セブンアミノ」を自社通販で5月25日に発売した。

 西井孝明社長は5月のオンライン会見で、「約40年前、バイオテクノロジーとアミノ酸の可能性にひかれ入社した。社長としてアミノ酸の働きで世の中の役に立つ仕事に挑戦できるのは喜びそのもの」と語り、認知機能に不安を持たない社会実現への挑戦を誓った。

 脳活セブンアミノも機能性表示食品だ。ロイシンやフェニルアラニンなど7種の必須アミノ酸の独自配合比を見いだし、臨床研究で認知機能を構成する「注意力」「認知的柔軟性」の維持に加え、明るく楽しい気分などの「前向きな気持ち」をサポートする結果を導いた。粉末のサプリに仕上げ、1日2本(1本4g)で目安量が取れる。1箱60本入りで9720円、1日当たり324円だ。

 また、国立長寿医療研究センターとの共同研究を応用したスマホアプリ「100年健脳手帳」を開発。食事、運動、睡眠の記録を解析して可視化する。食事メニューの分析では、不足する栄養を補うメニューレシピも提案する。

 味の素は20年、早期がんなど疾病リスクを判定する血液検査「アミノインデックス」に、認知機能低下リスク診断を導入した。同血液検査は人間ドックを行っている医療機関などで受けることができる。

 今回のサプリやアプリによる日常生活サポートなどを統合的に展開して、24年に認知機能関連事業で100億円規模の売上高創出を目指す。今後は、社外協業で脳トレゲームの提供や、将来的には銀行や保険など金融業界との連携も視野に入れているという。

 新型コロナウイルス禍で日常は一変した。高まった健康意識に加え、暮らし方や生き方の見直しはあらゆる世代に広まっている。認知機能ケアが一般化する日はすぐそこまで来ているのかもしれない。

(経済部 日野稚子)

copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.