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» 2021年09月06日 07時00分 公開

世界有数のオーケストラが音楽教育に進出、日本でも ロンドン交響楽団がアプリ活用で

世界有数のオーケストラ、ロンドン交響楽団(LSO)が活動の使命の一つとして教育プログラムに積極的に取り組んでいる。その教材集を含むアプリケーションの日本語版がWeb上で初公開され、東京都内の中学校などでさっそく授業に活用された。音楽家も演奏だけでなく、教育を通じて地域に貢献する時代。オンラインでならコロナ禍で演奏会が難しい状況でも成果と貢献が期待される。

[産経新聞]
産経新聞

 世界有数のオーケストラ、ロンドン交響楽団(LSO)が活動の使命の一つとして教育プログラムに積極的に取り組んでいる。その教材集を含むアプリケーションの日本語版がWeb上で初公開され、東京都内の中学校などでさっそく授業に活用された。音楽家も演奏だけでなく、教育を通じて地域に貢献する時代。オンラインでならコロナ禍で演奏会が難しい状況でも成果と貢献が期待される。

photo 中学校の音楽の授業で指導する日本人音楽家(左)=7月19日、東京都渋谷区立上原中学校ブリティッシュ・カウンシル

 LSOは教育を活動に欠かせないものと位置付け、誰もが参加できる音楽づくりの機会と、それを提供できる音楽家の育成に力を入れている。1990年に先駆的なプログラム「LSO Discovery」を立ち上げ、ワークショップリーダーで作曲家のレイチェル・リーチさんを中心に年間6万人以上の人々に音楽と触れる機会を提供してきた。

 その一環で創作の機会を得た若い音楽家らによる演奏が2012年ロンドン五輪の開会式で実現した。東京五輪を迎えた21年7月には、アプリ「LSO Play」日本語版の無料配信をWeb上で開始した。

 サイモン・ラトルら一流指揮者の公演を演奏家の解説とともに鑑賞できるほか、見る角度を変えることで演奏者の手の動きなどが分かる。楽曲ごとに音楽の授業で活用できる教材集も含まれ、日本の学校教育ではめずらしいクラシック音楽を題材にした音楽づくりの授業が可能になった。

中学生が授業で体験

 日本でも音楽づくりの大切さが提唱され、学習指導要領に盛り込まれた。英国の公的な国際文化交流機関「ブリティッシュ・カウンシル」はLSOと協働し、多様な地域社会との新たな関係構築を模索するプロジェクト「Discovery for 2021」を日本で展開、アプリを使った音楽の授業や音楽家の指導に取り組んでいる。

 7月にさっそく、東京都の渋谷区立上原中学校でアプリを活用した音楽の授業が行われた。2年生を対象に全員が演奏を楽しみ、創造力を発揮できるよう、LSOのリーチさんの指導を受けた日本の音楽家3人が協力。生徒は事前授業で、アプリを通じて課題曲「牧神の午後への前奏曲」(ドビュッシー作)の演奏映像を鑑賞し、曲へのイメージを膨らませ、授業で自由に音楽づくりを行った。

 日本人音楽家は交響楽団の演奏者で、「アプリは作曲家の疑似体験ができ、作曲家の意図を教育現場に生かしている。リモートにも向いており、教師の特技を生かした授業ができる。いったん音楽の現場を離れることも大事」と話す。

 生徒は自由に楽器を選び、間違わずに弾くことよりも自由を尊重する。「英国の音楽教育に共通するのは自由な発想と多様性。一つの音でも音楽というところがある。楽器は発言できなくても表現できるツール。うれしい音楽、悲しい音楽が奏でられるようになる。本当はそういうことが音楽の根本にあったのではないか」とも指摘する。

 「外国の教育との差は、考えるゆとり。いわゆる“ゆとり教育”ではなく、話し合う時間が大事だ。一方で、違うと言われたときに行動を起こすのは勇気がいる。音楽をきっかけに勇気を出していけば、ほかでもチャンスをつかめる」。そう気づくと音楽家として活動も変わるという。

 LSOのマネージングディレクターは「コロナ禍を機に、プログラムのオンライン配信を急速に再構築した。アプリの配信は活動を続けていくうえで貴重な財産となる」と話している。

高齢者や障害者とも

 活動は高齢者や障害者との音楽づくりでも行われている。コロナ禍前の18、19年はリーチさんが来日し、日本の交響楽団の演奏者を対象に音楽づくりを指導するための訓練を行った。その後、東京都墨田区の障害児通所施設と高齢者施設でのワークショップで、LSOと日本の演奏者の指導の下、「展覧会の絵」(ムソルグスキー作)の組曲を基に自由な発想で曲を創作し発表した。リーチさんは「活動によって社会とかかわりを持つことができる。音楽を楽しむのに障壁のある人たちに手を差し伸べていきたい」と話していた。

 一方、川崎市と、障害のある人に音楽サービスを提供する英国の団体「ドレイク・ミュージック」によるプロジェクトも行われている。今年は、日本人音楽家と川崎市内の特別支援学校の生徒がヴェルディ作曲のオペラ「アイーダ」を題材にワークショップを重ねて「かわさき組曲」を創作。8月に東京交響楽団が音楽祭「フェスタサマーミューザ KAWASAKI2021」で演奏した。

 ブリティッシュ・カウンシルは駐日英国大使館と、アートや教育、ビジネスなどの活動を通して日英間の絆を強めるプロジェクト、日英交流年「UK in JAPAN」を展開している。LSOやドレイク・ミュージックとの協働もその一環で、さらに日本の音楽家や組織と連携し、交流を促進していく。芸術に親しむ環境づくりや文化芸術機関の社会的な役割を考える動きにもつながりそうだ。

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