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» 2021年12月13日 07時00分 公開

集団歩行を乱す「歩きスマホ」理論の着眼点 イグノーベル賞受賞の村上久助教

2021年のイグ・ノーベル賞で、「歩きスマホ」が歩行者同士にどう影響するのかを実験した京都工芸繊維大の村上久助教ら日本の研究チームが、「動力学賞」を受賞した。

[産経新聞]
産経新聞

 人々を笑わせ、考えさせられるユニークな研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」。2021年は、「歩きスマホ」が歩行者同士にどう影響するのかを実験した京都工芸繊維大の村上久助教(34)ら日本の研究チームが、「動力学賞」を受賞した。大学時代から動物の「群れ」に興味を持ち、鳥や魚、カニなどの動きを調べてきたという風変わりな発想がヒントとなり、世界的な栄誉に輝いた。

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すれ違うときの“呼吸”

 「受賞の反響はとても大きく、こうして研究分野が注目されるのは非常にうれしい」

 長髪に鮮やかなシャツ姿で、話し方も穏やかでくだけた雰囲気――。一般的な大学教員のイメージとはだいぶ異なるが、研究の話題になると話は尽きない。

 歩きながらスマートフォンを操作する「歩きスマホ」。端末に視線を取られて周囲への注意がおろそかになる危険性が指摘され、東京消防庁のまとめによると、16〜20年の5年間に、歩いたり自転車に乗ったりしながらのスマホ操作による事故で管内で196人が救急搬送された。

 今回受賞した実験では、27人ずつの集団が対面して10mの道をすれ違う状況を仮定。通常は歩行者が列を作ってスムーズに進むが、片方の集団の3人が歩きスマホをしたところ、両方の集団の列が乱れ歩行速度も低下した。

 「スマホを持っている集団がうまく歩けないのは予想していたが、持っていない集団の列も乱れていたのは意外だった」

 分析すると、一部が歩きスマホをしているだけで、本人だけでなく周りの人の歩行も乱れ、ぶつかる直前に大きくかわすようになることが判明した。「裏を返せば、普段私たちが歩いてすれ違うとき、互いの行動を予想しながら、一種の『あうんの呼吸』で歩いているということになる」と指摘する。

動物の群れがヒントに

 大阪府八尾市出身。神戸大に入るまでは、群れの習性には一切興味はなかったが、4年時の恩師との出会いが人生を変えた。恩師の研究分野は、哲学から計算科学までと幅広かった。その中のテーマの一つが「群れ」だった。

 鳥や魚などの群れは、細かく見れば一羽一羽は少しずつ違う動きをしているのに、全体では一つの秩序だった動きを保つ――。

 「そこにどのようなメカニズムがあるのか興味を持った」。主に動物の群れの動きを計算で解明したりする研究にあたってきた。

 大学院の修士課程のときには、数千匹といった群れで行動する「兵隊ガニ(ミナミコメツキガニ)」の動きを研究するため、沖縄・西表(いりおもて)島に1カ月滞在し、炎天下で研究を続けたことも。以降もアユや他のカニなどを対象に研究を続け、個体がある程度の自由を持ちつつ、集団の輪を乱さないよう互いに協調しながら動いていることを解き明かしていった。

 18年には、渋滞学の第一人者でイグ・ノーベル賞を共同受賞した東京大の西成活裕教授のもとで歩行者の研究に従事。互いに動きを読み合う動物の群れの研究で分かった現象について、人間の歩行時でも起こり得るのか確認した結果が、今回の成果につながった。

面白い研究者「大歓迎」

 今回の研究成果は面白いだけでなく、歩行者の事故防止など社会にも役立つ内容が含まれており、「より正確に歩行者の動きをシミュレーションできるようになれば、混雑や事故が起こりやすい場所を知ることができるかもしれない」と強調。災害時の安全な避難行動などにもつながればと期待する。

 世の中は、面白いことや不思議に満ちあふれており、ユニークな発想、着眼点が世紀の大発見につながるケースは数多くある。若き受賞者はこう期待を込める。

 「自由に面白いことを考えて実験できるのは何ものにも替え難い。科学に興味があったり、実験が楽しいと思ったりしている人はぜひ研究者を目指して。面白い研究をする研究者が増えるのは大歓迎」

(秋山紀浩)


むらかみ・ひさし 大阪府八尾市出身。小学校のころは山登りが好きで、友達と近くの信貴山に登って遊んでいた。神戸大理学部に進学し、独自の生命理論を展開する郡司幸夫教授の研究室に所属。哲学と計算科学の専門書を同時に読み進める奇抜な指導を受け、教授や同級生と日夜討論して深めた知識が現在の基礎となった。18年に東京大先端科学技術研究センター特任助教に就任。21年1月からは、京都工芸繊維大の情報工学・人間科学系助教を務めている。

photo イグ・ノーベル賞を受賞した京都工芸繊維大の村上久助教。記念のトロフィーは紙製で自分で組み立てたという=10月、京都市左京区(渡辺恭晃撮影)

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