共働き世帯などの小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)を、子供の夏休み期間に企業内で導入するサービスへの需要が急増している。背景には新型コロナウイルス禍の収束で子供の世話と仕事を両立できる在宅勤務の減少があるようだ。親の仕事場に直接触れられるという公設の学童保育にはない貴重な体験を子供が得られる、と利用者からは好評で、親子の新たなコミュニケーションツールとしても注目されている。
8月9日正午。東京・港区にある総合人材サービス大手パソナグループ本社の社員食堂には、昼食をとる親子の姿が目立ち始めた。
「料理が苦手で、給食のない夏休み中の子供の弁当作りがプレッシャーでした。パソナの学童保育は昼食も準備してくれるので本当に助かっています」
そう話すのは小学3年生の息子を持つ母親で、同グループのパソナHSで執行役員を務める大谷悠さん。同社の学童サービスを利用するのは今年で3年目。夏休み中の約1週間は親子で通退勤する。「親の通勤ルートや仕事内容を子供に知ってもらうことで、親子お互いの安心感の共有にもつながる」と大谷さん。「満員の電車に子供と一緒に乗って通勤したりすることで親への仕事の理解も深まり、子供の応援も感じられる」とそのメリットの大きさを強調する。
同社の期間限定の学童保育サービス「ミラクルホリデー」は、子供たちに英会話や工作、体を動かすヨガなど豊富なメニューを取りそろえているのも特徴だ。利用料は1日当たり(午前9時〜午後6時)昼食付きで1000円。7月22日から8月23日(土日祝日を除く)の期間に、1日15人程度(定員20人)の利用を見込んでいる。
パソナグループでは、2018年から夏休みなど長期休み期間限定で社員向けに学童保育サービスの提供を開始。多くの利用者から好評だったことから、同グループで子育て支援事業を担うパソナフォスターが社外向けにも同様のサービスの展開を始めた。
「親や子供が学童保育に求めることが多様化する中、公設の学童保育にはないワクワク感を感じてもらえる学童保育サービスを提供することで親子の喜びを見える化したいと思った」。同社の長畑久美子社長はサービスを始めた理由をこう説明する。
サービスの提供にあたっては「子供たちに貴重な体験機会を与えて成長を促し、親子の満足感を高める」ことにこだわる。親の仕事について子供に知ってもらうために親が勤める会社の社員とも話す機会を設けたり、公設の学童保育では制限されている施設外の体験活動も取り入れる。
新型コロナの収束で学童保育の待機児童が増加傾向にある中、今年は首都圏や関西圏の企業を中心に同サービスへの問い合わせが前年の約2倍に急拡大しているという。
こども家庭庁が7月に公表した調査報告によると、学童保育に希望しても入れなかった児童は5月時点で1万8462人に上った。前年同月から2186人増加し、5年ぶりに過去最多を更新した。子供を保育園から小学校に上げる際に仕事と子育ての両立が困難になる「小1の壁」が、核家族化と共働き世帯が多い都市部を中心になおそびえている。
こうした状況もあり、近年はパソナ以外にも企業内に独自の学童保育を導入する動きが広がっている。
名古屋市のテーマパーク「レゴランド・ジャパン」の運営会社は、今年4月から正社員やパート社員が無料で利用できる学童保育を本格導入。同社らしく、子供たちがレゴブロックで遊べる大きな遊びスペースや自習スペースを設け、常駐する専門スタッフが対応できる環境を整えた。
また、オイシックス・ラ・大地は7月、子会社のシダックスが受託運営する学童保育約500カ所に、夏休み中の弁当を提供するサービスを開始。学校給食が出ない長期休暇中の「昼食問題」は共働き世帯の大きな課題となっており、こうした昼食提供サービスの拡大機運が高まりつつある。
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