財務省が8月8日発表した2024年上半期(1〜6月)の国際収支速報によると、貿易赤字は前年同期から半減したものの、22年上半期からマイナスが続き、赤字基調の継続が確認された。米Googleなど海外の巨大ITへの支払いが膨らむことによる「デジタル赤字」という新たな構造的課題も目立つ。生産年齢人口が減る中で、日本が持続的に成長を続けるには、自力で稼ぐ力をつける必要がある。
貿易赤字が続くのは、自動車に匹敵する競争力を持つ輸出産業がないことも響いている。東日本大震災を機に原子力発電所の稼働を止めたことも尾を引く。火力発電所を動かすために石炭や天然ガスを輸入し続けているからだ。
サービス収支は比較可能な96年上半期から赤字が続く。デジタル赤字の拡大が主な要因だ。
これらの課題を克服するにはどうすべきか。7月末に退任した神田真人前財務官主催の私的懇談会がまとめた報告書に、その処方箋が示されている。
その一つは、規制改革により企業間の競争を活性化させ、高い賃金を支払える企業に能力のある人材が集まる世界を作ることだ。
報告書は「労働生産性を上昇させ、1人当たりの付加価値を高めていくことが欠かせない」と指摘。取り組みが進めば、投資対象としての日本企業の魅力も高まり、内外の資金が集まることも期待できる。
エネルギー分野では、「安全確保を大前提にした原発の再稼働を進めることが喫緊の課題だ」と指摘した。大和総研は原発の再稼働を進めることで、エネルギー輸入額は4.7兆円減ると試算する。核融合や超電導送電など技術革新も欠かせない。
一方、デジタル赤字解消への解はない。日本にGoogleなどに対抗できる企業が出てくることは考えにくい。トランプ前米大統領が返り咲けば、巨大ITを念頭に置いた「デジタル課税」の導入に向けた国際的な議論も停滞しかねない。
懇談会に参加した、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「“デジタル小作人”の日本が地主になるのは無理だ」と語り、ほかに稼ぎ頭を作る必要性を説く。
その一つが訪日客の受け入れ拡大だ。だが、唐鎌氏は「人手不足の日本では、いずれ天井が来る」と指摘する。代わりに、政府が推進する半導体分野の戦略投資が数年後には花開く可能性がある。(米沢文)
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