「性的同意」をスマートフォンのアプリで──。婚活事業を展開する会社が性的行為のデジタル同意書を作成するアプリ「キロク」を開発した。不同意性交や不同意わいせつの罪を新設した改正刑法の規定内容を互いに確認し、同意ボタンをタップするシステム。だがサービス内容を発表するや、その実効性を疑問視する声が噴出。会社はサービス提供をいったん見送る事態となった。
「同意があったと思っていても、後から違うと言われたら…」
キロク開発のきっかけは、会社が提供する婚活パーティー参加者のこんな不安の声だった。
性犯罪規定が見直された改正刑法は7月に施行された。従来の強制・準強制わいせつ、強制・準強制性交の罪をそれぞれ不同意わいせつ、不同意性交罪に統合。「同意しない意思の形成、表明、全うすることが困難な状態」を要件とし、こうした状態を作出する行為を8つの類型で示した。
暴行・脅迫を手段として不同意状態にさせる場合の他、アルコール・薬物を用いたり、上司と部下といった関係性を悪用したりするケースも罪に問われる。
もっとも、性的行為が行われるのは第三者が介在しない場所のため、冤罪(えんざい)発生の懸念はぬぐえない。立法過程では「お酒を飲んで、ちょっといい気分で、別に積極的な同意ではないが、不同意とも言いづらい状況」が不同意状態になるのか、との議論も交わされた。
政府側答弁によると、同意の有無は被害者の内心(主観)に着目するのではなく、条文で列挙した8類型に該当するかどうかで「外形的・客観的」に判断。「同意しない意思」とは「性的行為をしない、したくない意思」であり、いわゆる「ほろ酔い」の場合は「性的行為をするかどうかの選択をする契機、能力があり、同意しない意思を形成できたと考えられる」として、不同意状態には当たらない、と説明された。
とはいえ、要件に該当するかどうかは最終的には個別の証拠ごとの判断になる。そこで弁護士監修のもとで開発が進められたのがキロクだった。
使用方法は性的行為の前に、当事者がそれぞれ自分のスマホでアプリにアクセス。次に刑法の条文を確認した上で「同意します」ボタンを押す。そして画面表示された2次元コードを相手に読み込ませ、情報を共有──という手順。同意の記録は日時、場所(位置情報)を含めてデータに蓄積される仕組みだ。
ただ8月にサービス内容を発表すると、SNSでは「パートナーに同意の大切さを伝えられる」と歓迎の声が上がる一方、「ボタンを押せと脅されたら」「過去の同意記録が流出したらいやだ」と否定的意見も続出、思わぬ波紋を広げる形になった。
このため開発会社は同意後48時間以内であれば「同意書取り消し」可能な機能を加える他、セキュリティ強化のためスマホアプリではなくWebサイトでの運用に変更するなど、リリースに向けて現在も改良を加えているという。
監修した弁護士は、キロクのデータが裁判での証拠の一つになり得るとした上で、「これを機に若い世代にも性的行為には同意が必要との認識が広がれば」と期待した。
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