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» 2021年09月03日 10時00分 公開

選手村のトヨタ自動運転バス事故 「現実に近い」

 終盤を迎えている東京パラリンピックだが、5日の閉幕後も尾を引きそうなのが8月26日に発生したトヨタ自動車の自動運転バスの接触事故だ。けがをした選手が競技を棄権するといった最悪の事態に発展し、事故原因もまだ捜査中だ。トヨタは障害者への配慮が足らなかったとするが、有識者からはパラリンピックの選手村こそ、現実の環境に近いとの指摘も上がる。

[産経新聞]
産経新聞

 終盤を迎えている東京パラリンピックだが、5日の閉幕後も尾を引きそうなのが8月26日に発生したトヨタ自動車の自動運転バス「e-Palette」(イーパレット)の接触事故だ。けがをした選手が競技を棄権するといった最悪の事態に発展し、事故原因もまだ捜査中だ。トヨタは障害者への配慮が足らなかったとするが、有識者からはパラリンピックの選手村こそ、現実の環境に近いとの指摘も上がる。自動運転の実用化に向け、課題の洗い出しが急務だ。

 トヨタなどによると、事故はパラリンピック選手村にある信号機のない丁字路をバスが右折する際に発生した。バスは事故にあった選手とは別の人の存在を検知し、横断歩道の前でいったん停止。その後、バスに搭乗するオペレーターが安全を確認しバスを発進させた。すると左前方から視覚障害のある柔道男子81kg級代表の北薗新光(あらみつ)選手が横断してきたのをバスのセンサーが検知し自動ブレーキが作動。オペレーターも緊急ブレーキをかけたが停止前に北薗選手と接触したという。

photo トヨタ自動車の電気自動車「e-Palette」

 なぜ、事故を回避できなかったのか。オペレーターの判断ミスやバスの技術的な問題などが考えられるが、現場にいた交差点の誘導員や選手側に問題があった可能性もあり、警視庁月島署などが慎重に調べている。

 事故を受けて27日に記者団の取材に応じた豊田章男社長は「パラリンピック会場なので、ひょっとしてという想像力、配慮が欠けていた」と述べた。しかし、自動運転に詳しい国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏は「今回の事故を特殊なケースとしてとらえるべきではない」と話す。一般の道路でも泥酔した人やスマートフォンを見ながら横断する人はいるからで、「事故を教訓に課題を洗い出すことが重要だ」と指摘する。

 今回の事故では情報発信のあり方も検証が求められそうだ。選手の出場機会を奪うという重大な事案にも関わらず、トヨタが事故を公表したのは翌日になってから。しかも、自社サイト「トヨタイムズ」で状況を説明した後に、豊田氏がマスコミの取材に応じただけで、正式な記者会見の場は設けていない。

 警察が捜査中の案件で詳細な説明が難しいとの事情はあるが、自動運転に対する国民の理解はまだ十分ではない。自動運転は事故の発生率を飛躍的に下げることが期待される一方で、事故リスクをゼロにすることは不可能だ。

 場合によっては歩行者が今以上に注意することでようやく実装できる技術なのかもしれない。そのことは豊田氏自身も「(自動運転では車だけでなく)インフラ整備やユーザーの倫理観も重要だ」と話している。それだけに事故についての十分な説明は、国民が新たな技術を受け入れる素地を作るうえでも重要で、業界をリードする企業としての対応が求められている。(蕎麦谷里志)

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